SES会社もエンジニアも、直接契約をすることで利益を最大化できる──。2018年4月、クライアントとSES会社を直接結びつける『SESクラウド』が登場。開発したのは、SES事業を11年間にわたり展開してきたグッドワークスだ。実践によって得たノウハウが存分に反映されており、発注者・SES会社ともに使い勝手がよく、現場のエンジニアの負荷も減る「三方よし」を実現する。とりわけSES会社にとっては、自社の経営改善の効果も期待できる。グッドワークス代表の須合氏に、サービスの詳細と開発に込めた想いを聞いた。
すべてのエンジニアや企業が直接契約により利益を最大化できる仕組みへ
―須合さんは「SES業界には課題がある」と指摘しているそうですね。具体的に教えてください。
請負の多重構造が業界課題になっています。システム開発のために、エンジニアを探しているクライアントから、元請け、2次請け、3次請けと、たくさんの会社が間に入る。「直接、作業するエンジニアが所属する会社は7次請け」などというケースも。SES業界は参入障壁が低いので、自社のすぐ上で請ける会社に対する営業能力や信用力さえあれば、エンジニアを抱えていなくても事業展開できてしまうからです。
―請負の多重構造のもと、どんな問題が起きているのですか。
まず、間に入っている会社の中間マージンが発生するために、クライアントとエンジニアが直接契約した場合よりも、クライアントの発注費用は割高になり、逆にエンジニアが受け取れる報酬は安くなる。顧客と、顧客に実際的な価値を提供している人間が損をしている状況は不健全ですよね。
それに、クライアントとエンジニアのやりとりがスムーズにいかない。間に入っている会社が多いので、伝言ゲームのようになってしまう。現場の実情を知らない中間の会社がクライアントのムチャな要求をエンジニアに押しつけてしまったり、逆にエンジニアの重要な改善提案がクライアントに伝わらなかったり。結果としてプロジェクトの品質が低下してしまう。
そして、エンジニアのモチベーションが高まらない、という課題があります。
―「中間マージン」のために報酬が安くなっているから、でしょうか。
それもありますが、ムダなことが多いんです。たとえば、次のようなことがひんぱんに起きています。クライアントの現場で働いてもらうエンジニアを決めるときには、必ず顔合わせがあります。クライアントのオフィスで15時から顔合わせだとしましょう。エンジニアは14時半に自分が所属する会社の営業と待ち合わせして、40分に2次請けの会社の営業に引き渡されて、50分にさらに元請けの営業と合流して、初対面のその営業と一緒に客先へ行く。
エンジニアからすれば、モチベーションを維持するのは難しいと思います。結果、プロジェクトの品質に悪影響をおよぼし、クライアントにとっても損失となるのです。
営業力がないSES会社でもクラウドで案件を探し受注
―なるほど。ならばエンジニア自身、もしくはエンジニアを雇っている会社がクライアントから直接、仕事を請ければいいのではないでしょうか。
現状では難しいと思います。営業力が不足していて、他社に営業代行をしてもらっているような会社が多いですから。
一方、クライアント側からしても、与信の問題がある。信用力のある会社に間に入ってもらったほうがいい。また、「契約を一元化したい」というニーズもあります。一人ひとりのエンジニアと個別契約するのでは管理が大変。元請け会社と契約すれば、いちどですむのです。
―なにか、袋小路のように思えます…。
いままではそうでした。しかし、私たちはその状況を打開するため、2018年4月に『SESクラウド』というサービスをローンチしました。これは、システムを開発したいクライアント側がニーズを、仕事を受注したいSES会社が実績や所属している人材を、それぞれ入力。お互いに直接、マッチングを図れるクラウドサービスです。
SES会社は営業力がなくても、これを活用すれば仕事を探し、受注までできる。クライアントは実績をチェックすることで、初めて依頼する会社でも、不安なく契約できます。間に入る会社は不要になり、業界にある多くの問題を根本的に解決できるのです。
ビジョンがない会社に社員はついてこられない
―画期的ですね。しかし、グッドワークスもSES事業を展開しています。「敵に塩を送る」ようにも見える、このサービスを開発した経緯を教えてください。
もともと、私が大手人材派遣会社に勤めていたときに、「『派遣会社が利益を得るために、派遣スタッフにしわよせがいく』というよくない慣習を変えたい」と思ったのが独立のきっかけ。ですから、最初から『SESクラウド』に込めた業界変革の志はもっていたんです。
でも、スタートアップのころは、「とにかく利益を出さないと」という状況でした。ところが、前職からついてきてくれた優秀な営業スタッフに「この会社にはビジョンがない。社長も売上のことしか考えていない。だから辞める」といわれて。目が覚める想いでした。「会社は、やっぱりビジョンがないと人がついてこられないんだ」と。それがひとつの転機になりました。
そこから、大義を立てて、その大義の実現のための事業をやっていこうと。そして、目の前にSES業界の問題がある。「これは、みんなが幸せじゃないな」と感じて。ならば、この業界の構造を変えていく事業をやっていこうと考えるにいたり、そのためのサービス開発に取り組んできたのです。
SES会社が高収益を上げるノウハウを伝授する
―その想いが結実した『SESクラウド』。利用することで、なにが変わりますか。
SES会社が利用する場合で説明すると、もう、アナログな営業をしなくてすみます。クラウドにアクセスして、案件を探せばいい。自社が抱えているエンジニアがいま抱えている案件が終了するタイミングで、そのエンジニアにマッチする新しいプロジェクトを探せます。クライアントが求めている要件を満たしていないエンジニアでも、「提案してみる価値のある案件」を検索することも可能。また、抱えているエンジニアのスキルや、これまでの実績を入力しておけば、エンジニアを求めるクライアント側からアプローチしてくれる可能性もある。
営業スタッフをたくさん抱える必要はなく、営業効率が格段に上がる。エンジニアの未稼働も大幅に減り、利益率が上がります。なにより、請負の多重構造から脱却して、クライアントと直接、契約できるので、1案件当たりの請負金額を大きくアップできるのです。
―これまで営業を他社まかせにしていた企業だと、「直接契約の勝手がわからない」という経営者もいそうです。
はい。そのため、『SESクラウド』には、クライアントに提案する見積書などの帳票が簡単に作成・出力できる事務系サービスや、ひとつの案件に対する利益率などを経営者がチェックできる契約管理サービスなども用意しています。
SES業界には、あまり利益率を意識しない経営を行っている会社もあります。そのせいで、もっと多くの利益が取れるのに取っていないというケースがあるんですね。でも、『SESクラウド』を使うことで、どれだけ収益が上げられているのかが一目でわかるようになります。
そのうえで、「さらに高収益を上げたいが、そのやり方がわからない」というときは、個別の経営相談にも乗ります。請負の多重構造のもと10%程度しか営業利益がでていなかった会社が、25%~30%の利益を上げるのも夢ではないです。
慣習を壊して魅力的なソフトウェア業界へ
―『SESクラウド』が普及したら、エンジニアの働き方改革も実現しそうですね。
ええ。近い将来、『SESクラウド』にWeb会議システムを実装しようと思っています。そうすれば、エンジニアは客先での仕事の合い間に、30分だけ休憩をもらえれば、『SESクラウド』上で、次のプロジェクトのクライアントとの顔合わせができる。いまは18時に仕事を切り上げてから1時間かけて移動して、客先で顔合わせをして、さらに1時間かけて帰宅、などということになっています。もうそんな不合理も終わらせてみせます。
―最後に、SES業界にかかわっている方々へのメッセージをお願いします。
エンジニアは現時点で約30万人不足しているといわれており、2030年には78万人以上、不足すると予想されています。クライアントからのオーダーは多いのに、不合理な業界構造のせいでエンジニアの仕事に魅力がなく、なり手がいないからです。もう、これまでの業界慣習は壊してしまうべきでしょう。
請負の多重構造をなくすことで、エンジニアは正当な評価を得られる。もっと魅力的なソフトウェア業界になるんじゃないかと。このサービスがきっかけとなって、業界にかかわる全員が変革への志をもつことで、そんな未来を実現できたらいいですね。
須合 憂(すごう ゆう)プロフィール
1980年、東京都生まれ。システムエンジニアとして活躍後、2004年に東証一部上場の人材派遣会社へ入社。営業として所属店を全国1,500店舗中No.1へと導く。その後、「派遣会社の利益のために、派遣されるスタッフにしわ寄せがいく業界構造を変えたい」という想いから独立。2007年に株式会社グッドワークスを設立、代表取締役に就任。11年間の実践でたくわえたノウハウを活かして、2018年4月、『SESクラウド』をローンチ。業界に旋風を巻き起こしている。
企業情報
設立 | 2007年1月 |
---|---|
資本金 | 2,500万円 |
売上高 | 15億4,000万円(2018年3月期) |
従業員数 | 129名 |
事業内容 | システム開発事業、システム開発事業にかかわる業務全般、一般労働者派遣事業、有料職業紹介事業 |
URL | https://www.good-works.co.jp/ |
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