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EVENT REPORT イベントレポート

株式会社エフ・コード 代表取締役社長 工藤 勉 / 株式会社ヘッドウォータース 代表取締役CEO 篠田 庸介

【ベストベンチャー100カンファレンス 2024 Autumn イベントレポート3】上場を果たしたベストベンチャー100会員の"成長の軌跡"

株式会社エフ・コード 代表取締役社長 工藤 勉 / 株式会社ヘッドウォータース 代表取締役CEO 篠田 庸介

毎年恒例のイベントとして定着した『ベストベンチャー100カンファレンス』。これから成長が期待されるベンチャー企業を厳正な審査の下に100社選出した『ベストベンチャー100』企業を始めとした、ベンチャー企業の経営陣が完全招待制で2024年9月13日に東京・明治記念館に集まった。当日は、日本を代表するベンチャーの起業家5名がパネリストとなる計3回の講演を実施。今回は、「上場を果たしたベストベンチャー100会員の"成長の軌跡"」をテーマに、エフ・コード代表取締役社長の工藤勉氏と、ヘッドウォータース代表取締役CEOの篠田庸介氏がパネリストとして登壇した3回目の講演内容をレポートする。

学生時代から起業の準備を進めていた

工藤 皆さま、はじめまして。エフ・コード代表の工藤勉と申します。最初に、自己紹介を兼ねて、事業や沿革の紹介、起業の理由について簡単に説明させてください。当社は、CX領域においてデータ解析のノウハウを有し、顧客企業に対してDX化を推進しています。2006年に創業してから、顧客企業のデジタルマーケティングを支援し、2013年からはSaaS事業を開始。その後、エフ・コードの経営基盤を強化するため、戦略的なM&Aを展開し、2021年12月に東証マザーズ(現:東証グロース)市場へ上場しました。起業したのは、2006年の大学卒業と同時だから22歳のときのこと。きっかけは、在学中に自動車学校のポータルサイトの運営に携わって、デジタルマーケティングに手ごたえを感じたからです。

篠田 皆さん、こんにちは。ヘッドウォータース代表の篠田庸介と申します。私も、事業、沿革、起業について簡単に説明させていただきます。当社は、生成AIの自然言語処理(NLP)モデルのアプリ開発をはじめ、IoTやAIを実装するDXサービス、AIプロダクトのサブスクリプションサービスを提供しています。私たちが大きく発展したのは、世界初の感情認識パーソナルロボット「Pepper」のアプリを独占開発してからです。AI分野の開発で知名度を上げ、2020年9月に東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)へ上場しました。設立は2005年ですから、今年11月でちょうど20期目を迎えたところです。ベンチャー企業の立ち上げに参画した経験がきっかけとなり、起業家としての道を歩み始め、1999年にはヘッドウォータースの前身となるE-Learning事業を柱としたIT企業を設立しました。その後、SESを中心に事業を展開しようと考え、優秀なエンジニアを増やし、2005年にヘッドウォータースを設立しました。

海外の大手競合に勝つために上場

工藤 私たちの成長戦略について説明すると、IPOする方針に転換したことでした。というのも、上場前から営業キャッシュはプラスだったし、資金調達の必要性を感じていなかったから、もともと上場しようとは考えていなかったのです。上場を決めたのは、バンコク、ジャカルタ、香港、台湾などに海外進出したときのこと。アメリカの巨大なSaaSベンダーをはじめ、大手の名だたるIT企業と対峙し、当時のエフ・コードでは太刀打ちできないと思ったのです。その打開策として、優秀なパートナーを増やし、強い組織をつくるためにM&Aが有効だと考えました。それに、上場すれば、銀行からの融資が受けやすくなるし、M&Aを実現する環境が整います。

AI・ロボティクスに特化して上場

篠田 私たちも同じく、成長するためには、上場が有効な手段だと考えました。ですが、工藤さんとは少し戦略が違っています。私たちの場合は、SESを中心に展開していましたから、優秀なエンジニア人材を集めることが最重要課題だったのです。ですから、IPOを実現すれば、社会的な知名度や信用度が高まり、優秀な人材を多く集められると考えました。それに当時は、どこよりも早くベトナムやカンボジアに支社を立ち上げ、現地の優秀なエンジニアを採用して組織力を高めようとしていたのです。

 その後、ベンチャーキャピタルの力を借りて上場計画を策定し、ヘッドウォータースの株式を30%ほど売却しました。ところが上場の準備を着々と進めていたところ、リーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破綻し、世界的な金融危機と不況を迎えました。結局、上場を見送らざるを得ない状況となり、売却した株は5年ほどかけて100%買戻しました。そのタイミングで、最先端の技術開発によって成長する戦略に切り替えることにして、当時は黎明期であったAI・ロボティクス領域に着手しました。なかでも「Pepper」のプロジェクトを独占的に進めることができたのが大きく、これによって他社よりも一歩リードできました。また、「Pepper」のアプリ開発は、吉本興業と協業で取り組んだことで、ヘッドウォータースの知名度を一気に高めることに繋がりました。

 AI・ロボティクス領域での成長をきっかけに、従来の事業部ごとにエンジニアを配置する体制から、AIソリューションの開発業務に集中するための組織再編に着手しました。また同時にエンジニアのリソースを提供するSES事業からは撤退しました。これはAI・ロボティクス領域に特化するなら、事業部ごとに分かれていてはエンジニアが気持ちを1つにして取り組めないと思ったからです。そうした理由から方針転換と組織体制を変更したのですが、賛成する社員ばかりではなく、一部のマネジメント層は反発して退職してしまいました。それでも、今振り返ってみれば、やはり正しい選択だったと思います。経営方針に共感してくれる社員が残り、新しい組織に生まれ変わる瞬間であったからです。この時の意思決定を誤っていたら、業績は伸びずに上場は果たせなかったでしょう。

M&Aで急成長の期待値を高めた

工藤 私たちの場合は、上場後にターニングポイントを迎えました。ステークホルダーから「予想以上に時価総額が上がらない」という反応があったのです。とはいえ、SaaSの市場は成熟していたし、キャッシュフローを健全な状態に保っていましたから決して悪かった訳ではありません。ですが、毎年100社もの企業が上場する訳ですから、上場直後に期待値を高められなければ忘れられてしまう。そのような危機感があり、当初から準備を進めていたM&Aを一気に加速したのです。結果として、広告会社、システム開発会社、クリエイティブ会社など、デジタルマーケティングのSaaS事業に関連する企業を対象とし、事業シナジーが期待できる11社のM&Aを実現しました。

 ですから、M&Aを進める上では、エフ・コードのビジョンに共感してもらい、交渉先の起業家と一緒に連合を組めるかどうかを注視。最大の狙いは、短期間でM&Aを加速させ、業界の変革を起こすような急成長の予感をステークホルダーに与えたいと考えていました。それにM&Aは、資本から調達する方法も考えましたが、株式価値が棄損する可能性をステークホルダーに感じさせてしまうため、銀行からの融資を実現するファイナンス戦略にこだわったのです。結果的には、銀行から100億円の借り入れを実現し、有力な企業11社のM&Aを実現。11社の合計で70億円ほど投入し、銀行と信頼関係を築いていた当社の財務が成功に導いてくれました。当面予算として、約50億円のM&Aを計画しています。

上場後に大手との提携で業績を伸ばした

篠田 私たちは、上場後も苦しい状況が続きましたね。2021年12月に東証マザーズ市場(現:東証グロース市場)に上場を果たしたものの、ちょうど新型コロナウイルスが猛威を振るった時期だったので、上場の前後では業績に大きな打撃を受けたからです。予想以上にコロナが長引いたせいで、先々の見通しが立てられず、結果として株価が下落してしまいました。

 当時、私たちも上場後にインパクトを与えよう考え、水面下である上場企業とM&Aの交渉を進めていました。相手側の合意で話が進んでいたものの、コロナショックで相手企業の時価総額が下がったため、M&Aを見送ることにしました。そこで改めて「技術開発で勝負すれば成功の道が拓ける」という信念を貫こうと考えたのです。

 その後は、2023年にマイクロソフト、NVIDIA、SONYとのアライアンス体制を構築し、大手企業向け生成AI活用支援サービスを開始しました。M&Aこそ実現はしませんでしたが、上場したことで大手とのアライアンスには成功。そのお陰で技術開発が進み、ヘッドウォータースの成長にも繋がった訳です。その結果、株式市場から注目を集めて、2023年上期では株価上昇率が771.8%で1位に。直近では、2024年に生成AI実装における国内トップクラスの実績が認められ、マイクロソフトジャパンの「AI イノベーション パートナー オブ ザ イヤー アワード」を受賞しました。現在では、マイクロソフトからの新規顧客の紹介を受けるようになり、業績を伸ばし続けています。
PROFILE プロフィール
工藤 勉(くどう つとむ)プロフィール
東京大学在学中に経営コンサルティング会社に参画。ベンチャー企業支援や大企業向けプロジェクトに従事し、自動車学校のポータルサイト運営会社を経て2006年に株式会社エフ・コードを創業。デジタルマーケティング支援を開始、2013年よりSaaS事業を開始。2021年12月に東証マザーズ(現:東証グロース)市場へ上場。既存事業領域を中⼼に、シナジーのある同業種あるいは隣接領域のソリューション強化を図るべく、上場時から現在(2024年4月1日時点)までに計11件のM&Aを実施。

企業URL:https://f-code.co.jp/
篠田 庸介(しのだ ようすけ)プロフィール
1989年にベンチャー企業の立上げに参画。以降、一貫して起業家としての道を歩み、1999年にはE-Learning事業を柱とするIT企業を設立。シリコンバレーのようなエンジニアが活躍し新しいビジネスを生み出す環境をつくるべく、2005年に株式会社ヘッドウォータースを設立し、代表取締役社長に就任。エンジニアを中心に据えたユニークな組織運営や、黎明期のAI・ロボティクス領域への進出などで注目を浴びる。2020年9月に東京証券取引所マザーズ市場(現:東証グロース市場)に上場、初値上昇率が過去最高の11.9倍をつける。2023年には、マイクロソフト・NVIDIA・SONYとのアライアンス体制を構築し、大手企業向け生成AI活用支援サービスを開始。再び株式市場から注目を集め、2023年上期の株価上昇率1位(上昇率771.8%)となる。そして2024年、生成AI実装における国内トップクラスの実績が認められ、マイクロソフトジャパン の「AI イノベーション パートナー オブ ザ イヤー アワード」を受賞。ヘッドウォータースグループを牽引し、AIの社会実装、Society5.0実現を目指す。

企業URL:https://www.headwaters.co.jp/
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