INTERVIEW 業界別起業家インタビュー
いまこそ日本にシリコンバレー・システムをつくれ
起業しようぜ
MOVIDA JAPAN株式会社 代表取締役社長兼CEO 孫 泰蔵
アベノミクスではベンチャー企業の育成を目標に掲げている。実際、大規模な金融緩和によってベンチャーへの資金供給が増えつつある。しかし、MOVIDA JAPAN代表の孫氏は「いまの日本では砂漠に水をまくようなもの」と指摘。ベンチャーを輩出するには、「若い人たちが気軽に起業できる環境が不可欠」と提言する。インディゴやガンホー・オンライン・エンターテイメントを立ち上げた起業家であり、いまはスタートアップ企業を支援する同氏に、提言の具体的な内容を聞いた。
※下記はベンチャー通信55号(2013年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
―いま、日本ではベンチャー企業へ回るおカネが増えています。しかし孫さんはその効果に懐疑的ですね。なぜですか。
孫:起業に失敗した人の再出発を支援する仕組みがないからです。起業家を輩出しているお手本として、米国のシリコンバレーがあります。そこでは多くの優秀な人材が起業にチャレンジする。たとえ失敗しても、「店じまいすることになった」といったとたん、すぐにどこかのベンチャー企業から声がかかります。「明日からウチで働いてよ」と。起業するようなアイデアと実行力をもった人材なら、どの企業もほしがる。会社が倒産しても、落ち込んでいるヒマなんかないんです(笑)。日本ではどうか。会社を倒産させた社長は、多額の債務を抱えてしまう。「失敗者」のらく印をおされ、企業も雇いたがらない。再起は非常に困難です。「起業するのはリスクが高い」と思う人が多いのも無理はない。だから、日本では優秀な人材は大企業に入ってしまい、起業しないんです。
―ベンチャー企業が輩出されない原因は資金不足ではない、と。
孫:ええ。これまでにも国はベンチャー企業への資金供給を増やしてきましたが、うまくいきませんでした。では、なぜシリコンバレーはベンチャーを輩出できるのか。それは、起業家がサバイバルできる仕組みがあるから。森の生態系にたとえて説明しましょう。森に雨が降ると、木々はその水を根から吸い上げて成長します。樹木がベンチャー企業。水がおカネです。1本の木が枯れても、ほかの木の養分になって活きる。つまり、失敗した起業家は別の企業に雇われて再起できるんです。それに比べたら、日本は砂漠みたいなもの。たまに1本、木が育ってきても、枯れてしまえば終わり。その枯れ木を養分にする樹木がまわりにないのですから。こんなところに、いくら水をまいたって砂にすいこまれるだけ。ムダになってしまうんです。
―では、どこから手をつけたらいいのか教えてください。
孫:砂漠のなかのオアシスのように、小さくてもいいから養分が循環する場所をつくることです。そうしたオアシスが広がっていけば、やがて森になる。そのとき、日本もシリコンバレーのように次々にベンチャー企業を輩出できるようになります。第一歩として、僕たちMOVIDA JAPANではスタートアップ段階のベンチャー約100社を支援しています。その100社のなかで、事業を続けられなくなった企業が出てきても、成功しているところへ起業家や社員が再就職できるようにサポート。100社のなかで人材が回るコミュニティをつくっているわけです。また、ヤフージャパンと組んで「大手企業に在籍したまま起業する」という試みも始めています。これは、起業したいヤフーの社員が渋谷のシェアオフィスで新事業に取り組み、うまくいけば新会社を設立。失敗したらヤフージャパン本社に戻れるというものです。どちらも、起業に失敗したら、その経験をほかの企業のなかで活かせる。リスクを大幅に低減し、起業を促す試みです。
―再就職先や復帰先が保証されていると、リスクテイクして新ビジネスに賭ける起業家精神が生まれにくいのではありませんか。
孫:その通りですが、僕はそれでいいと思っているんです。なぜなら、リスクテイクの精神が成功の第一の要因ではないから。サッカーにたとえて説明しましょう。ブラジルは「W杯で優勝できるチームを3つぐらいつくれる」といわれるサッカー大国です。そうなった理由として、「ブラジルは貧しい人が多く、ハングリー精神がある。サッカー選手になるぐらいしか金持ちになる道はないので、子どもたちが必死で練習する」という説があります。でも、それがホントならアフリカや中南米の貧しい国もサッカー大国になれるはず。でも、そうはなっていない。ハングリー精神だけでは説明できないんです。では、なにが理由かといえば、ブラジルにはサッカーが文化として根づいていること。街角で子どもたちにサッカーを教えているのがW杯出場経験のある元代表選手だったりする。そうして文化が継承され、より豊かになり、いまのサッカー大国の形成につながっている。
―シリコンバレーには起業が文化として根づいていて、ベンチャーの聖地になっているわけですね。
孫:はい。シリコンバレーにリスクテイクの精神にとんだ起業家や、ハングリー精神おう盛な人材がいるのは確かです。でも、そういう人だけが成功しているわけじゃない。軽い気持ちで起業して、思いつきを事業化したら成功した、なんて例がいっぱいあるんです。日本でも、若い人たちがもっと気軽に起業したらいいんです。ロックバンドを組むように、気のあう仲間をみつけて会社をつくる。少額の資本で、小さな市場をねらう。「ふだんは公務員として働き、週末だけ起業家をやる」なんてのもアリ。そんな "カジュアル起業"で成功できるような時代になってきているからです。
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