EVENT REPORT イベントレポート

【ベストベンチャー100カンファレンス 2025 Spring 講演➀】コインチェックグループ、NASDAQ上場 買収、上場、そしてグローバルへ
マネックスグループ株式会社 代表執行役会長 兼 コインチェックグループ エグゼクティブチェアマン 松本 大
これから成長が期待されるベンチャー企業を厳正な審査の下に100社選出する『ベストベンチャー100』。その選出企業を始め、完全招待制でベンチャー企業の経営陣に参加を呼びかけ、2025年3月18日に『ベストベンチャー100カンファレンス2025 Spring』を明治記念館で開催した。第一部の講演では、日本を代表するベンチャーの経営者が登壇。今回は、「コインチェックグループ、NASDAQ上場 買収、上場、そしてグローバルへ」をテーマに、マネックスグループ株式会社代表執行役会長兼コインチェックグループ・エグゼクティブチェアマンの松本大氏が行った講演の内容をレポートする。
自己紹介
イシンさんとは長いお付き合いです。当社の創業は1999年の4月。現在、イシン会長の明石智義さんが、『ベンチャー通信』の取材でマネックスのオフィスにいらっしゃったのがその頃ですので、もう26年になります。マネックスグループは2024年12月に、日本で暗号資産業を営むコインチェック株式会社の中間持株会社であるコインチェックグループを米証券取引所のナスダックに上場させました。私はそのコインチェックグループの取締役会長に就任し、その経営に注力しています。マネックスグループは、創業以来、私がCEOを務めてきましたが、1年半ほど前に清明祐子が取締役兼代表執行役社長CEOに就任し、私はCEOを降りました。今回、私は代表執行役も降りるということで、マネックスグループのサクセッションはほぼ完了した形です。コインチェックグループをナスダックに上場させたのは、「グローバルに展開しないとさらなる成長はできない」と考えたのが理由です。今後、やるべきことをしっかりやって、早いうちにこちらのサクセッションのプランも実行していきたいと考えています。
企業理念
マネックスという社名の由来をお話ししましょう。1968年に公開された『2001年宇宙の旅』という映画があります。当時から見ると2001年というのは未来だったわけですが、その映画に出てくるコンピュータが「HAL」です。これはIBMのアルファベットを1個ずつ前に出して、「未来のコンピュータ」という意味合いでつけられた名前と言われています。そこで、マネックスも、「money」の「y」を一歩進めて「x」に変えて、「未来の金融サービス」という意味を込めました。時代が進むにつれて、仮想通貨が登場するなどお金の概念も変化しています。私が、なぜ金融業界でビジネスをやっているかというと、「個人の自己実現を可能にして、その生涯バランスシートを最良化する」ことを支援したいからです。たとえば、お金が増えれば生涯バランスシートは良くなります。不健康、病気になると医療費などいろいろな出費が増える一方、稼ぐ力が弱くなって収入が減るので生涯バランスシートは悪化します。ですから、持っているお金を増やすことも生涯バランスシートを良くすることですし、健康であることも生涯バランスシートを良くすることといえます。当社はいま、ヒトの全ゲノム情報を解析して、難病の治療や製薬に活用するビジネスも手がけています。これも、個人の自己実現への貢献につながると考えるからです。
グローバル展開
マネックスは2011年にトレードステーションというアメリカの大手オンライン証券を買収。2018年にコインチェックを買収した後、2024年には、カナダの暗号資産運用会社3iQを買収しました。同年末には、コインチェックグループを米ナスダック市場に上場。これらは常に「グローバル展開」を目指すための取り組みです。日本国内では成長のスペースが限られています。グローバルに展開しないと、「新しい価値観、新しい技術」を学べずに、市場からどんどん取り残されてしまう恐れがあります。ですから、きちんと自分たちをいまの時代にアップデートさせるためにもグローバル展開が重要と考えています。
CCG上場までの道のり➀新ビジョン「第二の創業」
2017年、ソニーの元CEOであり、当時マネックスの社外取締役を務めていた出井伸之さんから、「CEOの仕事は、次の成長分野を考えることだよ」という言葉をいただきました。その言葉をきっかけに、新たなビジネスの可能性を探るため、さまざまな分野の方々に「いまの世の中や未来をどうとらえているか」を聞いて回ることにしたのです。その結果、「ブロックチェーンが資本市場を変えていく」という姿が見えてきました。その後、ブロックチェーン技術の集積地であり、その分野の優秀なエンジニアが集まる場所として「暗号資産交換所」を自分たちで作ろうと考えたのが2017年の秋でした。
CCG上場までの道のり➁コインチェックの買収
その直後、2018年の1月にコインチェックがハッキングされて、580億円相当の暗号資産が流出する事件が発生。それを機に、同社を買収することになりました。当時はまだ、ブロックチェーンは「よくわからない技術」とされていました。そもそも、金融業界は非常に中央集権的な構造です。銀行であれば、中央銀行がお金の発行や流通を管理し、証券であれば、東京証券取引所が株の流動性を管理しているわけです。それに対して、ブロックチェーンの世界は「完全分散型」。双方の世界では、ビジネスのアイデアだけでなく、働いている人の考え方や文化も全然違います。そのため、マネックスとコインチェックはまったく違うタイプの企業なのです。買収に当たっては、「再び、暗号資産の大量流出が起きたらどうするか」という強烈なリスクもありました。しかし、たくさんの人の話を聞いた結果、私には、「これからブロックチェーンの技術が非常に重要になる」という確信がありました。ですから、さまざまな課題を克服しながら、買収によって「コインチェックと一緒に成長していこう」と決断しました。
CCG上場までの道のり③コインチェックの構造改革
ところで、私は、買収を発表した記者会見の場で「コインチェックのIPOを目指す」と宣言しました。そのためには、二度とハッキングをされないように「セキュリティや内部統制を抜本的に強化する」といった対策が必要でした。それまで盛り上がっていた仮想通貨市場は、コインチェックのハッキング事件を機に、一気に熱が冷めていました。世界中の仮想通貨交換業者が赤字になるなかで、2018年からコインチェックの構造改革を開始。マネックスから人材を送ったほか、私自身の時間もかなり費やしました。
CCG上場までの道のり④コインチェック上場への取り組み
ようやく黒字化を果たした後に、いよいよIPOに向けて取り組みを開始しました。IPOを目指したことには理由があります。暗号資産のビジネスに対して、銀行はお金を貸してくれませんし、デッドファイナンスもできないからです。かといって、コインチェックが自社で稼いだお金を使って、オーガニックに人を雇って大きくしていくのは非常に時間を要します。しかも、良い人材、良い技術を有する企業を買収して成長を図ろうとしても、そのためのお金を借りることも、債券を発行して資金調達することもできません。そうしたなかで、「コインチェックの上場を目指そう」と考えたのです。そして、グローバルに成長するには、やはりナスダック市場に上場しなければいけません。優秀なエンジニアを採用する際に、「東証で売買されている円建ての株」と言っても、インパクトがありません。「ドル建てのアメリカのナスダックで取引されている株」というのがユニバーサルランゲージであり、そうでないと、成長性の高いテクノロジー企業を買収することは難しいのです。
CCG上場までの道のり⑤コインチェックG上場プロジェクト
ここには強い決意がありました。そして、「SPACとの合併を経ての上場」という道を選んだのです。まず、2021年に、ニューヨークのJPモルガン・チェースと合併先企業や主幹事証券会社を決める協議を開始しました。2022年からは、正式に米ナスダックに上場するプロジェクトをスタート。SECの監査基準に耐えられるように内部統制をさらに強化する取り組みを始めました。バイデン政権下では、新規分野、特に仮想通貨業界に後ろ向きだったこともあり、SECとの膨大なやり取りは約3年に及びました。また、コインチェック型の仮想通貨交換所をどのように会計処理するかについても、アメリカではまだ方法が固まっていませんでした。我々と、KPMG/あずさ監査法人、SEC、ローファームとの間で話し合いを重ねながら、会計方針を模索する取り組みがとにかく大変でした。要するに、「全く存在しないマーケット」で、こういった形の会社は前例がないので、SECとしてもそうした会社の会計をどう処理するかの方針が決まっていなかったからです。
私は長く金融の仕事をやってきたので、さまざまなディールの経験がありますが、上場までには、そのなかでも最長の3年間かかりました。それに費やしたエネルギーも膨大です。SPACとの信頼関係が重要ですので、私は3年間、毎朝のように、アメリカにいる先方の担当者とリモートで会話の時間を持つ生活を続けました。お金も非常にかかりましたが、なんとか上場を果たすことができました。「仮想通貨業界を支援するトランプ政権になったから上場できたのではないですか。運が良かったですね」と言われることがあります。しかし、仏教の世界では「運」という概念はなく、「因果」しかありません。つまり、「必ず理由があって結果がある」ということです。私は、「グローバルに展開するために、ナスダックに上場するんだ」という強い意志を持って3年間、努力を重ねたから、結果が出たと考える方が適切だと思います。ですから、政権が変わらなくても上場はできたと私は考えています。
私は長く金融の仕事をやってきたので、さまざまなディールの経験がありますが、上場までには、そのなかでも最長の3年間かかりました。それに費やしたエネルギーも膨大です。SPACとの信頼関係が重要ですので、私は3年間、毎朝のように、アメリカにいる先方の担当者とリモートで会話の時間を持つ生活を続けました。お金も非常にかかりましたが、なんとか上場を果たすことができました。「仮想通貨業界を支援するトランプ政権になったから上場できたのではないですか。運が良かったですね」と言われることがあります。しかし、仏教の世界では「運」という概念はなく、「因果」しかありません。つまり、「必ず理由があって結果がある」ということです。私は、「グローバルに展開するために、ナスダックに上場するんだ」という強い意志を持って3年間、努力を重ねたから、結果が出たと考える方が適切だと思います。ですから、政権が変わらなくても上場はできたと私は考えています。
CCG上場後のストーリー➀今後の戦略
今後は、コインチェックのビジネスを強くするために、国内外で買収を進めていきます。まず、主力事業の強化に資する企業を買収する「垂直型買収」。これに加え、暗号資産を法定通貨に換金するサービスなど、コインチェックとは違う方向で事業を展開している企業を買収する「水平型買収」を合わせてやっていこうと考えています。
CCG上場後のストーリー➁未来
デジタルエコノミーは今後、必ず成長すると思いますし、トランプ大統領も全力で推進しています。現在、金の時価総額は約14兆ドルで、ビットコインの時価総額はその約14%の約2兆ドル。我々がコインチェックを買収したとき、金の時価総額に占めるビットコインの時価総額は2~3%にすぎませんでした。アメリカは「ビットコインを戦略備蓄する」と言っています。中国もせっせとドル債を売って、ビットコインを買っています。将来的に、金に対するビットコインの時価総額の割合は、20%、30%、40%に上昇していく確率は高いと思っています。そうしたなかで、コインチェックをナスダックに上場させたことで、マネックスグループと共にさらに成長していきたいと考えています。もちろん上場は、ゴールではありません。上場株を「買収通貨」として使うことで、さらに成長していきたいと考えています。
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