土地の有効活用を行うにはさまざまな方法が考えられるが、メジャーな利用法としては、マンションの建設や駐車場の整備が考えられる。そして近年は、マンションの建設より、駐車場を選択する企業やオーナーが増えているという。それは、いったいなぜなのだろうか。このページでは、土地の有効活用方法としての、駐車場の可能性を探っていきたい。
※下記はベンチャー通信79号(2020年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
増加を続ける駐車場と、自動車保有の台数
まずは、下の図表に注目してほしい。平成3年5月、標準駐車場条例改正により、附置義務制度の対象建築物の延べ面積(基準面積)は、3,000㎡以上から2,000㎡以上に適用範囲を引き下げられた。それ以降、全国的に駐車場整備は着実に進められてきた。国土交通省によると、駐車場台数は平成3年度とくらべて、平成29年度は約2.8倍に増加。また、自動車保有台数も駐車場台数の伸びにはおよばないものの、約1.3倍に伸びている。
土地の有効活用という観点で考えると、駐車場よりマンションを建設したほうが、より多くの収益が望めるだろう。
「しかし、マンション運営には莫大な初期費用がかかるというリスクも存在します」と話すのは、駐車場管理をメインに手がけているパークリアルティ代表の川口真弘氏。
「マンションの立地にもよるでしょうが、人口減少が続くなか、部屋がすべて埋まるという保証はどこにもありません。その点、駐車場の場合は初期費用もさほどかからないため、より堅実な道として、土地活用の手段に選ぶオーナーが増えているのです」
先ほどの図が示すとおり、駐車場と車の台数は徐々に増えており、比較的安定した売上が望めるというわけだ。
近年注目を集めている、シェアリングサービス
とはいえ、当然すべての駐車場が埋まるというわけではない。そこで、徐々に増えている手法にコインパーキングがあげられる。月極駐車場として埋まらない場合、コインパーキングにすることによって、複数の人がひとつの駐車場を利用し、その回転率を上げるというビジネスモデルで、売上を上げようとしているのだ。コインパーキングのブランド力により、さらなる集客力も図れるのも大きなポイントだろう。
そして、その回転率をさらに上げるために近年急激に拡大しているのが、シェアリングサービスである。シェアリングサービスの特徴としては、企業や土地のオーナーだけでなく、一般の個人でも参入が可能な点。個人が所有する空きスペースや、いまは使っていない駐車場でも提供することが可能。また、従来のコインパーキングに比べて設備投資がかからないのもメリットだと言える。
このように、近年さまざまな変化を見せている駐車場業界だが、新しい発想をもって業界に変革をもたらそうというベンチャー企業がある。以下のコンテンツから、その取り組みを紹介したい。
これまで、駐車場の可能性や近年における業界の状況などを分析してきた。これからは、そうした駐車場業界において、変革を起こそうと新たな取り組みを行っているベンチャー企業を紹介したい。それが、コインパーキング事業によって設立されたパークリアルティである。駐車場とITシステムの掛けあわせにより、新しいサービスを提供しているという。代表の川口氏に、詳細を聞いた。
「シェアリング」で呼び込み、システムで月極契約
―どのような新しい事業を展開しているのですか。
当社独自のサービス、『QRpark』と『QRsign』という2つを掛けあわせた事業を展開しています。まず、『QRpark』とは、空いたスペースを時間貸し駐車場として機能させるシェアリングサービス。そして、一方の『QRsign』は、月極駐車場の契約を管理するためのシステム。これを使えば、不動産会社やオーナーから依頼を受けた管理会社は、契約書における署名や初期費用の決済、月極料金の引き落としなど、契約する際に発生する必要なすべての業務をオンラインで完結できます。
いままでは、契約書を郵送もしくは、利用者に来店してもらって必要な項目を記入して、必要な書類とともに提出し、決められた期日までに入金する。さらに、口座振替の設定用紙を書いてもらって―といったわずらわしい業務が発生していました。『QRsign』を使えば、駐車場を管理する側や利用者は、そうした手間から解放されるのです。
―便利なサービスですね。
ええ。しかも当社は、滞納保証つきなので、駐車場を管理する側は安心して利用できます。さらにシステムをOEM(※)で提供できるほか、当社に契約管理をすべて任せてもらうという、システムの運用代理まで対応が可能。そのため、管理会社に対してはシステムをOEM提供し、管理業務も外注したい不動産会社には当社が運用代理まで行う、といった使い分けができるのです。
こうした運用代理まで行えるのは、当社がシステム開発をすべて内製化しているからだと自負しています。
※OEM:Original Equipment Manufacturerの略。他社ブランドの製品を製造すること、またはその製造を行う企業のことを指す
―『QRpark』と『QRsign』はどのようにして掛けあわせるのですか。
ビジネスモデルとしては、こうです。まずは、『QRpark』のシェアリングサービスによって、埋まっていない駐車場利用の集客を図ります。そして、何人かの利用者が定着するようになると、せっかく便利な場所なのにほかの人が利用している状況が続けば、「自分専用の駐車場に切り替えたい」という意識が芽生えてくるんです。そこで『QRsign』を利用してもらうことで、わずらわしい手続き不要で、シェアリングしていた場所を自分専用の月極駐車場に変えることができるというわけです。
ちなみに利用者は、駐車場に設置された看板などから二次元バーコードを読み取ることで『QRpark』や『QRsign』を利用でき、『QRpark』を経ずに最初から『QRsign』を利用することも可能です。
駐車場の所有者に、利益を還元してほしい
―なぜそのようなサービスを提供しようと考えたのでしょう。
月極駐車場を、本来の姿に戻したいという想いがあるからです。シェアリングサービスは、空いたスペースを有効活用するという意味ですばらしいサービスです。イベントが頻繁に開催されるエリアや観光地には、突発的な駐車場ニーズが生まれますし、いまは使われなくなった個人宅の駐車場活用にも有効でしょう。ただし、従来から月極駐車場として利用されていた駐車場にシェアリングサービスを提供し続けるのは、私自身が「あまり正しいことではない」と思っているんです。
―それはなぜですか。
駐車場を所有している企業やオーナーさんに、十分な売上が還元されないからです。時間貸しのシェアリングサービスは、月極契約にくらべるとどうしても単価が安くなってしまいます。それが長期間にわたって続くとなると、企業やオーナーさんにとってはやはり厳しい状況になってしまいます。
繰り返しになりますが、決してシェアリングサービスを否定するわけではありません。ただ、「ずっと駐車場が埋まらない状況が続いているし、それならシェアリングサービスにするしか方法がないか……」とネガティブな理由で利用しているケースがあれば、「もっと違う方法があります」と、私は提案したいんです。
『QRpark』で手がけるシェアリングサービスは、あくまで『QRsign』を利用してもらうための入り口にすぎません。最終的に、駐車場を管理する側と利用者が月極契約を交わしてもらう。そして、その契約も紙による手続きではなく、オンラインでストレスフリーで行える。我々が目指しているのは、こうした一連の流れを世の中に普及させていくことなんです。
駐車場の空き状況を、リアルタイムで把握できる
―そのほかになにか特徴があれば聞かせてください。
駐車場の空き状況が、リアルタイムで把握できる点ですね。駐車場がどこにあるかを掲載しているポータルサイトは存在しているのですが、多くの場合は駐車場の空き状況までは把握されていないんです。なので、それを見た利用者が不動産会社に問い合わせても、結局空いていなかったという状況が多々あるんです。
当社の場合、『QRpark』によって、どこの駐車場が空いているかどうかがすぐにわかり、『QRsign』によってスピーディに契約が結べるというメリットがありますね。
―今後のビジョンを教えてください。
『QRpark』と『QRsign』、この2つのサービスをさらに拡大させていきたいと考えています。『QRpark』のサービスを開始したのが2017年ですが、『QRsign』の本格的な提供を始めたのは、まだつい最近の話。ただ、すでに大手鉄道会社との契約がまとまるなど、順調にスタートしています。今後の目標としては、2020年中までに『QRpark』との連動も含めた、『QRsign』の駐車場設置箇所数を全国で3,000箇所にまで伸ばしていきたいと思っています。
日本の駐車場には、まだまだ空きスペースがあります。これには、業界ならではの要因があると考えています。
業界ならではの要因を、打開していきたい
―どのような要因ですか。
そもそも、駐車場自体が借りられるという告知が広くなされていないんです。先ほど駐車場の場所がわかるポータルサイトがあると話しましたが、正直網羅できているとは言えません。さらに、当社ですら、自社の事業を提案するために、その駐車場が借りられるか借りられないかを調べるには、現場にある看板を見て直接問い合わせることがほとんどなんです。
情報がないゆえに、ビジネスやプライベートにおいて、自分にとって利便性が高い駐車場があるのに、気づけていないという可能性も考えられるのです。
―それはもったいないですね。
そのとおりです。当社の『QRpark』を利用すれば、スマホ上のマップを見るだけで「どの駐車場が空いているか」をすぐにチェックできますし、その駐車場の利便性が高ければ、『QRsign』によって月極契約をすることが可能となるのです。
シェアリングサービスを行っている企業や、月極契約の代行をしている会社はあります。しかし、当社のようにシェアリングサービスと月極契約を連動させて、その契約をオンライン上で行う。なおかつ、システムの運用代理まで行う。このすべてを自社サービスで完結できる会社は、ほかにはないと言えます。日本中の空きスペースを埋めるのが、私の使命だと思っています。
川口 真弘(かわぐち まさひろ)プロフィール
1984年、愛知県生まれ。2007年に大学を卒業後、証券会社に入社。税務コンサルティング業務を担当する。2012年にコインパーキング事業を開始。2015年に法人化し、株式会社パークリアルティを設立、代表取締役社長・顧問に就任する。2018年に、株式会社パークリノベーションの顧問に就任。現在は、駐車場シェアリングサービス『QRpark』と、月極駐車場の管理契約サービス『QRsign』をあわせた事業をメインに展開している。
企業情報
設立 | 2015年10月 |
---|---|
資本金 | 5,000万円 |
従業員数 | 15名 |
事業内容 | システム開発各種、駐車場の運営・管理、駐車場用機器・装置の製造・開発・販売、左記に付随するいっさいの業務 |
URL | http://www.parkrealty.co.jp/ |
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