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EVENT REPORT イベントレポート

株式会社ビジョン 代表取締役会長CEO 佐野 健一 / 株式会社コレックホールディングス 代表取締役社長 栗林 憲介

【ベストベンチャー100カンファレンス 2024 Autumn イベントレポート1】"レジリエンス経営" 逆境を乗り越えた起業家たち

株式会社ビジョン 代表取締役会長CEO 佐野 健一 / 株式会社コレックホールディングス 代表取締役社長 栗林 憲介

これから成長が期待されるベンチャー企業を厳正な審査の下に100社選出する『ベストベンチャー100』。その選出企業を始め、完全招待制でベンチャー企業の経営陣に参加を呼びかけ、2024年9月13日に『ベストベンチャー100カンファレンス』を明治記念館で開催した。当日は、日本を代表するベンチャーの起業家5名が登壇し、3部構成で講演を実施。今回は、「"レジリエンス経営" 逆境を乗り越えた起業家たち」をテーマに、ビジョンの代表取締役会長CEOの佐野健一氏と、コレックホールディングスの代表取締役社長の栗林憲介氏が行った講演の内容をレポートする。

上場に成功して事業が拡大

佐野 皆さん、はじめまして。ビジョンの会長を務めている佐野と申します。まずは、自己紹介を兼ねて、当社が取り組んでいる事業のほか、沿革や起業の経緯について簡単にご説明させてください。ビジョンは、固定通信・移動体通信・ブロードバンドサービスの加入取次ぎと、世界200以上の国と地域で使える海外用WiFiルーターのレンタルサービスを提供しています。1995年6月に創業した後、ソフトバンクの国際電話サービス事業で業績を伸ばし、2015年に東証マザーズへ上場。翌年の2016年には東証一部(現・東証プライム市場上場)へ変更し、ちょうど来年で創業から30年を迎えます。起業を考えたのは、新卒で入社した光通信の会社でトップの営業成績を収め、「独立しても十分にやっていける」と手ごたえを感じたのがきっかけでした。

栗林 こんにちは、コレックホールディングス社長の栗林と申します。当社の事業の特徴は、基幹事業の営業代行をはじめ、メディア事業や保険事業なども展開し、BtoCに特化したサービスを提供していること。創業時にNHKの受信料を徴収する営業代行で業績を伸ばし、現在はオウンドメディアの運用・管理を行うIT領域での事業が成功しています。お陰様で順調に業績を伸ばして、2018年には東証ジャスダックへ上場し、翌年の2019年には東証二部へ市場を変更。2022年には、スタンダード市場へ移行しました。創業は2010年3月だから、ちょうど15期目を迎えたところ。私が起業を考えたのは、20代の頃にサイバーエージェントの藤田晋さんの著書「渋谷ではたらく社長の告白」を読み、そこから夢が膨らんだのがきっかけでした。

諦めずに逆境を乗り越えて成長

佐野 私たちが成長するまでには、逆境を乗り越えたエピソードがあります。最大の難関は、ソフトバンクの孫さんからのご依頼でした。その内容は、日本テレコムを買収した後、国際電話サービス事業を確立し、競合のNTTを追い抜くこと。そもそもビジョンに声がかかったのは、日本テレコムのトップディストリビューターだったからです。それに、孫さんと私は、第二電電の創業者で知られている稲盛和夫さんの「盛和塾」の塾生メンバーだったので、もともと個人的な繋がりもありました。

 当時のソフトバンクの戦略は、NTTよりも価格を抑えて国際電話サービスを普及させることがポイント。その狙い通りに受注を増やしたのですが、1つ大きな問題が起こりました。通信の不具合です。しかも、不具合が判明したのは開通当日のこと。社内のメンバーから「社長、大変です。電話がとまっています!」という一報で知りました。ですが、私たちは加入の取次ぎが主業務となるので、通信の技術的な問題を解消することは出来ません。歯がゆさを感じながら、なかなか復旧の目途が立たず、最悪の事態を招きました。一旦NTTの回線に戻し、私たちが受注した契約を全て取り消すことになったのです。そのような状況だったため、当社以外の販売代理店は全てプロジェクトから撤退していきました。

 ですが、この逆境をチャンスに変えたいと思い、国際電話サービスに紐づいていた外注サービスを含め、当社が全て巻き取ることを条件にプロジェクトの継続を提案。ビジョンとしては、「①最後まで情熱を持ってプロジェクトに取り組むこと」「②人材を含めた経営資源を活かして問題を解決すること」「③大義を果たし、社会に貢献すること」の3つ方針を常に大事にしていました。それに、孫さんから依頼を受けた時に情熱を感じていたし、私も「日本の未来の通信を変えたい」という強い想いがあり、継続して業界に変革を起こしたいと考えたのです。

 そうした決意のもと、ソフトバンクとは何度も協議を重ね、当社でも不具合の調査をサポートし、約2年で復旧と改善の目途が立つことに。その結果、不具合を解消してから、ソフトバンクモバイルが毎年1,000億円以上の利益を生み出すプロジェクトに成長しました。同時に、私たちも大きく売上を伸ばすことができた訳です。もしも国際電話サービスが失敗していたら、負債を抱えてビジョンは解散していたかもしれません。今振り返ってみると、会社の存続に関わる大きな決断と挑戦でした。そして、チャンスをいただいたことに感謝しています。

栗林 佐野さんでも、ヒヤヒヤする場面があったのですね。実は、私たちにもありました。掘り下げて、詳しく説明したいと思います。創業時の当社は、営業代行の安定した収益基盤を作ることが重要なミッションでした。そのため、NHKの営業代行の獲得が最良だという結論に至ったのです。皆さんもご存じの通り、NHKの受信料契約は、法律で定められているので売上の安定が約束されるから。当時は、そのNHKの仕事を足がかりに、サイバーエージェントの藤田晋さんのようにメディア事業へ着手し、事業を拡大していきたいと考えていました。

 NHKの営業代行の業務を獲得するためには、公開競争入札に参加しなければいけません。総合的な評価で決まるため、価格競争が課題になると予想していました。ところが、入札してみると、契約の価格を下げずに落札することができたのです。課題が浮上したのは、むしろ落札後でした。NHK側から、3ヶ月間で100名体制の組織をつくる条件が提示されたのです。当時の当社の従業員は40名ほど。いくらNHKの受信料の徴収は安定するといっても、保証がある訳でもないし、倍以上もの人材を抱えて赤字を出す訳にもいきません。悩んだ挙句、「ここが正念場だ」だと腹を決め、既存の営業代行の業務を増やしながら増員することに。

 この時、ついてきてれたメンバーがいたからこそ、当社を発展させなければいけないという強い使命感を持つことができたのです。それに、乗り越えなければ飛躍できないし、リーダーシップを発揮して社員を引っ張っていく経営者の力量が試される瞬間でもありました。結果としては、わずか3ヶ月で2.5倍の100名体制を構築することに成功。その時に支えてくれたメンバーの大半は、困難を乗り越えた仲間として信頼関係が深まり、今でも現役で活躍しています。

自分で限界を決めてはいけない

栗林 実は、逆境のエピソードには、まだ続きがあります。100名体制を整えた後、全国に支店を広げ、あっという前に1,000名を超える勢いで成長を続けました。そのころ、NHKの営業代行会社の中で当社が日本で一番の売上を誇り、飛ぶ鳥も落とす勢いで2020年までは順調だったのです。

 ところが、コロナなどの影響を受け、2021年からNHKが業務委託契約による受信料の徴収を中止するという方針が決まりました。この影響で、当時の売上の約8割を占めていたNHKの営業代行業務が一瞬にして失ったのです。それをきっかけに、少しずつ力を入れていたIT事業の拡大に舵を切ることに。幸いなことに、シフトチェンジを決めた2021年までの間、ゲーム開発をしたり、マッチングアプリを開発したりするためのインフラを構築。既にIT事業で高い収益を確保できる状態になっていました。

 とはいえ、IT事業だけでは、とてもNHKの売上をカバーできません。そこで、電力、ガス、ウォーターサーバに商材を変え、営業代行の受注を増やそうと考えました。NHKの業務でオペレーショナル・エクセレンスを築いていましたので、商材が変わっても何とかなるかなと思えたのです。普通なら倒産してもおかしくない状況でしたが、3ヶ月で100名体制を実現した時に成功体験があったから、困難な局面を好転させる根拠のない自信だけはありました。商材を変えて営業代行に取り組んだ結果、順調に売上を伸ばし、今期については過去最高益で着地する見込み。正直なところ、弱気になった時期もありました。ですが、今振り返ると、「自分で限界値を決めないほうが良い」ということを改めて実感。「人事を尽くして天命を待つ」とするくらい、窮地に立たされても楽観的に捉える度胸が身につきました。

危機的状況を迎えたら一拍置いてみる

佐野 私たちもコロナによって大きな打撃を受けました。2020年3月に緊急事態宣言が発令されるまで、2019年はグローバルWiFi事業の売上高が177億円、利益が33億円ほどあったのです。それが緊急事態宣言の発令とともに、4月から渡航者が全くいなくなり、グローバルWiFi事業のサービスが全く提供できなくなりました。その時点でのキャッシュポジションは70億円ぐらいだったから、とても持ちこたえられる状況ではなかったのです。

 実は、銀行から30億の担保がコミットされていたのですが、コロナは長期化すると予測していたし、そもそも渡航者がいなければ借入したところで根本的な問題は解決しない。一方では、コロナの影響でテレワークが進んだ影響で、自宅で使うWiFi環境を整えたり、自宅で使う携帯を導入したり、コロナ禍では情報通信事業が伸びることも予測しました。ですが、一旦はグローバルWiFi事業から撤退し、創業時から行っていた情報通信サービスに注力したほうが賢明だと判断。コロナ禍が収束するまでの間は、グローバルWiFi事業を休眠させておき、いつでも再開できる状況を保ちながら冷静に見極めることにしたのです。

 2020年の4月に入ると、緊急事態宣言の影響で、恐ろしいほどにグローバルWiFiの解約が進みました。同時に、不安材料がもう1つ浮上したのです。それは、温存していたハイヤーのシェアリングサービスの本格稼働が頓挫してしまうこと。シェアリングサービスとは、インバウンド需要を狙い、海外から日本に来る社長や役員の送迎のほか、ご家族の行事にもご利用いただくもの。空港にはサービスカウンターまで設置していたので、一度撤去すれば直ぐに再開できなくなってしまう。この赤字を許容するかどうか、苦渋の決断を迫られました。悩んだ挙句、サービスカウンターを残し、情報通信サービスで補填することに。その結果、運よく2ヶ月で5億ほどの最小限の赤字で食い止めることができたのです。

 このような難しい決断には、皮肉にもコロナ前のCFOの発言が役に立ちました。どういうことかというと、コロナ前の2019年の年末に納会で、偶然にもCFOから「コレックは上場してからあまりにも順調だから、いつ危機的な状況が起きても不思議ではない」とパンデミックを予測するような話をしていたのです。その時はネガティブな発言に疑問を感じていましたが、今振り返ってみると一拍置いて冷静に考えることができた。実際、納会直後の出来事だったせいか、私だけではなく、社員の気持ちの切り替えも早かったような印象を持ちました。企業はあらゆるリスクを想定し、しなやかに乗り越えて回復する「レジリエンス経営」の思想を持つことがとても大事。今でも完全に危機を乗り越えた訳ではないですけど、コロナの教訓を活かして冷静に市況を読み取りながら、今期は営業利益を52億円から57億円に上方修正するほど回復することができました。
PROFILE プロフィール
佐野 健一(さの けんいち)プロフィール
1969年鹿児島県生まれ。1991年に光通信入社、すぐに営業トップの成績を収め、1995年静岡県富士宮市で起業、ビジョンを設立。2012年「グローバルWiFi®」世界200以上の国と地域で使えるパケット定額制の海外用WiFiルーターレンタルサービス事業を開始。2015年に東証マザーズ上場、翌2016年に東証一部へ市場変更(現在、東証プライム市場上場)。2021年書籍出版『経営は「進化」だ!起業から上場への道のり』、日経IR優良企業奨励賞受賞。経営理念「世の中の情報通信産業革命に貢献します。」をモットーにグローバルWiFi®、情報通信サービス、グランピング・ツーリズムを柱に事業を展開。

企業URL:https://www.vision-net.co.jp/
栗林 憲介(くりばやし けんすけ)プロフィール
1983年生まれ。大阪府出身。日本大学卒業。学生起業や新卒で入社した上場企業などで営業を経験。2010年株式会社コレックホールディングス(旧株式会社エヌリンクス)を創業。2018年東証ジャスダック上場。2019年東証二部へ市場変更。2022年にスタンダード市場へ移行。当社はメディアプラットフォーム、アウトソーシング、エネルギーの3つのセグメントで人とITのちからで、持続可能な社会への貢献、持続的な企業価値向上を目指す。

企業URL:https://www.correc.co.jp/
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