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EVENT REPORT イベントレポート

株式会社kubell 代表取締役CEO 山本 正喜 / クックビズ株式会社 代表取締役社長 藪ノ 賢次

【ベストベンチャーWEST100カンファレンス 2025 Winter講演➀】"経営トップの決断" 未来を創る選択とその裏側

株式会社kubell 代表取締役CEO 山本 正喜 / クックビズ株式会社 代表取締役社長 藪ノ 賢次

これから成長が期待される西日本のベンチャー企業を厳正な審査の下に100社選出する『ベストベンチャーWEST100』。その選出企業を始め、完全招待制でベンチャー企業の経営陣に参加を呼びかけ、2025年1月21日に『ベストベンチャーWEST100カンファレンス』をヒルトン大阪で開催した。第一部の講演では、日本を代表するベンチャーの経営者4名が登壇。今回は「講演➀」として、「‟経営トップの決断"未来を創る選択とその裏側」をテーマに、kubell代表取締役CEOの山本正喜氏と、クックビズ代表取締役社長の藪ノ賢次氏が行った講演の内容をレポートする。

HRとDX分野で事業拡大して東証グロースに上場

山本:皆さん、こんにちは。kubellのCEOを務めている山本です。大学在学中の2000年に兄弟で起業しました。兄がCEOを務め、私はCTOとして、おもにプロダクト開発に携わり、ビジネスチャット「Chatwork」を企画し、2011年にリリースしました。その後、Chatworkの事業を拡大し、2018年に社長に就任して、翌年9月、東証マザーズ(現東証グロース)に上場を果たしました。2024年7月には社名を「Chatwork」から「kubell」に変更。この「kubell」という名前は、「薪をくべる」に由来します。働く人々の心に宿る火に薪をくべるような存在でありたいという思いを込めました。

 主力事業はChatworkで、おもに300名以下の中小企業向けに提供しており、この市場では圧倒的なシェアを誇ります。現在、登録ID数は720万以上、ARRは75億円を超える規模となり、国内で最も多く利用されているビジネスチャットです。いまは、次の展開として、ビジネスチャットを通じてBPOやDXを進めるBPaaSという新しい領域に挑戦しています。BPaaSは、SaaSの上位概念。SaaSツールを提供するだけでなく、それらのツールの運用代行を通じて中小企業の業務効率化をサポートします。たとえば、クラウド会計ソフトの導入を支援し、その運用を代行して、顧客の業務をサポートすることで、DXを進めるというコンセプトです。このアプローチは非常に効果的と考えており、実証実験を経て、今後さらに展開する方針です。私たちは、ビジネスチャットの枠を超えて、「BPaaSナンバーワンカンパニー」として、いっそうの成長を目指しています。

藪ノ:こんにちは、クックビズ代表取締役社長の藪ノです。私は2004年に大学を卒業し、その約1年後に起業しました。当時は、医療や介護といった分野の「特化型人材サービス」が注目されていました。そこで私は、飲食業など食分野に特化した人材サービスを提供することを決意し、2007年にクックビズを立ち上げました。当社は2017年、東証マザーズ(現東証グロース)に上場。現在は、飲食業界の業務効率化を目指してDX事業を進めています。私たちの目標は、飲食業の持続可能性を高め、事業の成長を支援すること。最近は、事業再生の領域にも進出しています。

ターニングポイントにおける"経営トップの決断"

山本:Kubellの最初の重要な決断は、2015年から2016年あたりでした。最初に会社を立ち上げたとき、私はまだ学生で、社会人経験もありません。「自分たちが働きたいと思う会社を作ろう」というシンプルな動機で、20代の若者たちと一緒に起業したのです。当時はインターネットの黎明期で、経験の浅い若者でも成功のチャンスをつかめる時代でした。その後、GoogleやMicrosoftなどの海外勢が日本市場に進出。国内の大手企業もインターネット事業に参入するようになると、私たちのような小さな会社が対等に競争することが難しくなってきました。非常に苦しい時期を迎えるなかで、起死回生を狙って開発したChatworkが幸いにもヒットしたのです。

 当初、私たちは「資金調達せずにグローバルで勝つ」という方針でした。その後、世のスタートアップがこぞって資金調達による上場を目指すようになり、私たちもその流れに乗るべきか悩みました。Chatworkはもともと社内のコミュニケーションツールとして制作し、事業化を予定していませんでした。しかし、その使いやすさなどが支持され、急速に利用者数が拡大。そのため、膨大なトラフィックの処理が追いつかなくなり、システムの耐久性が限界近くに達した時期もありました。2014年には、システムが何度もダウンし、ビジネスチャットとしての信頼性が問われる事態が発生したのです。当社のなかで、「システムを改善しない限り、サービスを終了せざるをえなくなる」という危機感が生じました。そうした経緯を経て、私たちはトップレベルの技術者を採用してシステムを作り直すことに着手。その結果、現在のように安定したサービスを提供できるようになったのです。

 Chatworkをリリースした当時、競合はほとんどいませんでした。ところが、LINEが急速に広まったことで、ビジネスチャット市場がにわかに注目を集めるようになりました。そのため、当初はブルーオーシャンだった市場が、レッドオーシャンに変わり、当社は、またしても厳しい状況に直面。「このままでは、グローバル市場の競争で生き残れない」と判断し、2015年と2016年に計18億円の資金調達を決めたのです。その後は順調に売上が拡大して、明確にIPOを目標に据えるようになりました。また、アメリカのスタートアップ勢と競い合うために積極的に人材を採用することで、事業を加速させてきました。

藪ノ:私たちにとっては、新型コロナウイルス禍が大きなターニングポイントでした。設立当初は小さな企業だったため、リーマンショックの影響はあまり受けませんでした。ところが、会社が成長し、事業規模が大きくなると、初めて迎える不景気の影響を感じたのです。それがコロナ禍でした。私たちははじめ、「安定した飲食業に事業を特化すれば、不景気になっても乗り越えられるだろう」と思っていました。しかし、コロナ禍では、飲食店からお客が消えて、「人手なんていらない」という、まったく予測していなかった事態を迎えたのです。コロナ禍で売上は半分以下となり、2020年、2021年と2期連続で赤字を計上しました。

 上場を目指す多くのベンチャー企業と同様に、私たちも、最初はワンプロダクトでスタートしました。しかし、コロナ禍で飲食市場規模の限界に直面し、ニッチトップシェア戦略が通用しなくなりました。成長の陰りが見え、ニッチトップシェア戦略からの脱却を図るなかで、「事業の多角化が必要」と考えるようになったのです。いま思えば、コロナ禍という外部的な圧力がなければ、事業の多角化を進めることはできなかったと思います。その後、当社は2022年から、ホタテの加工会社「きゅういち」などのM&Aを本格化するとともに、特定技能外国人の人材紹介事業など、新たな分野に進出しました。

グループ全体でどう組織を最適化するか

山本:基本的にミッション、ビジョン、バリューはグループ全体で共通にしたいと考えています。たとえば、「働くをもっと楽しく、創造的に」という当社のミッションは、グループ全体の傘として機能しています。ただし、各社の事業特性に合わせたカルチャーは必要です。プロダクト系のkubellではスタートアップっぽいカルチャーをつくり、BPaaSを提供するグループ会社のkubellパートナーではBPOっぽいカルチャーを形成するといった感じです。M&Aでグループインした会社や新規事業などは、「これらのどちらに近いか」を基準に調整しています。このように、「カルチャーを混ぜるとお互いにとって、かえって良くない」という場合は、各社のカルチャーの境界を区切るように工夫しています。

藪ノ:当社では、事業の多角化を進めるなかで、抽象度の高いミッションやビジョンを掲げていました。そのことで、経営陣としては経営しやすくなった反面、HR事業の現場からは「人材の課題を解決するために入社したのに」と、自分たちがクックビズに入った理由が見えづらくなるというハレーションが生じたのです。そのため、もう一度クックビズ単体として、「人にフォーカスする」という意思を明確にする必要性を感じました。そこで、「強いHR事業」を取り戻すため、新たに、ミッションを「『食』は『人』」、ビジョンを「Empower the Food People」と定めたのです。見直した結果、社内の統率がしやすくなったと感じています。

 私たちは飲食業に特化した人材紹介事業を行っていますが、これまでは競合もほとんどありませんでした。しかし、AIなどテクノロジーの台頭により、ホワイトカラーの人材需要が減少していく状況下で、これからの人材紹介事業の主戦場はブルーカラーになっていきます。このようにHR事業の事業環境が変化するなかで、2024年にファウンダーである私が代表取締役社長とHR事業の責任者を兼務して、組織をけん引することを決断しました。「次の社長候補を育てる」という気持ちで、事業運営に取り組んでいます。

オーディエンスに向けたメッセージ

山本:私たちは、DXによって、中小企業の顧客がコアビジネスに注力できるような環境を実現したいと考えています。実際、中小企業はここ30~40年間、労働生産性がほとんど変わっていないのが現実です。日本では中小企業の従業員数が全体の約7割を占めますが、その労働生産性は大企業の半分以下にとどまっています。私たちは、ビジネスチャットの浸透を通じて「中小企業で圧倒的なシェアを持つSaaSプレーヤー」という唯一の存在になれました。当社は、SaaSを起点に効率よく中小企業にアプローチできる「チケット」を手に入れたといえます。

 中小企業は、昭和的な働き方が色濃く残った、DXが進んでいない巨大なマーケットです。当社は、「チケット」を活かし、中小企業へのアクセスを提供できるので、アライアンスパートナーとして、よい事業やプロダクトをお持ちの企業さまについては、送客が可能です。最近では、当社グループ内のCVCも活用して、資本業務提携やグループへの参画事例も増えています。もし、「中小企業向けにDXを進める事業をしたい」という企業さまがいれば、ぜひお声がけください。

藪ノ:現在、私はHR事業の立て直しに取り組んでいます。当社はまだ従業員150名ほどの規模のため、「できること」と「できないこと」がありますので、パートナーシップを強化しています。飲食業界で最も大きな課題は「採用」や「人手不足」です。この課題を解決するために、私たちは18年間、リーディングカンパニーとして活動してきました。たとえば、私たちのデータベースには約25万人の求職者が登録されており、これを活用して企業さまの求人とマッチングすることが可能です。また、地域や拠点に関する販売協力のご依頼も歓迎しています。私たちのサービスやパートナーシップにご興味をお持ちでしたら、ぜひご連絡ください。
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