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ブックオフコーポレーション株式会社 代表取締役社長 坂本孝イメージ

七転び八起きの起業人生

坂本孝

ブックオフコーポレーション代表取締役社長。1940年山梨県生まれ。慶応義塾大学卒業後、父の経営する精麦会社に入社。その後オーディオショップや中古ピアノ販売、不動産業など様々なビジネスを経験する。そして90年新型中古本販売のFCビジネスを思いつき、同年5月に1号店をオープン。

七転び八起きの起業人生
設立 1991年8月
資本金 24億5,808万8,000円
売上高 -
事業内容 中古書店「BOOKOFF」の展開と新規中古業態の開発・運営・加盟店経営指導
従業員数 -
URL http://www.bookoff.co.jp/

50歳で始めた古本屋チェーンのブックオフ。今現在、年間約100店のペースで急速出店を遂げている。しかしここまでの起業家人生は決して平坦なものではなかった。幾多の困難を乗り越えて辿りついた新規事業。成功の秘訣は徹底した『現場主義』だった。全く飾らないその人柄に、本物を追求する男の姿を見た。

坂本孝は、1940年山梨県甲府市に生まれた。63年に慶応義塾大学法学部を卒業後、父親の経営する飼料工場に入社し、そこで低公害の省力化工場を新たに設立した。しかしその会社では自分の力が最大限発揮できないと悟り、69年に会社を後にした。その後29歳で約1億円の銀行融資を受けオーディオショップを始める。しかしその事業は慢心経営がたたって失敗する。次第に銀行も離れていき、坂本は高利の街金にまで手を出した。明日不渡りを出すかどうかというところまで追い詰められ、借金取りに追われる地獄のような日々が始まった。年利70%の高利、普通なら返せるわけがない。当時、街金だけで5社、5000万円の借金があった。銀行の借金を合わせると総額は2億円弱。この時死ねたら楽だなと思ったという。
 しかし天は彼を見捨てなかった。遠縁の親戚、山梨県選出の衆議院議員堀内光雄が援助の手を差し伸べた。坂本が保有していたオーディオ店の敷地を、時価の 1.5倍である2億円弱で買い取ってくれたのだ。そうして坂本は晴れて借金を清算した。その後坂本は中古ピアノの販売を始めた。この中古ビジネスは儲かった。定価の半値で売ったところ、300台のピアノを2日間で完売した。ここに現在のブックオフの原型があるという。
 そしてその後も坂本はショッピングセンターの開発や不動産の仲介業などを手がけていった。不動産開発をしていた頃はちょうどバブルの時期。儲かりはしたが、金の亡者と化した人々と一緒にビジネスをすることに坂本は徐々に嫌気がさしていった。そんな90年の春、坂本が横浜の商店街を歩いていた時のことだった。コミック本などを並べている古本屋の前に人だかりができていたのだ。瞬間に「これだ!」と思ったという。中古ピアノと古本とが重なって見えた。これがブックオフの直接的なヒントとなった。
 必ず多店舗展開に成功すると確信した坂本は、すぐに今まで手がけていた不動産関係のビジネスから手を引き、半年後にブックオフの1号店をオープンさせた。それはちょうどバブルが崩壊する矢先のことだった。
 そしてこの事業は順調に進んでいく。94年末には100店舗を突破、その後も順調に年間約100店のペースで急速出店を実現した。そして今年2000年度末には620店舗になるという。2004年末までに全国1000店舗の展開を目標としている。なぜここまで成功を収めたのか、50歳にして始めたブックオフ、その創業者である坂本孝に聞いてみた。

ブックオフは中古商品の総合商社

―御社の業務内容をお聞かせ下さい。

坂本:業務内容は、リサイクル可能な全ての製品のリユースです。つまり一度使ったものを、きれいに磨き上げて再び世に送り出すという仕事です。私はブックオフを中古商品の総合商社と位置付けています。その中で私が最初に手がけた商品が『本』だったのです。ここで間違えて欲しくないのが、ブックオフはただの古本屋さんではないということ。ブックオフは古本屋というよりリサイクル書店と言った方が合っている。それはどういうことかというと、従来の古本屋と違って、ブックオフはできるだけ新鮮な本を売ろうと努力しています。また従来の古本屋にあった『目利き』という要素もなくしました。ブックオフでは、どんなに稀少価値がある本でも、その本の価値は『汚れ具合』によって決まる。これにより素人でも買い取りができる中古本屋を可能にしたんです。
 従来の古本屋では『目利き』の存在によって、本の買い取りには『不透明さ』がありました。そこで私は、素人でも本の買い取りができる単純明快なシステムを考案したんです。買い取りの査定は、きれいな状態なら価格の10%、あとは本の種類ごとに4段階の価格設定をしている。これによって素人店長でも中古本屋の経営が可能になり、FC展開を果たせたんです。

―『本』以外のリサイクル事業はどのようなものがあるのですか。

坂本:例えば、家電品、子供用品、婦人服、貴金属といったようなものですね。もう既に中古家電のHARD OFFや中古子供用品のB-KIDS、中古スポーツ用品のB-SPORTS、中古婦人服のB-STYLE、中古貴金属のOFF&OFFなどは、グループ内で立ち上げています。人と棺おけ以外はなんでもリユースしていくつもりです(笑)。

―リサイクル産業以外で、新規事業を立ち上げる予定はないのですか。

坂本:最近本社の近くに焼き肉屋を開店しました。また近くラーメン屋も開店させたいと考えています。

付加価値を付けるビジネス

―なぜ焼き肉屋やラーメン屋を選んだのでしょうか。

坂本:単純に私が焼き肉とラーメンが好きということもありますが(笑)。これらのビジネスはリサイクル産業と一見何の関係もないようですが、それは違います。根底のところでは同じなんです。どういうことかというと、それは付加価値を付けてモノを売っているということです。私は昔、不動産事業をやっていたので分かるのですが、不動産のように商品を左から右へとそのまま動かすビジネス、つまりどこからか仕入れてきて、それを違う場所で売るというビジネスは、売る側に錯覚を与えてしまうことがあるのです。
 以前ブックオフの店内で新品のゲームソフトを売っていた時期があったんです。ある時、店にすごい行列ができた時がありました。ちょうど新作ゲームソフトの発売の日です。たくさんのお客様が列を成して寒い中並んでいました。しかしその行列を見た店員達は、自分達が偉くなった気になってしまった。「おー並んでるぞ、俺達はすごいなー」ってね。しかし考えてみたら私達の力じゃなかった。それはゲームを作っている会社の力だったんです。これは当たり前のことのようですが、小売り業者にはよくある勘違いです。この経験があってから、私はただ商品を流すのではなくて、その商品に何らかの付加価値を付けて販売しようと決意しました。

日本一の現場を作る!

―つまり焼き肉屋やラーメン屋も、材料を仕入れてきて、それを加工してお客様に売るというビジネスだから、根底でブックオフのビジネスモデルと繋がっているということですね

坂本:そうです。こういったビジネスの場合、業績が伸びない原因というのは景気が悪いからとか天気がすぐれないとかではなく、どれだけ現場の人間が精一杯働いているかです。つまり現場でその商品にどれだけ付加価値を付けることができるかにかかっています。だからブックオフは『日本一の現場』を作るということに執念を燃やしています。世の中には企画を立てたり、ビジネスモデルを考案する人はたくさんいます。でもそんな人ばっかりだと、経済は成り立ちません。やはり汗をかく人がいないといけません。私はいつも社員に「汗をかく人間になれ。」、「日本一の現場を作る情熱ある集団を作ろう。」と檄を飛ばしています。大企業では自分達は汗をかかずに、汗をかく仕事は下請けに投げているでしょう。私は間違っていると思う。だからブックオフを『現場第一主義の大企業』にしたいと思っています。

試されるのは『人間力』

―100人の社長を育てるという構想をお持ちだと聞いたのですが、具体的にどのような構想なのでしょうか。

坂本:それは社長という立場が、人を一番成長させるポジションだからです。会社が潰れた場合、全責任をとるのは社長だけです。だから責任の重みが他の社員とは違います。中小企業の社長を見れば分かると思うんですが、社長は会社の保証人になったりして必ずリスクを負っています。リスクを負っている社長は、他の社員とはモノの見方が違うんです。生きるか死ぬかの問題だから、必死になって先を読もうとする。だから中小企業の社長は、みんな天才ですよ(笑)。私が言う天才とは、人一倍努力をするということです。

―坂本さんにとって、社長に必要な素質とはいかなるものでしょうか。

坂本:信頼関係が築ける人間であるというのが大前提ですね。信頼とは考え方の共有のことです。考え方とは、起業に対する考え方です。最初は誰でも自分のために会社を起こそうとします。最初はそれでいいと思うのですが、いつまでも自分のためだけではいけません。ブックオフというのは1つの社会です。店長が1人いて、その他パートやアルバイトが20名程いる社会です。社会の中では、みんなが共有できる理念が必要となってきます。一緒に生活するのですから、共有するものがなくてはいけません。
 そこでその理念が自分だけの理念では、誰の協力も得られません。いかにして多くの人から信頼を得られるか、そこに社長の力量が試されるのです。つまり社長とは『人間力』そのものです。算数ができるとか、博士号を取っているかなんていうことは関係ありません。試されるのはまさに『人間力』です。

学生ブックオフをビジネス体育会に

―『学生ブックオフ』を作って現役の大学生をブックオフの社長にしていますが、その狙いはどこにあるのでしょうか。

坂本:学生ブックオフを『ビジネス体育会』にしたいんです(笑)。大学には体育会というものがあります。体育会の学生は合宿などをして、汗をかいて日々練習に励みますよね。つまりスポーツでプロを目指す学生には体育会がある。しかし将来起業を目指している学生には、そのような実践の場が今のところありません。大学で起業について学べることといえば、経営学などの机上の理論だけです。しかし起業するには、理論よりも実践の方が大切です。やはり実践を通して経営の判断力などを身に付けていかないといけません。実践を通すからこそ、失敗ができる。机上の理論では失敗は体験できません。
だから学生にも早い時期から実践の場を与えたいと思い、『学生ブックオフ』を作りました。起業を目指す学生は学生ブックオフで日々汗をかき、小さな失敗を繰り返して一人前の社長になってもらいたい。大人になって、社会に出てからだと、時には取り返しのつかない失敗をすることもあります。だから今のうちにできるだけ多くの失敗をしてもらいたいですね。現在、学生ブックオフは(株)ブックオフ一橋と(株)ブックオフ駒沢があります。今後もこのようにして学生起業家を育てていくつもりです。

一流のモノと一流の人と接せよ

―大学時代を有効に過ごすには、どうしたら良いと思われますか。

坂本:重要なのは大学生といえども、一流のモノと一流の人に接することです。例えば音楽であれば、一流の場所で一流の音楽を聞く。またマラソンを目指す人は山梨学院大学の合宿に参加させてもらうとか、プロ野球選手を目指す人は清原や松井に会ってみるとかね。たぶんしびれると思うよ。口利けないと思うよ。口が利けなくてもいいんです。まずは直に会ってみること。会わないと会うのとでは雲泥の差です。だから起業家を目指す学生でいえば、一流の経済人と会うことですね。

―坂本さんが今まで会った人の中で一番しびれた人は誰ですか。

坂本:京セラの稲盛氏かな。黙っていてもくる圧倒的な存在感の大きさ。やはり稲盛氏の数々の体験と、人一倍のひたむきさに圧倒されましたね。

―他に尊敬している起業家はいますか。

坂本:稲盛氏の他には、ソフトバンクの孫さんですね。

座右の銘は『七転び八起き』

―最後に起業を目指している学生にメッセージをお願いします。

坂本:失敗を恐れずになんでもチャレンジすることです。七転び八起きの精神で、失敗して転んでも、もう一度起きあがればいい。だから色々とチャレンジをして失敗経験を積むことです。失敗をした時は人間が一番成長する時です。一番危ないのが好調な時です。絶対にどこかに落とし穴がある。
 それと絶えずシミュレーションをすること。例えばラーメン屋に入ったら、その場で損益計算を頭の中でしてみる。席数が15席あるから、1日10回転すれば150。ラーメンが一杯650円だったら、原価率がそれくらいだから…、店員が3人いるから、人件費が…。というふうに、頭の中でシミュレーションしてみるんです。当事者意識を持って、常に自分の頭の中でモデルを作ってみる。これも経営者になるための1つの勉強です。シミュレーションと実践をうまく組み合わすことができれば、考え方も徐々に変わってくるはずです。
 実践の方では『学生ブックオフ』があるので、起業家志望の学生の方にはドンドン利用していってもらいたいですね。待ってます!

―今日はお忙しい中、ありがとうございました。