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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

株式会社ネクスト 代表取締役社長 井上 高志

「利他主義」を掲げ社会の「不」の解消に挑み続ける

株式会社ネクスト 代表取締役社長 井上 高志

不動産・住宅情報サイトの中で、掲載物件数・使いやすさ・利用者数において国内No.1を獲得した『HOME'S』を運営するネクスト。2010年には東証一部へ上場、2013年3月期の売上高は約120億円に達した。代表の井上氏は「どれだけ規模が大きくなっても、当社はベンチャー企業。世界中の人のためになる新しい価値づくりへの挑戦を続けていく」という。“永遠のベンチャー宣言”の背景にある経営理念をはじめ、今後のビジョンや求める人材像などを同氏に聞いた。
※下記はベンチャー通信55号(2013年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

―2013年3月期売上高が昨年比116%増でした。成長の要因はなんですか。

井上:昨年度までの約3年間、ビジネスモデルの変更やサイトのフルリニューアル、大規模プロモーションなどに取り組んだ結果です。当社は設立から13期連続で増収。2010年には売上高が100億円を超え、東証一部上場を果たしました。しかし、そこから3期は業績が横ばい。これは、『HOME'S』がさらに多くの人々を笑顔にできる圧倒的No.1のサービスになるための大規模な変革を実行したことに起因します。短期的に成長にブレーキがかかっても取り組む意義があると判断したのです。

―具体的にはどのような取り組みだったのですか。

井上:ユーザーは不動産ポータルサイトに「情報量」と「使いやすさ」を求めています。そのためにまず、ビジネスモデルを変更しました。このねらいは、サイトに掲載する物件情報を飛躍的に増やすこと。以前はサイトへ物件情報を掲載するごとに、提供元の不動産会社から料金を頂戴していました。それを基本料金のみで無制限に掲載でき、ユーザーからその物件に問い合わせが来てはじめて料金が発生するように変えたのです。これによって提供される物件情報が急増。変更前はもっとも多い時でも200万件に満たなかったのが、いまでは約430万件と、他サイトを引き離してトップになりました。次にサイトリニューアル。これもユーザーの利便性向上をめざした施策です。

―どのように変えたのですか。

井上:これまでは「新築」「賃貸」など不動産マーケットごとにわかれていたサイトを統合したのです。ユーザーが本当に求めているのは、希望条件に対して、マーケットを問わず、全物件のなかから理想の住まいが見つかる探し方のはず。この想いから、リニューアルプロジェクトをスタートしました。もしも事故があってサイトが休止したら、すぐに10億、20億の損失となる。そんなリスクを承知のうえで実行したのです。結果、ユーザーから「使いやすい」と高い評価を獲得。そのタイミングで40億円を投じて大々的にプロモーションしたこともあって、利用者数においても国内No.1のサイトになりました。

―大きなリスクをとって変革できたのはなぜでしょう。

井上:社会にあふれる「不」を解消し、人々を笑顔に、幸せにすることこそ、私たちが事業を遂行する目的だからです。日本の不動産業界を変革し、多くの人がより理想的な住まい方ができる社会をつくる。それを達成するのに必要ならば、どんなチャレンジもためらわない。私がそう考えるようになった原点は、新卒で入社した不動産会社での体験にあります。担当していたマンションのモデルルームに、若いご夫婦が訪れ、私が紹介した物件をとても気に入ってくださったのですが、ローンの審査に通りませんでした。落胆した二人の姿を見た私は、「なんとかして、いい物件を探してあげたい」。その一心で他社の物件までも紹介。それにより、ご夫婦は希望通りの住まいを購入できました。でも会社にとっては1円の売上にもならない。上司には厳しく叱責されました。住宅購入は一生に一度ともいえる人生最大の選択。にもかかわらず、当時は住まいに関する十分な情報の入手は困難な状況でした。不動産会社とユーザーの間に「情報の非対称性」があると痛感しました。日本にあるすべての物件情報をデータベース化し、ユーザーが検索できるようしたい。そう考えて、起業したのです。

―他社の物件を紹介するのは、ビジネス上は適切でない行動のように思えます。

井上:そう考える人が多いでしょうね。でも、目の前に困っている人がいたら助けるのは当たり前でしょう。みなさんは電車で席を譲るときに対価を求めますか? ところがビジネスになると経済合理性だけを優先しがちになる。でも、そのほうが非常識なんです。普通の感覚を失わずにビジネスを展開する。そのために「利他主義」という社是を掲げています。当社にとって、売上も利益も事業を遂行する目的ではありません。世のため人のために役立つことをした結果、売上があがる。そしてさらに世の中に役に立つことのために利益を再投資していく。利益とは、社会貢献という目的地に向かうための燃料です。利益を追求するだけの会社は、目的地に向かって走りもしないで「オレはたくさん燃料をためた」と自慢しているようなもの。滑稽ですよね。

―利他主義の精神があるから、経営上のリスクがあっても「ユーザーのため」を徹底的に追求する変革を成し遂げることができたわけですね。

井上:ええ。変革の効果があらわれ、前期から当社は第2の成長期に入りました。人々は、日々生活していく中で、必要なものを得るために様々な情報を収集しています。私たちは、暮らし全般において必要な大量の情報を整理し、人々に提供したい。当社は、世界中の人々が「出逢えてよかった」と言ってくれるような最高のマッチングをつくり出していくことを目指しています。今後は、この世界観を実現するために、4つの方向に事業を展開していく方針です。1つ目は、『HOME'S』のさらなる拡大。次に、不動産業界向けにこれまでの『HOME'S』の枠にとらわれない新サービスを展開していきます。3つ目は、『HOME'S』の海外展開の加速。すでにタイやインドネシアなどに進出しており、アジア全域に拡大していく計画です。4つ目ですが、「地域」「金融」「医療」「教育」「食」など「住まい」以外の領域において事業を立ち上げ、多角化をはかっていくことです。

―求める人材像を教えてください。

井上:ともに情熱をもって社会の「不」の解消に挑み続ける人。実際、当社で活躍しているのはそういう人材です。例えば、当時新卒2年目の社員がトランクルームや収納スペースを検索できる「HOME'Sトランクルーム」を新規事業として提案。彼自身が事業責任者となって事業を立ち上げ、推進しています。また、インドネシアの拠点は当時新卒6年目の社員に立ち上げをまかせ、COO(最高執行責任者)として『HOME'S』の海外展開に挑戦してもらっています。このように、当社では社員がやりたいと思うことにチャレンジできる環境を用意しています。ぜひ、利他主義や世界観に心底共感し、挑戦意欲の高い人材に入ってほしいですね。
PROFILE プロフィール
井上 高志(いのうえ たかし)プロフィール
1968年、神奈川県生まれ。1991年に青山学院大学経済学部を卒業後、株式会社リクルートコスモス(現:株式会社コスモスイニシア)に入社。その後、株式会社リクルート(現:株式会社リクルートホールディングス)を経て、1995年にネクストホームを創業。1997年に株式会社ネクストを設立、代表取締役社長に就任。不動産・住宅情報サイト『HOME'S』を国内最大級の規模に発展させ、2006年に東証マザーズ上場。2010年に東証一部上場。京セラ・KDDI創業者の稲盛氏主催の「盛和塾」で、全国の塾生の経営者の中から優秀賞を受賞。著書に『「普通の人」が上場企業をつくる40のヒント』(ダイヤモンド社)がある。
企業情報
設立 1997年3月
資本金 19億9,600万円(2013年6月30日現在)
売上高 119億6,238万円(2013年3月期:連結)
従業員数 546名(2013年6月30日現在:連結)
事業内容 不動産情報サービス事業、その他事業
URL http://www.next-group.jp/
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