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EVENT REPORT イベントレポート

株式会社ファインドスターグループ 代表取締役 内藤 真一郎 / 株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO 曽山 哲人

【ベストベンチャー100カンファレンス 2025 Spring 講演③】経営人財の育み方

株式会社ファインドスターグループ 代表取締役 内藤 真一郎 / 株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO 曽山 哲人

これから成長が期待されるベンチャー企業を厳正な審査の下に100社選出する『ベストベンチャー100』。その選出企業を始め、完全招待制でベンチャー企業の経営陣に参加を呼びかけ、2025年3月18日に『ベストベンチャー100カンファレンス2025 Spring』を明治記念館で開催した。第一部の講演では、日本を代表するベンチャーの経営者が登壇。今回は、「経営人財の育み方」をテーマに、株式会社ファインドスターグループ代表取締役の内藤真一郎氏と株式会社サイバーエージェント常務執行役員CHOの曽山哲人氏が行った講演の内容をレポートする。

自己紹介

内藤:ファインドスターグループの内藤と申します。私は大学卒業後、リクルート人材センター(現リクルート)に3年ほど勤めた後、1996年に広告代理事業のアレスト(現ファインドスター)を創業しました。2015年にグループ全体を統括する持ち株会社のファインドスターグループを設立し、現在は、若手の企業家やベンチャーの支援を行っています。当社のグループ会社は15社ですが、ほとんどが生え抜き社員の起業を支援してグループ化しているのが特徴です。大手志向の日本では、ベンチャー企業の社会的地位が高くありません。そこで、「ベンチャーや起業家が成功する確率を上げることが、日本社会の活性化につながる」という想いがあります。

曽山:サイバーエージェントで人事責任者を務めている曽山と申します。当社は1998年の設立。私は翌年、従業員数20名のときに入社しました。広告営業に6年間携わった後、人事を20年間担当しています。昨年度の売り上げは約8,000億円。当社では、M&Aを最近始めていますが、基本的には、新規事業をゼロから立ち上げて、そこに内部育成した人財を当てています。

なぜ経営人財が必要なのか

曽山:経営者というのは、いわば「総合プロデュースができる人」。未来を見据えて、人、モノ、カネといった資源を「どう配分するか」を決められる資質が経営者にとって非常に重要です。ですから、そういった会社の全体を見渡せる経営人財が必要なのです。当社では、これまでの経験で、「実際に経営を任せない限り、経営を担えるだけの能力は身につかない」と学びました。そのため、社員にはなるべく子会社の社長や新規事業の立ち上げを任せ、「すべて自分で決断する」という環境に投げ込むことで、経営人財を育てています。

内藤:チャットGPTの普及に代表されるように、現代はビジネスモデルの陳腐化が非常に早い時代です。そのため、既存のプロダクトを動かすだけの会社は、すぐにマーケットから淘汰されてしまいます。こうした環境では、変化する市場に対応し、自ら考えて動ける「フレームワークを超えて自走できる経営人財」が不可欠です。なぜなら、すべてをトップが考えていては変化にキャッチアップしきれず、持続的な成長が難しくなるからです。

組織における失敗の経験

曽山:従業員数が200~300人に急増した創業3年ぐらいの時期に、採用で失敗しました。当時は、スキル重視で、「社風に合わないけど、スキルが高い人」を採用していました。しかし、そうした当社のカルチャーに合わない人は、後輩や部下を徹底的に潰そうとしたのです。そのため、辞めてしまう人が続出し、離職率が年30%という状態が3年間続きました。そこから、「社風に合わない人は採用しない」という教訓を得ました。「合わない人を採用しない」ためには、「どういう人を採用して失敗したか」というリストを作ることが重要です。そうすることで、「会社に合った人」の採用が増えていくと思います。

内藤:当社は創業当初、10名ほどの社員でWeb制作をやっていました。そこから今の広告代理業に転換して、社員数を一気に60人に増やしたときは、1年で20名以上が辞めてしまいました。当時は、組織作りというものを全く理解していなかったのが原因です。「ミッション、ビジョン、バリュー」も軽視し、「とにかく金を稼いでこい」という会社でした。退職者が続出してから、ようやく、経営メンバーと共にMVVの策定に着手しました。合わせて、ミドルマネージャーとのコミュニケーションに力を入れ、「会社をどう経営していくか」を一生懸命議論しました。その結果、離職率は大きく低下しましたね。

経営人財の見抜き方

内藤:経営人財には、「人の喜びが自分の喜び」と考えられる人徳や人間性を持つ人がふさわしいと思います。また、「商売センス」、「拡大志向」も経営人財の適性として必要です。「言われたからやる」のではなく、仕事が本当に好きであることが重要。たとえば、中途採用の選考で、大手企業から来た人であれば、「あなたが事業部長だったら何を変えるか」と聞きます。本当にビジネスが好きで、普段から良く考えている人は「立て板に水」で「自分だったら、こうする」と話してくれます。経営人財を見抜く際、私は、その点を重視していますね。

曽山:経営人財を任命する際、役員会で重視するのが「意思表明」と「逃げない姿勢」です。「自分がやりたい」と手を挙げること自体がリスクを取る行動であり、評価に値します。また、トラブルに直面しても逃げずに向き合えること、さらには環境の変化に応じて柔軟に事業をピボットできることが求められます。そうした姿勢を持つ人財こそ、将来の経営を担う可能性が高いと考えています。また、幹部から役員に抜擢する際には、「成果・影響・人望」の3要素を重視します。業績に加え、社内外に与える影響力、そして困難な局面でも周囲から支援される人望があるかが重要です。とくに人望は、経営に必要な情報や協力を得るうえで欠かせない資質といえるでしょう。

「人望」や「人間性」の判断の仕方

内藤:私が面接で「人望」を評価する際は、「ここ1~2ヵ月で、仕事でうれしかったこと」を聞きます。その際、「人の喜びが自分の喜び」と考えられる人は、「お客さまにこういう貢献をしました」、「社内でこんなプロジェクトを実行したら、喜ばれました」といった話をしてくれます。「MVPを取った」、「目標を達成した」という自分の実績ではなく、こうした「人の顔を思い浮かべたエピソード」が語れる人には「人望」や「人徳」があると思います。

曽山:当社では、「人間性」や「人望」が、マネージャーへの昇格要件になっています。マネージャーは仕事で成果を上げ、かつ「人間性」が備わっていることが重要です。ただ、この「人間性」を評価することは難しいため、いくつかの切り口で見ています。まず、その部署の担当役員から見て、その人が周りから慕われていると感じられるか。次に、「あなたの周りにいるイケてる人を教えてください」という質問に対して、具体的な名前を複数挙げられる人は、周囲をよく観察し、積極的に交流している証拠です。そうした行動から、私たちは「この人には人望がある」と判断します。また、当社では半年に1回、新人賞やMVP、マネージャー賞、エンジニア賞などの表彰をしています。受賞者は、全社員による投票で決めますが、当然、嫌いな人に票は投じないですよね。この投票結果をまとめて、「人望の有無」を評価しています。

経営人財の育成における成功パターンとは

曽山:同じ経験をしても、「内省」をしているかどうかで、成果には大きな差がついてしまいます。当社のMVP社員にヒアリングした結果、彼らに共通していたのは、「振り返りを欠かさないこと」でした。帰りの電車やお風呂の中で、「今日1日どうだったか」、「今日どんな話をして、それが良かったか悪かったか」を振り返るのです。こうした振り返りの習慣を持つ人と、持たない人では成果に大きな差が出ます。

内藤:挫折・気づきが飛躍的成長につながると考えています。そのためには、「失敗の言語化」が大事です。「なぜうまくいかなかったのか」を考えることです。失敗した経験を言語化することによって、その後の改善につながり、成長することができるのだと思います。

経営人財になる人の覚悟の持たせ方は

内藤:当社の場合、社内の人財にいったん退職してもらって、不退転の決意で起業してもらいます。「退職後、あらためて起業する」という経験自体が本人の覚悟につながると思います。社内起業の第一号から、そのような仕組みでやっています。

曽山:当社では「資本金が尽きたとき」や「粗利益が4四半期連続で減少したとき」など、明確な撤退基準を設けています。こうした期限を伝えることで、本人に覚悟が生まれ、やる気のスイッチが入ります。また、「決断の選択肢を奪わない」という方針のもと、すべての判断を本人に委ねることで、より強い責任感と覚悟が育まれます。

経営人財のどんな力を鍛えるべきか

内藤:会社のキャッシュフローを身をもって体感してもらうという意味で、経営人財にはPLへの意識を高めてもらうようにしています。たとえば、当社の九州営業所では、おもな取引先の多くが健康商品や化粧品を扱う通販会社です。これらの企業はD2Cモデルを採用しており、先行して広告を打ってから利益が出るまでに時間がかかるため、比較的支払いサイトが長い傾向にあります。そこで営業所長に対して、「支払いサイトを短縮できないか、取引先と交渉してほしい」と依頼しましたが、当初はなかなか成果が出ませんでした。ところが、分社化後に「グループ会社への融資にはこれだけの金利がかかる」と説明したところ、支払いサイトはすぐに短縮されたのです。「自分たちが高い金利負担をしなければならない」と気づいたことで、所長も本気で取引先との交渉に臨んだのだと思います。

曽山:経営人財を鍛えるため、まず、「伸びる市場を狙いなさい」と言っています。「小さい黒字を作るのではなく、スケールが取れる市場を狙おう」ということ。そこから、「市場規模はどれくらいか」、「競合はどこか」といった議論が生まれます。それに伴って、目標を設定してもらうのです。市場が未開拓で、売り上げのロジックがないなかで、目標を決めるのは大変です。しかし、「自分で未来を作り、ビジネスを作る」ということを学べるので、非常にいい育成になっていると思います。

経営人財を伸ばす仕組み―失敗した人への対応や文化は―

内藤:当社では、「失敗プレゼン」に力を入れています。持ち時間20分ぐらいで、外的要因、内的要因を分析して、失敗の言語化をしてもらうのです。この言語化の仕方で、その人財が「今回の失敗を糧に成長するな」とか「また失敗しそうだな」ということがわかります。また、失敗に対する内省も重要です。もちろん、向き不向きもありますので、「新しい事業の立ち上げは、この人にはしんどいな」と思えば、その人に合った事業部に回ってもらうこともあります。

曽山:新規事業の立ち上げに失敗した当事者たちに取材して、その体験を社内報で共有しています。インタビューを受けることで、当人にとっては、内省する良い機会になり、失敗の言語化が非常に進むのです。若い社員にとっては、社内で事業を立ち上げるときに、そうした失敗の経験が非常に参考になります。当社は以前、新規事業に失敗した関係者は、ほぼ全員辞める傾向がありました。それを教訓に、まずは失敗者をしっかり労うことにしています。「ありがとう、よくやってくれた」と労うことで、感情の安定化を図り、離職を防ぐのです。2つ目は、「次に何をやりたいか本人の意思を聞く」。事業部に戻りたいのか、新会社をまたやりたいのかを聞いて、できればその意向を尊重したいと考えています。3つ目は「見守る」。会社に残ってくれれば、また活躍してくれる貴重な人財ですから、面談など手厚いフォローをします。このように、会社として、失敗した人をちゃんと守る姿勢を示すと、社内でも同じ失敗が繰り返されないようになり、結果的に、業績上のマイナスを減らせます。ですから、こうした「失敗へのアプローチ」は非常に大事だと思いますね。
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