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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

LINE株式会社 代表取締役社長 森川 亮

わずか2年で230ヵ国、1億6,000万人超のユーザーを獲得

ガラパゴス日本だからこそ世界的サービスが生まれた

LINE株式会社 代表取締役社長 森川 亮

サービス開始から約2年で全世界のユーザー数が1億6,000万人を超えた。スマートフォン(以下、スマホ)向け無料通話・メールアプリ「LINE」はFacebookやTwitterを上回るスピードで普及している。運営会社はもともと韓国No.1インターネット企業の日本法人。しかし、「LINE」は日本のなかで企画・開発・運営されている純国産のITサービス。それが世界的成功をかちとった理由はなにか。代表の森川氏に聞いた。
※下記はベンチャー通信53号(2013年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

―サービス開始からユーザー数が1億人を突破するまで、わずか19ヵ月でした。「LINE」が支持されたのはなぜでしょう。

森川:スマホ向けの最適化を徹底的に追求して開発したからです。パソコン(以下、PC)や携帯電話(以下、ケータイ)でヒットしたサービスをそのまま転用するのではなく、スマホに最適なサービスをつくることにこだわりました。たとえば、IDによるログイン機能はつけていません。PCでもケータイでもID認証の必要なサービスは多い。たしかに、複数のユーザーが1台を共同で利用することが多いPCには必要かもしれません。でも、ケータイにそこまで厳重なセキュリティが必要なのか。ID認証が必要なケータイのアプリはユーザーから敬遠されているんです。だから、「LINE」にはつけなかった。電話番号だけで使えるんです。

また、ケータイによるメールでは、顔文字、絵文字、デコメールと、どんどんビジュアルによる表現が豊かになっていきました。ならば、画面が大きいスマホでは、より大きな絵を使ってメールを作成するだろうと。そこから、ユーモラスなキャラクターの絵で感情を伝える「スタンプ」というアイデアが生まれたんです。

―他社もスマホ向けサービスを提供しています。御社が抜きん出ることができた理由はなんですか。

森川:ケータイ向けではヒットサービスを生み出せなかったのが、かえって幸いしたからです。私たちはもともと、NHNJapanという「ハンゲーム」や検索サービス「NAVER」を提供する韓国企業の日本法人。ゲーム分野では、韓国で大ヒットしたオンラインゲームを日本市場向けにカスタマイズして、2000年から提供を始めました。3年目から急激に業績が伸び、PCオンラインゲーム市場ではNo.1に。しかし、2005年ごろからケータイのソーシャルゲーム市場が伸びてきた。そこでケータイゲーム市場にも参入しましたが、グリーやDeNAほどには成長しませんでした。

一方、検索サービスでは、2007年にネイバージャパン株式会社を設立。2年後に「NAVER」を提供開始しましたが、すでに日本ではYahoo!やGoogleなどの検索サービスが圧倒的に強く、浸透していました。「NAVERまとめ」サービスはユーザーから支持されましたが、SNSとしての利用者数は伸び悩みました。モバイルへ端末がシフトするのにうまく乗れなかったんです。でも、試行錯誤のなかでデザイナーやエンジニアなど優秀な人材が集まり、ノウハウを蓄積できた。そんなときスマホが登場。成長市場になると直感しました。

―どのように対応したのですか。

森川:PCでもケータイでも、いちばんヒットしたサービスはメールをはじめとするコミュニケーションツールだった。そう分析して、「LINE」を開発するチームを立ち上げたのです。PCやケータイ向けのサービスでヒット商品をもっていた他社は、それをスマホ向けに転用するところが多かった。でも、それでは使いにくかったり、スマホならではの機能が組みこまれていない。一方、私たちはゼロからスマホ向けサービスを開発した。だから、差をつけることができたんです。

―「LINE」は日本で開発されました。日本ならではの強みが活かされている点があれば教えてください。

森川:おもに2つあると思います。ひとつは、モバイル端末におけるサービスについて、世界でいちばん豊富な経験をもつこと。ケータイでメールや画像をやりとりするカルチャーが、世界でいちばん早く始まった。スマホ登場以前から、モバイル端末で本を読むサービスが普及していたのは、日本ぐらいなもの。 それは「ガラパゴス」といわれ、日本のなかだけでの進化でした。でも、そのおかげでスマホ向けサービスを開発するにあたり、応用可能なコンテンツやビジネスモデルを豊富にもっていた。「LINE」の開発チームにもケータイ向けサービスを開発した経験がある人材がいて、その技術を活かすことができました。もうひとつは、世界でも評価の高い、洗練されたコンテンツづくりのノウハウ。ユーザーから圧倒的に支持されている「スタンプ」は、それがあったからこそ開発できたのです。

―開発にあたって、とくに心がけたことはなんですか。

森川:あれもこれもと、機能を盛りこみすぎないことですね。開発チームでは「できるだけシンプルに」を合言葉にしていました。機能は最小限に。画面のデザインも簡素で見やすいものに。情報が次から次へと送られてくるツールだからこそ、わかりやすく整理されたカタチで情報を閲覧できなくてはいけないからです。日本は戦後、ハードウェアの技術革新によって経済発展を遂げました。その成功体験が忘れられず、ソフトウェアの分野でも技術的にできる機能はなんでも盛りこんでしまうようになった。それがかえってユーザーにとって複雑で、使いにくいものになっている例がたくさんある。日本のモノづくりが凋落してしまった一因だと思います。その二の舞にならないよう、「LINE」はシンプルさを追求したのです。
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