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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

株式会社Camphor Tree 代表取締役・弁護士 佐藤 聖喜

法曹歴20年のトップが語る日本経済刷新に向けた志

弁護士として提供するM&A支援で、スタートアップの挑戦を飛躍に導く

株式会社Camphor Tree 代表取締役・弁護士 佐藤 聖喜

近年、ベンチャー企業において、M&Aは自社の成長を実現するための戦略的手段として定着しつつある。そうしたなか、「不適切な買い手とのマッチングにより、トラブルが生じたり企業価値が毀損されたりする事例は後を絶たない」と警鐘を鳴らすのが、アドバイザリー型のM&A支援を手がけるCamphor Treeの代表、佐藤氏だ。リスクを最小限に抑え、成長戦略に即したM&Aを実現するためのポイントや、ベンチャー企業への支援方針について同氏に聞いた。
※下記はベンチャー通信93号(2025年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

契約書の「雛形」流用により、売り手が不利になるリスクも

―事業内容を教えてください。

 M&Aにおける売り手企業の立場に寄り添い、利益を守る立場で交渉をサポートする「アドバイザー」として、M&A支援を手がけています。特に、新しいビジネスモデルで市場開拓を狙うスタートアップを対象に、競争力強化のために同業者を束ねていく「ロールアップ型」M&Aへの参画や、エグジットを見据えた株式譲渡などを、幅広く扱っています。当社の特徴は、代表である私自身が弁護士であることです。多くのM&A支援企業は顧問弁護士を外部に置くことはあっても、代表が弁護士というケースは多くはありません。代表が弁護士であることで、会社全体のカルチャーや手続きの進め方が大きく変わります。当社の場合、私以外にも会計士や戦略コンサルタントといった専門家がチームを組んでおり、実際に会社を立ち上げてから強く感じているのは、「法律や会計などの専門家がいるM&A支援会社を選びたい」というニーズが非常に強いということです。

―そうしたニーズには、どういった背景があるのでしょう。

 M&Aがより一般的になるなかで、そこに潜んでいたリスクが顕在化していることです。具体的には、「売り手に不利な条件で契約が進められてしまう」リスクです。一般的なM&A仲介会社の多くは契約書を雛形のまま流用しており、案件ごとの事情が反映されません。交渉の知識や資金力で優位に立つのはつねに買い手側であり、売り手は情報不足のまま交渉に臨むことが少なくないのです。その結果、売却価格を不当に引き下げられたり、一方的に不利な条項が盛り込まれたり、リスク対応が不十分なまま契約が成立してしまう。売り手は「気づかないまま契約を結び、後になって不利な条件が発覚する」ケースが珍しくないのです。さらに、M&A支援企業のビジネスモデルに起因する構造的な事情から、「悪質・不適切な買い手とマッチングしてしまう」というリスクもあります。

―どういうことでしょう。

 多くのM&A仲介会社は「成功報酬型」で収益を得ているため、どうしてもマッチングの質よりもスピードや成約件数が優先されがちです。担当者にとっては成約させること自体が評価や収入に直結するため、相手企業の事業内容や将来性の吟味が後回しにされることも少なくありません。さらに、固定給が低くインセンティブに依存する給与体系が、担当者を「強引にマッチングを進める方向」へと駆り立てています。その結果、買い手の資金力や経営姿勢に十分なチェックがなされず、売り手にとって不適切な相手と契約が進んでしまうケースも見られます。こうした状況はシナジーの創出どころか、経営統合後にトラブルや訴訟に発展し、結果的に売り手の企業価値を大きく損なうリスクにつながりかねません。

 こうしたリスクが現実に存在するからこそ、法律や会計の専門家がそろう当社への支援ニーズが高まっているのです。

弁護士と会計士のサポートで、M&Aをめぐるリスクを回避

―具体的に、どのような支援を提供できるのですか。

 たとえば、M&Aにおける数々の手続きのなかで重要になる「契約」に関しては、書類を雛形で済ませるのではなく、案件ごとにリスクを洗い出してカスタマイズします。デューデリジェンスで見えた問題はバリュエーション、最終契約、PMI(※)で適切に処理し、売り手が不利になることを防ぎます。また、買い手が適切な企業かどうかの反社チェックや信用調査も徹底し、「危ない相手と組んでしまう」リスクも避けます。こうした支援は弁護士がいるからこそ可能ですが、加えて会計士の存在もリスク回避に貢献します。スタートアップのバリュエーションは非常に難しく、教科書的なDCFやマルチプル(※)による計算だけでは正しい企業価値は算出できません。会計士が入ることで事業計画を実務的に精査し、適正な企業価値を算定することができます。これによって売却価格を不当に引き下げられるような交渉を防ぐことが可能になるのです。また、スタートアップならではの難しさについても、当社は解決を支援できます。
※PMI : Post Merger Integrationの略。買収や合併の後に行われる統合プロセス
※DCFやマルチプル : いずれも、企業価値を評価するための手法

―詳しく聞かせてください。

 スタートアップは株主構成が複雑になりがちです。たとえばVCが複数入ると、株主が分散し、共同売却権や優先買取権、創業者の買戻権など細かい取り決めが交わされることが多い。この状況で売却しようとしても、単純に株を売れば済むわけではありません。ある株主の同意や特定の手続きが必要で、取引自体が成立しない場合もあります。結果的に有望な買い手が現れても、調整に時間を取られ交渉が頓挫するリスクがあるのです。だからこそ弁護士が契約関係を丁寧に紐解く作業が欠かせません。株主間契約を確認しつつ、どの株主をどう取りまとめ、どの手続きを踏めば円滑に売却できるかを整理する。そのうえで会計士や戦略コンサルタントと連携し、買い手も納得できるストラクチャーを組んでいくのです。

―弁護士である佐藤さんが、M&Aアドバイザーを立ち上げた経緯を教えてください。

 私は弁護士として20年近く活動してきましたが、そこで扱う案件の多くは倒産や事業再生でした。法律事務所に相談に来る時点で、すでに経営は行き詰まっているケースがほとんどです。事業再生に取り組める会社もありましたが、多くは倒産処理にいたってしまう。しかも、その過程で「素性の定かでない仲介事業者」が入り込み、資産だけが売却され、会社や従業員にはほとんどなにも残らない。そんな場面を幾度も見てきました。法律家としての立場からトラブル処理を担うことはできますが、経営が厳しくなった会社とは倒産処理や清算など、手遅れの段階でしかかかわれません。私自身、もっと前の段階で成長の可能性を持つ企業を支えられないのか、という想いが強くなっていったのです。そうしたなかで経営大学院に進学し、スタートアップを取り巻く資金調達やM&Aの仕組みを学んだことが大きな転機になりました。

スタートアップの成長をシームレスに支援

―特に、スタートアップに対する支援にこだわるのはなぜなのでしょう。

 日本経済を変えていけるのは、こうした新しい企業だと信じているからです。高度経済成長を支えた大企業の多くは重厚長大型産業で、時代の変化にそのままでは対応できません。次の産業を担うのは技術や独自モデルを持つスタートアップです。しかし資金調達の土壌はまだ脆弱で、優れた技術やアイデアを持ちながら芽が出ない会社も少なくありません。私自身、氷河期世代として長く停滞を感じてきましたが、それを変えるには新陳代謝を促し、新しい産業を育てるしかない。その役割を担うのがスタートアップです。経営者は情熱を持ち、本当に好きなことを追い求めていますが、資金や資源が足りず力を発揮できないのは社会にとって損失です。私たちがM&Aや資金調達で支援することで彼らが「好きなことに集中できる環境」をつくりたい。Camphor Treeの存在意義は、スタートアップの成長を支え、日本経済を押し上げる力に変えていくことにあります。

―今後のビジョンを聞かせてください。

 私たちが目指すのは、スタートアップの成長をシームレスに支援できる存在です。資本政策からM&Aまで経営ステージに応じて一貫サポートを行い、大学発ディープテックのような潜在力の高い企業を後押ししたいと考えています。さらに海外からのリスクマネーを呼び込み、日本のスタートアップ市場をより開かれたものにすることも自社に課した重要な使命です。経営者のみなさんに伝えたいのは、M&Aは「会社を手放すため」だけの手段ではないということ。大企業や投資家との協業を通じ、自分の事業を大きく育て、好きなことに集中できる環境を得るための戦略でもあります。その選択肢を前向きに捉え、早い段階から準備しておくことが将来の大きな飛躍につながります。当社は専門知と経験を総動員し、みなさんが安心して次の成長ステージへ進めるよう支援します。ともに日本から新しい産業を生み出していきましょう。
PROFILE プロフィール
佐藤 聖喜(さとう せいき)プロフィール
1979年、東京都生まれ。京都大学経済学部卒業、京都大学経営管理大学院(MBA)修了。旧司法試験合格後、長島・大野・常松法律事務所を経て、千代田中央法律事務所を開設。2024年、スタートアップ支援の専門職ファームとして、株式会社Camphor Treeを設立し、代表取締役に就任。おもにM&A支援や資本政策・資金調達、エグジット支援を担う。
企業情報
設立 2024年9月
資本金 7,000万円
事業内容 「資本政策・資金調達支援」「M&Aファイナンシャル・アドバイザリー業務」「企業価値評価、デューデリジェンス業務」「セカンダリー取引支援」
URL https://mafrontier.com/
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