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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

株式会社シナプス・コード 代表取締役 鯉渕 哲也

脳科学に基づきモチベーションを引き出す人材開発の新たな視点

「習慣化」で社員の行動を変容し、「やりたい」を企業の成長の力にする

株式会社シナプス・コード 代表取締役 鯉渕 哲也

多くの経営者が直面する社員の「モチベーション低下」や「離職」。この課題解決に乗り出したのが、脳科学を応用したアプリやシステム開発を手がけるシナプス・コードだ。その代表である鯉渕氏はいま、「習慣化」を促すことでストレスをコントロールし、モチベーションを維持できるようなサービスを開発しているという。その開発に際し、鯉渕氏が師と仰ぐ応用神経科学の第一人者・青砥氏と対談。多くの経営者が求める社員の「やりたい」を誘発する人材開発の新手法について聞いた。
株式会社DAncing Einstein
FOUNDER CEO / NEURO-INVENTOR
青砥 瑞人あおと みずと
日本の高校を中退。米国UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の神経科学学部を飛び級卒業。脳の知見を、医学だけでなく人の成長に応用し、AIの技術を活用して、NeuroEdTech®︎とNeuroHRTech®︎という新しい分野を開拓。同分野において、いくつもの特許を取得する脳神経発明家。新技術も活用し、ドーパミンがあふれてワクワクが止まらない新しい学び体験と教育・共育をデザインすべく、株式会社DAncing Einsteinを創設。
株式会社シナプス・コード
代表取締役
鯉渕 哲也こいぶち てつや
1983年、茨城県生まれ。文教大学情報学部卒業。大企業・ベンチャー・メガベンチャーでエンジニアとして従事し、その後、独立。複数のプロダクト開発やスタートアップの支援を経験。2023年、株式会社シナプス・コードを設立。脳科学を生かしたライフハックサービスを開発中。

ストレスコントロールの鍵は、ウェルビーイングが握る

―鯉渕さんが、ビジネスパーソンのモチベーションを維持するアプリやシステムの開発に乗り出した経緯を教えてください。

鯉渕:ライフスタイルの多様化が進む一方で、企業の業態と社員の価値観のミスマッチが増えつつあり、企業は、社員の「モチベーション低下」や「離職」といった課題に直面しています。私は、その本質的な原因は、社員の心の状態、つまり「ウェルビーイング」にあるのではないかと考えています。

 もちろん、社員の成長のためには適度なストレスが必要です。しかし、そのストレスをうまくコントロールできず、ウェルビーイングを損ねているケースが非常に多く見受けられます。そこで私は、脳科学を勉強してきた経緯から、まずストレスコントロールのスキルを養う鍵は、モチベーションを維持したまま行動を起こせるような「習慣化」にあるのではないかと考え、その「習慣化」によってウェルビーイングを向上させるようなサービスの設計を進めています。この「習慣化」へのアプローチが、個人のウェルビーイングやストレスの問題にどう科学的にかかわってくるのか、青砥先生に、ぜひご意見をお伺いしたいと思っていました。

青砥:興味深いテーマですね。まず鯉渕さんが掲げる「習慣化」はストレスコントロールにおいて、非常に重要な視点です。なぜなら、その習慣が続かない最大の要因こそがストレスであり、その背景にはモチベーションのあり方が密接にかかわっているからです。

 そもそも、モチベーションは大きく2つに分けられます。「やりたい・知りたい」といった好奇心から行動を促す「ドーパミン型」と、「~しなければならない」という使命感に基づく「ノルアドレナリン型」です。過去の研究では、この両方が合わさったときに、人は最大のパフォーマンスを発揮できることがわかっています。しかし、現代社会では、ドーパミン型、つまり「やりたい」という意欲が誘発されづらい人が増えています。

―なぜ「やりたい」という意欲が湧きづらいのでしょう。

青砥:多くの人が、「やりたいことがやってくるのを待っている」という受動的な姿勢だからです。私たちは「モチベーションが高まるから行動する」と誤解しがちですが、脳の仕組みからすると、じつは「行動が先」なのです。行動力がある人は、必ずしも「やりたい」と思ってから動いているわけではありません。よくわからないけれど、まず動いてみる。動くから何かにぶつかり、そこから「やってみたい」と思えることが見つかるのです。

鯉渕:それこそ、私が「習慣化」でストレスコントロールスキルの養成とウェルビーイングの向上を図ろうと考えたきっかけです。脳科学でいう「作業興奮」、つまり作業を始めると脳が活性化するという現象ですね。私たちが設計しているサービスも、その考えに基づいています。何か「やりたいこと」があっても動けない人に対し、とてつもなくハードルを下げた目標を提示し、まずはそれをクリアさせる。この「続けること」を促す仕組みが「習慣化」の第一段階だと考えています。

青砥:いわゆる「デフォルトモードネットワーク」に作業やタスクが組み込まれた状態を目指すということですね。

鯉渕:はい、まさしくその通りです。

脳の仕組みを活かした「習慣化」の設計

―「デフォルトモードネットワーク」とは、いったいなんでしょう。

青砥:ぼーっとしているときや、特定のタスクに集中していないときに活性化する脳の神経回路のことを指します。よく車のアイドリングなどに例えられ、内省や記憶の整理、アイデアの発想など、無意識下での脳の自動的な働きを担っています。たとえば、朝起きて歯磨きをするとき、「よし、歯磨きをするぞ」とモチベーションを高めて臨む人はほとんどいないでしょう。このように、デフォルトモードネットワークに組み込まれた作業やタスクは、無意識下で自動的に実行されます。端的にいえば「習慣化されている」ということになります。しかし、鯉渕さんのサービス開発において大切なのは、この「習慣化されたタスク」を、いかに「心地よい習慣」に変換し、ストレスをコントロールする装置にするかという視点でしょう。

鯉渕:おっしゃる通りです。その「心地よい習慣」への転換こそが、今回のサービスの最大の壁だと感じています。具体的には、「心地よい習慣」に変わるとき、脳の中でどのようなプロセスが起きているのでしょうか。

青砥:まず、デフォルトモードネットワークの利点は、脳のエネルギー効率を最適化し、負荷をかけずに楽な状態をつくることです。しかし、その本質は単に楽をすることではなく、思考に「余白」を生み出すことにあります。

 この「余白」を、ただ無為に過ごす「非生産的なデフォルト」にするか、創造的に活用する「生産的なデフォルト」にするかで、大きな差が生まれます。研究者などが毎日同じことを繰り返しているように見えても、彼らは深くやり続けるからこそ、周りには見えない「ちがい」や「ささやかなこと」を感知できます。こうした「ささやかなこと」に気づき、心地よさを感じるのは、「サリエンスネットワーク」と呼ばれる脳の領域の働きです。現代社会は強い刺激に溢れ、私たちは知らず知らずのうちに、強い刺激がないと満足できない脳になりつつあります。しかし本来、人はささやかなことにも幸せを感じる能力を持っています。この「ささやかな感度」を高めることこそが、個人のモチベーションを高め、心の豊かさ、すなわちウェルビーイングに直結するのです。この点をサービスに組み込むためには、個人に伴走するような仕組みなどが良いでしょうね。

鯉渕:ありがとうございます。まさにその「ささやかな感度」こそが、私たちがサービスを通じてユーザーに育んでほしいと考えているものです。当社では、現在『ヤーモリ調査隊』という動画メディアで、こうした「ささやかな感度」を高める活動も行っています。こうしたコンテンツはいわゆる「強い刺激」の典型ではありますが、それを入口として、個人の「余白」の重要性を啓発したいと考えています。

「自利」から始まる、組織の成長サイクル

―習慣化によって生まれる個人の「余白」を、企業の成長につなげるにはどうすればいいのでしょうか。

青砥:まず、どんな企業でも、社員という個人の成長が欠かせないという前提があります。個人のウェルビーイングが高まれば、パフォーマンスの源泉となるポジティブなモチベーションも自ずと高まり、企業の成長の力になります。そうした気づきを得る行動自体が、個人の豊かさや幸せを広げているという認識が重要です。これは「自利」、つまり自分の利益を大切にできているということ。日本ではとかく「利他」ばかりが強調されますし、確かに組織をうまく動かすためには「利他」が必要です。しかし、自分を大切にできない人が、本当に他人を大切にできるでしょうか。つまり、ここで言いたいことは、本来「自利」こそが「利他」を促す原動力になるということです。

鯉渕:私もまったく同感です。プライベートでもビジネスでも、すべての基本は「人」だと考えています。人が自分自身のことを幸福だと感じられなければ、良いサービスなんてつくれないでしょう。自分にとって「楽しい」と言える「自利」の状態で初めて、他者にコミットできるのだと思います。

青砥:まさにおっしゃる通りで、目指すべきは「自利と利他がつながる」状態です。経営者に求められるのは、社員一人ひとりの「自利」を大切にしながら、それがお客さまという共通の「利他」にどうつながっていくのか、その「自利利他のループ」を本人とともにデザインしていく視点です。経営者の視点でたとえると、1on1の面談で「この仕事のどんな部分に、喜びや成長を感じるのか」と問いかけ、そこから小さな「自利」の芽を見つけ、会社のビジョンという「利他」と結びつける言葉を、一緒になって探しだす。そのような対話こそが、ループを回す最初のきっかけになるでしょう。

―鯉渕さんが開発されているソリューションは、まさにその「自利」の部分をアプリやシステムで築く手助けをするものなのですね。

鯉渕:はい。私たちが目指しているのは、個人が「こうしたい」という理想の自分に近づくための「習慣化」を後押しすることです。最終的には本人が自分で認識することがもっとも重要であり、私たちにできるのはその手伝いです。今後は、日本のビジネスにおいても、勘や経験則だけでなく、科学の視点を取り入れることがますます重要になります。研究者の方々とビジネスサイドがうまく連携し、科学的知見に基づいたプロダクトやサービスをつくっていく必要があると強く感じています。今日は青砥先生のおかげで、多くのことに気づかされました。本当にありがとうございました。

青砥:こちらこそ貴重な機会をありがとうございました。鯉渕さんが開発するサービスの完成を楽しみにしています。
PROFILE プロフィール
鯉渕 哲也(こいぶち てつや)プロフィール
1983年、茨城県生まれ。文教大学情報学部卒業。大企業・ベンチャー・メガベンチャーでエンジニアとして従事し、その後、独立。複数のプロダクト開発やスタートアップの支援を経験。2023年、株式会社シナプス・コードを設立。脳科学を生かしたライフハックサービスを開発中。
企業情報
設立 2023年3月
資本金 100万円
事業内容 脳科学を応用したアプリ・サービスの開発およびメディアによる情報提供など
URL https://synapse-code.co.jp/
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