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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

松井証券株式会社 代表取締役社長 松井 道夫

我は我なり

松井証券株式会社 代表取締役社長 松井 道夫

※下記はベンチャー通信6号(2002年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

―これから就職活動をする学生に何かアドバイスを頂けますか。

松井:いいとこ取りをしなさい、と言いたいです。今までのようにいっせいに22歳で就職をするという時代はもう終わりましたからね。例えば、アメリカではIBMに入っても何の評価もされません。IBMのどこのポストに入ったのかということが重要なのです。日本でも、これからはそういう時代になると思います。なにも、大企業に入っても意味がないといっているのではありませんよ。大企業には優秀な人がたくさんいるし、留学や海外研修等の制度が整っているところが多いですから、。そういったものを大いに利用しなさいと言っているのです。 今私は、一律初任給制を廃止しようという提言をしています。当たり前のことですよね。アメリカで言えば、ハーバード大学を卒業した人は初任給30万円からスタートします。また、ある人は50万円からだし、15万円の人もいます。それは今までのその人の努力を買って、成績がよいならばそれを認めようじゃないかということです。もちろん、実際に30万円で雇っても、仕事の能力がなければもちろん即解雇です。その方が人間的で公平でしょう。アメリカはそういう社会なんです。では日本の場合はどうでしょうか。要するに、入社したら大学のことは忘れましょう、という感じです。冗談じゃないですよね。ですから、将来的には、たとえ同じ大企業に入ったとしても、幹部候補生として初任給50万円からスタートする人と、初任給15万円からスタートする人が出て来てくるのです。両者には天と地ほどの差が出ます。そういう時代が、近い将来必ずきますよ。

―今、起業したい若者についてはどのように思われますか。

松井:私に言わせれば、学生や卒業したてで起業したいなどという人には、クソして寝てろと言いたいです。起業なんてそんな簡単にできるわけありませんよ。しかし、一概に全てがダメだと言うわけではありません。若い人のほうが素晴らしいアイデアを発想することができたり、最新の技術を吸収するのが早いですからね。しかし、そのようなアイデアや技術がある人はわずか一握りの人間の話であって、やはりそれなりの経験を積んで、35歳頃に起業すればいいのではないかと思います。決して、起業するなと言っているのではありません。ただ、すぐに起業するよりも、それまでに何回も失敗をして経験値を高めていくことの方が、はるかに重要なのではないかと私は思うのです。

―日本人は、自己主張が苦手な人種だと言われてきましたが、そのことについてはどう思われますか。

松井:これからは、主張する人でなければ「個」が埋没してしまう時代がやってきます。自分は他の人とここが違うのだということを誰もがアピールできなければならなりません。あの人じゃなければこの発想はできないなとか、この人の知識には誰もかなわないとかそういったことが、大きな価値を持つようになり、結果として他の人との差別化がはかれるのです。単純に成績が良い悪いでは比較できないのです。経営者や企業の立場から見れば、体力だけで考える頭のないひと昔前の体育会系的人間は、もはや必要ありません。そんなことは機械に任せればいいのです。一番必要なのは、「我は我なり」と言えるような、しっかりとした自分の考えをもっている人間です。つまり、自分で主張し、責任を持って仕事をやり遂げる人です。もちろん、主張する以上は、周りの人間を納得させるだけの根拠を持っていないとダメですよ。その力は一朝一夕には身につきません。

―周囲の人たちを巻き込む力を身につけるにあたって、どのような努力をすればいいとお考えですか。

松井:視点の持ち方を常に意識し、「考える」ことが大切です。相手を説得するためには、難しい事柄をできる限り平易な言葉で、噛み砕いて説明する力が必要なのです。これは一見簡単なようですが、本当に難しいですよ。そのためには、プライオリティ(優先順位)を明確にして、無駄なものを切り捨てていくという作業ができなければいけません。ですから、常に何が本質なのか、何が一番大切なのかということを考え続けることが重要なのです。

―最後に起業したい若者に向けて、メッセージをお願いします。

松井:これからの時代はデジタルではなく、逆にアナログがものすごく重要になってきます。とは言っても、デジタルを否定しているわけではありませんよ。つまり、デジタルに変わるべきアナログはどんどんデジタル化すべきだしそうなると考えます。そして、その余力をアナログに注ぐべきだと思います。人間はやはりアナログな生き物ですからね。私は、そのデジタルに置きかえられないアナログ的な感性こそ素晴らしいのだと思います。21世紀はアナログにこそ中心を置くべきなのではないでしょうか。そして、若い皆さんには、そのアナログの感性を研ぎ澄まして欲しいと思います。例えば、インドへ行けば、道端で人が死んでいるわけですよ。感受性の強い時なら、その情景からいろいろな刺激が入ってくるはずです。そういう刺激を受けることで、人間の感性は研ぎ澄まされるのです。さらに重要なのは歴史です。歴史は、人間が行動する上で最大の教科書となります。皆さんにはこれをぜひ学んで欲しいと思います。歴史というのは人類が今までとってきた行動の集積ですから、そこから学べることは非常に大きいです。それを自分なりに分析して、将来の行動指針としてもらいたいですね。そして、人間の行動とはそれほど単純ではないな、もっと複雑な理由があるのだなということが分かる人になってもらいたいです。そうすると、ものを見るときの視点が変わってきますよね。また、経営者として一番大事なことは、思い込みと開き直りです。思い込みがなければ何も行動はできません。しかし、自分を信じて行動した結果、もし間違えたとしたら、もちろんその責任はとらなければいけません。その自分の思い込みに従って行動するためには、皆さんはしがらみのない、自由な立場にいなければなりません。そうはいっても、どんな人にもしがらみはあるのですが、これをしたらあいつの顔がつぶれるなどと言っていては、経営者として判断できません。だから、「自由は死を持って守るべし」です。自由を持たない人間は奴隷と同じですからね。こういうことを覚悟しておかないと経営者というのは務まらないと思います。厳しいかもしれないですが、真剣に努力した結果得られるものはとても大きいと思いますよ。皆さん、頑張ってください。
PROFILE プロフィール
松井 道夫(まつい みちお)プロフィール
1953年長野県生まれ。幼少期より、父の仕事の関係で東京で過ごす。一橋大学経済学部を卒業。日本郵船に勤務した後、妻の実父がオーナーを務める松井証券に入社。1988年取締役となり、1995年より代表取締役社長に就任する。バブル崩壊直後から今日の自由化を想定し、セールスの否定、店舗廃止、通信取引特化を断行した。1996年、株式保護預かり料を業界で初めて無料化し、1998年にはインターネット取引システム「ネットストック」をスタートさせた。1999年秋の証券ビッグバン、委託手数料自由化以降、飛躍的に業績を伸ばし、現在ではインターネット証券取引の最大手となり、信用取引高で業界の王者、野村証券を抜き業界一位となる。そして、2001年8月、東証一部に念願の上場を果たした。
企業情報
設立 1931年(昭和6年)
資本金 111,943,654,736円(平成22年3月31日現在)
従業員数 108名(平成22年3月31日現在)
事業内容 金融商品取引法に基づく金融商品取引業[登録番号関東財務局長(金商)第164号]
URL http://www.matsui.co.jp
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