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教育業界の起業家インタビュー

教育失敗しても挑戦し続ける「クオリィアな人財」を世に出すのが使命

株式会社アカデミー 代表取締役社長 河内 宏之

いまから40年前、自宅の裏庭につくった小さな塾から始まったアカデミー。毎年100人単位で生徒数は増え続け、現在は幼児から高校生までの一貫教育を提供する塾として、栃木・東京に65拠点を有し、海外進出も予定している。少子化で子どもの数は減少。塾同士の競争が激化し、生き残りも厳しさを増すなかにあって、なぜ成長できたのか。同社代表の河内氏に、教育への想いや今後のビジョンについて聞いた。

※下記はベンチャー通信64号(2016年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

本気で生徒に向き合ったから今日がある

―河内さんは銀行員だったそうですね。塾経営に携わったきっかけはなんですか。

 生活費を稼ぐ必要に迫られたことです。もともと起業志向があり、「渡米してビジネスを始めよう」などと思い、3年で銀行を辞めるつもりでした。ところが入行後しばらくして父が亡くなり、母ひとりを残してアメリカに行くわけにもいかず、「次の進路を決めるまで」と、近所の子どもたちに勉強を教え始めたのです。

 小学校の廃品回収でもらった机を並べただけの、小さな教室を実家の裏庭につくり、「杉の子塾」と名づけました。それが1976年です。

 1年経って100名、2年経って200名、3年経って300名と年々生徒が増えていき、塾経営をやめるにやめられなくなりました。スタートから4年後の1980年、生徒も400名を超え、「杉の子学習塾」として法人化しました。

―「次の進路を決めるまで」のいわば、中継ぎ的に始めた事業がどうしてそこまで成功したのでしょう。

 私はいちど仕事を始めると熱中するタイプで、生徒一人ひとりに真剣に向き合ったからだと思います。「杉の子塾」を始めた当初のこと。通ってくる子どもたちのなかには、進学塾には入れないような子どももいました。なかには不良っぽい子も。私は彼らが宿題を忘れてきたり、授業中におしゃべりでもしたりしようものなら本気で怒りました。「勉強したいと思ってここに通ってきている人の邪魔はするな。話したいのなら外に出て話せ」と。外に出てそのまま帰ってこなかった子もいますよ。でもね、不思議と次の日、またやってくるんです。そんな生徒のひとりが大人になって街で出会ったとき、「あのころ、あんなに本気で怒ってくれたのは先生だけだった」と言われました。自分の子どもを入塾させた元生徒もいます。うれしかったですね。

―河内さんが教える際に大切にしていることはなんでしょう。

「人間として当たり前のことができる人に育ってほしい」という想いです。塾の教師ですから成績を上げ、行きたい学校に合格するための支援をするのは当然。でも、それだけではなく、「誰かに助けてもらったら『ありがとう』と感謝する」「人がイヤがることはしない」など、勉強以外の大切なことをおぼえてほしいのです。誤解をおそれずに言えば、志望校に合格することは目先の目標です。受験に勝って、それで終わるような人生を子どもたちには歩んでほしくないのです。将来世の中に出てから成功して、社会貢献できるようなことはとても大切だと考えています。それでこそ、子どもたちは本当に幸せになることができると思うのです。

すべての子どもたちはダイヤモンドの原石

―その考えを端的に示すのが「クオリィアな人づくり」という企業理念なのですね。

 はい、そのとおりです。クオリィア(QUALIER)は、QUALITYとFRONTIERの造語。「クオリィアな人」というのは、「未来を切り拓く上質な人」という意味で、智力・人間性・体力において群を抜き、その地域・時代で光輝く人生をまっとうできる人財です。

 たとえば、リンカーンやヘレン・ケラー、ナイチンゲールなど社会の進歩に大きく貢献して歴史に名を残した人たち。あるいは発明王のエジソンやiPhoneを開発したスティーブ・ジョブズなど、私たちの生活を変えた偉人。歴史の教科書には載らないかもしれませんが、イチローはメジャーリーグで記録を残し、多くの人に夢や希望を与えています。

「アカデミーに通う子どもたちにもそんな世の中を変えられる人になってほしい」との願いから、「クオリィアな人づくり」が企業理念になっています。

「すべての子どもたちは、磨けば光るダイヤモンドの原石」です。では、どうすれば磨けるのか。偉人たちのように何度か失敗し、しかし挑戦し続けて成功することです。「やればできる」という自信をもったとき、子どもたちがみるみる変わっていくことを、私たちは知っています。子どもたちには、偉人の人生に学び、挑戦を続けてほしいのです。そうすることで彼らの可能性を育てたいのです。

―非常に高いレベルの目標を掲げているのですね。並大抵の教育法では実現できないと思います。

 ええ。生徒たちは手抜きや、自信のない教師は鋭く見抜く。指導者が生半可ではいけないのです。人を教育する立場にあるすべての指導者には、「精神性」「作法」「技術」が備わっていなければなりません。だから、これまで私が現場で学んできた教え方や生徒たちへの接し方、そして教師としてもっていなければならない心構えをマニュアルにして、教師たちを徹底的に指導しています。

 そうした心構えをまとめたものが「河内式教師道」。その内容は、①10の教え方理論、②プロ教師魂107訓、③生徒指導心得、の3つです。

―詳しい内容を教えてください。

「10の教え方理論」は「一時一事の原則」などの10の指導原則です。この「一時一事の原則」とは、子どもたちにあるひとつのことを教えているときは、ほかのテーマを混ぜないようにするということ。話が飛ぶと、子どもたちは混乱しておぼえられないからです。

 2番目の「プロ教師魂107訓」は現場で教えるコツのようなものの集大成。たとえば「授業中、教師がホワイトボードに字を書くとき、身体はつねに生徒の方に向けておくこと」。それは背中を向けてしまうと子どもたちが集中しなくなり、私語を始めてしまうからです。そんな細かいノウハウが載っています。

「生徒指導心得」は文字通り教える側の心得を記したもの。「ほめる・認める・自信をつけさせる」といった基本中の基本です。

 そして教師だけではなく生徒たちにも身につけてほしい内容を体系化してまとめています。それが「教育道“クオリィア流派”」です。

マニュアルにより技術と考え方を標準化

―ユニークな名称ですね。具体的な内容を教えてください。

 世の中には「茶道」「華道」などの「〇〇道」があり、さらにそのなかにはさまざまな流派があります。教育道というものもあるはずですし、私たちはそのなかの“クオリィア流派”と考えます。道の追求において実践するべき項目をまとめたものが①心豊かな人になる表(クオリィア・フィロソフィー)、②3つの良き習慣、③生徒心得20訓、の3つです。

「心豊かな人になる表」は心、思考、言葉、態度や表情、仕事のレベルにおいて「なにが心豊か」で「なにが心貧しい」のかを体系化。「3つの良き習慣」は「良きイメージ、良き笑顔、良き言葉」の大切さを教えるもの。「生徒心得20訓」は「徳力」を高めるためのものです。たとえば、「感謝を忘れない」とか「正義を愛する」とか、そういう内容です。教師は「生徒心得20訓」のうちどれかひとつについて、授業の中で5分ほど話をします。こうして、日常のなかで基本を身につけていけるようにしています。

―そうしたノウハウはどのようにして構築したのでしょうか

 内容はすべて、私自身が経験のなかから導き出して蓄積してきたものです。塾を始めた当初は私ひとりで運営していたので、そのときに多くのことを得ました。

 その後、社員を雇うようになって、教え方の技術と教育に対する考え方を標準化する必要が出てきました。私は気がついたことは細かくメモを取っていたので、それをもとにして、「河内式教師道」や「教育道“クオリィア流派”」などをつくりました。それらはバージョンアップを重ねて、社員手帳に載っています。

 また、社員手帳には何か問題が起きたときに、それを解決するための指標もあります。社員は困ったことが起きたら社員手帳を見れば、解決方法を知ることができる。会社の方針に沿ったカタチで問題解決を図れるのです。

価値観の共有が人財育成のポイント

―細かい規範をたくさん設けているのですね。教育の考え方以外にもそうしたルールはあるのですか。

 はい、「河内式マネージメント道」があります。生徒や保護者というお客さまから支持され続けるためには、生徒を受験に合格させるだけではなく、プラスαの付加価値をつねに追求する必要があります。たとえば日常的な言葉づかいや行動。その一つひとつがお客さまの感動や感謝につながり、支持が継続するのです。そういう視点からマネージメント道はできています。

 具体的には、①接点力・感動力、②校長の心得:31の指針、③エリア長の心得21箇条、の3つで構成されています。接点力・感動力は、人とどう接するかということ。たとえば、人は誰でも自分の名前を覚えてもらうとうれしいものです。「そういう当たり前のことをしていきましょう」という行動指標です。

―人財育成のポイントを聞かせてください。

 私たちと同じ価値観で仕事をしてもらえれば、自然と「クオリィアな人づくり」の方向に向かって行くはずです。一般企業でも、ソニーやリクルートはそれぞれのDNAをもった社員を多く輩出した会社として有名ですが、私たちもアカデミーとしてのDNAをもってもらうのがポイント。私たちはモノを売っているわけではないので、良質なサービスを提供する社員こそが財産なのです。そのため、教師は原則正社員です。大学生のアルバイトを雇っている進学塾が多いようですが、私たちは教師の質に徹底的にこだわっています。正社員だからこそアカデミーのDNAも伝えられるのです。

カンボジアなどに学校を寄贈し、海外でのスクール事業も

―教師の質を保つためにどんな施策を実行しているのでしょう。

 年間約50回の教務研修を実施しています。また、良質なテキストの検討や、入試教材の開発研究を行っています。年2回、模擬授業コンテストを開催して教師同士で評価し研鑽するなど、授業の技術向上も図っています。

 一般社員も含めた研修としては、役職別に毎月決められた課題図書を選んで論文を発表させる「課題図書研修」、成功者と呼ばれる人を招いての「成功セミナー」、好業績を上げている企業や店を視察する「ストアコンパリゾン」なども実施。サービスの向上や改善への視点をつねに忘れないようにしています。

 また、朝礼は毎朝30分かけ、理念・方針の取り組み事例を発表し、共有しています。全員の意思疎通には大切な時間です。毎月、社員の誕生会も開催。成績優秀者への表彰や、賞賛・感謝カードを贈るなど、やる気をアップする制度もあります。

 くわえて、昨年は幹部社員に対し年8回の一泊研修を実施。経営者に必要な経営的思考・視点・価値判断基準を養い、未来の経営者養成を積極的に推し進めています。

 なぜこんなに研修や学ぶ機会が多いかといえば、人は教育でしか変わらないからです。教育とは教えることだけではありません。仕事を通じて何かを発見することも教育。そのような環境を与えるのも教育。そして人の喜びは「自分自身の成長」と「他者・世の中への貢献」、大きくこの2つに収れんされるからです。働く人が人間的に成長し、お客さまに喜ばれるようなサービスを提供し、それが結果として企業としての当社の成長にもつながる。顧客・社員・会社の三位一体による幸福・繁栄を追求していきたいのです。

―今後のビジョンを聞かせてください。

 昨年は幼稚舎のインターナショナルスクールをつくりました。また、智・徳・体をバランス良く育てるための新しいタイプの塾として、(※)ボルダリングジムを活用した「トレジャーランド 進学塾QUALIER」をつくりました。

 最近は社会貢献の一環で、海外での教育支援活動に力を入れています。これまでカンボジアに2つの小学校を寄贈し、ネパールにも2校、バングラデシュに1校寄贈しています。

 今年10月にはカンボジアに幼稚園がオープンする予定で、来年は小学校の建設も検討しています。アジア数ヵ国から学校の運営依頼も来ていますので、海外でのスクール事業拡大を検討しているところです。

 国内でも海外でも、「クオリィアな人づくり」の理念は今後も変わりません。業界のなかで競争しようという気はほとんどありませんし、私たちはどこもやっていないカタチで「成功者輩出業」、Success&Happiness事業を行っていくつもりです。

※ ボルダリング : でこぼこの突起物がつけられた人工の壁をロープは使わず登るスポーツ。
「トレジャーランド 進学塾QUALIER」には忍耐力や考える力を養う目的で、ボルダリングジムが併設されている。

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