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EVENT REPORT イベントレポート

株式会社農業総合研究所 代表取締役会長CEO 及川 智正 / 株式会社イルグルム 代表取締役 岩田 進

【ベストベンチャーWEST100カンファレンス 2025 Winter講演➁】いま起業するなら私はどう戦うか

株式会社農業総合研究所 代表取締役会長CEO 及川 智正 / 株式会社イルグルム 代表取締役 岩田 進

これから成長が期待される西日本のベンチャー企業を厳正な審査の下に100社選出する『ベストベンチャーWEST100』。その選出企業を始め、完全招待制でベンチャー企業の経営陣に参加を呼びかけ、2025年1月21日に『ベストベンチャーWEST100カンファレンス』をヒルトン大阪で開催した。第一部の講演では、日本を代表するベンチャーの経営者4名が登壇。今回は「講演➁」として、「いま起業するなら私はどう戦うか」をテーマに、農業総合研究所代表取締役会長CEOの及川智正氏と、イルグルム代表取締役の岩田進氏が行った講演の内容をレポートする。

これまでにない事業で成長して東証グロースに上場

及川:皆さん、初めまして。農業総合研究所代表取締役会長CEOの及川です。当社は2007年に設立し、おもに大手スーパーマーケットで農家直送の「産直コーナー」を運営する事業を手がけています。販売先や販売価格を生産者が主体的に決められるのが特徴で、現在、全国に1万人以上の登録生産者がいます。物流拠点は100ヵ所以上、提携するスーパーマーケットは約2,500店舗あり、年間流通総額は約160億円です。この流通プラットフォームを通じて、農産物の新しい販売の仕組みを提供しています。2016年には、東証マザーズ(現東証グロース)に上場。当社は、農業ベンチャーとして国内初の上場企業となりました。社名には「農業を総合的に研究する企業」という意味を込めました。

岩田:イルグルム代表取締役の岩田です。当社は2001年に創業し、2004年にリリースした広告効果測定ツール「アドエビス」が市場で高いシェアを獲得しました。このほか、2006年に提供開始したECオープンプラットフォーム「EC-CUBE」など、さまざまなビジネスを展開し、2014年には東証マザーズ(現東証グロース)に上場。設立以来24期連続で増収を続けています。2019年に社名をイルグルムに変更しましたが、これは、アルファベットをランダムに組み合わせた造語。あえて意味のない社名にすることで、「どこにもない会社」を作りたかったのです。「自分たちの独自性を大切にしたい」という想いを社名に込めました。

起業の経緯

及川:「起業以外に選択肢がなかったから」というのが正直なところです。私は関東地方出身ですが、結婚を機に和歌山に移って3年間、農業に従事しました。その後、大阪で1年間、青果店を経営した結果、「農業において、生産や販売だけで利益を出すのは難しい」と学びました。そこで、「農産業を良くするには、農産物流通を変える会社が必要だ」と強く感じたのです。しかし、当時、それを実現している会社はほかになく、「自分でやるしかない」と起業を決意しました。これが農業総合研究所を設立したきっかけです。ですから、私にとって、起業や経営は「自分の理想を実現するための手段」と考えています。

岩田:私は大学在籍中に起業しました。大学生活はまったく面白くなく、入学後1ヵ月足らずで休学の手続きをとりました。その後、バックパッカーとして海外に旅立ちました。特に目的もなく、ニューヨークのハーレム地区に滞在。ドミトリーで一緒になった各国からの「不法滞在」状態の人たちと過ごすなかで、「世界で通用する人になりたい」という思いが芽生えました。当時、ニューヨークでは、トヨタの車が走り、ソニーの家電が販売されているのをよく目にしました。そこで、「ビジネスなら世界で通用する可能性がある」と思ったのです。

 帰国後は、地元の大阪・堺のオムライス店でアルバイトを始めました。大学も出ていない若者がいきなり上場企業に入社できるわけではありません。そのため、「世界を目指す第一歩」として、アルバイトから始めたのです。ところが、ほとんどのバイト仲間は、目標があるわけでもなく、ただ遊ぶお金を稼ぐために働いているように見えました。同じアルバイトでも、私たちの間では、目指すものがあまりにも違ったのです。「この環境のままでは、世界で活躍できるようにはなれない」と考え、20歳のときに、思い切って店の経営権をオーナーから譲り受け、自分の店として経営を始めました。これが私の起業家としてのスタートといえるかもしれません。

創業から成長期における変遷

及川:当社の創業から成長期を振り返ると、「すべて失敗だった」といえます。ただ、私は「失敗は良いことだ」と思っています。実際、一番の問題は「なにもやらないこと」です。やらなければ成功もしないし、もちろん失敗もしません。そうではなく、発想を変えて、「まず、やってみる」ことが大切。その結果、失敗したら、「それをどうプラスに捉えるか」を考えることが重要だと思います。どの業界でも新しいことに挑戦するときは必ず抵抗に遭います。逆にいうと、「抵抗がない」ということは、新しいことを手がけていない証拠だと考えています。

岩田:私は、「自分が経営すれば、オムライス店くらい確実に成功させられる」という自信がありました。ところが、見事に失敗。もっとも大きな問題は立地でした。その店は駅内にありましたが、自転車置き場の通路のような場所で、人が店の前を足早に通り過ぎてしまう状況だったのです。そこで「飲食業で大事なのは立地だ」と気づいたのですが、次第に、「そもそもビジネスドメインのなかで、飲食業自体の『立地』が良くないのでは」と思い始めました。それが転機となり、飲食以外の業界、つまり需要と供給のバランスが良く、今後さらに需要が増えていくような領域を探し始めました。そして、ITやインターネットに着目するようになったのです。

経営で局面が変わったタイミング

及川:起業以来、何度か当社を取り巻く風景が変わりました。まず、最初の小さな変化は、「自分の我慢だけではどうにもならない」ということに気づいたときでした。社員が1~2人だったときは、「たとえ経営不振でも、報酬を受け取るのを自分が我慢すれば全員に給料を支払える」と考えていました。ところが、社員が10人を超えると、私が我慢しても全員に給料を支払うことができなくなるのです。そこで、「十分な給料を社員に支払えるよう、絶対に事業を成功させる」という考え方にシフトしました。もう一つの変化は、「自分の努力だけではどうにもならない」と気づいたとき。限られた時間のなかで、自分だけがどれだけがんばっても、事業を大きくすることはできません。そこで、「仲間を集めることが大切」と考えるようになったのです。

 メディアが注目してくれたことも大きかったですね。「東京から来た若者が和歌山で農業をがんばっている」ということで、テレビ、新聞、雑誌、Webメディアなどにたびたび取り上げられました。その結果、当社に入社する仲間が増えました。同時に、こちらが営業をしなくても、「産直コーナーをやりたい」というスーパーや、「自分も出荷したい」という農家が声をかけてくれるようになったのです。その結果、売り先や仕入れ先が急増し、売上が大きく伸びました。それが起業3年目を過ぎたあたりのタイミングでした。

岩田:飲食業に見切りをつけた後は、ウェブ制作会社を立ち上げ、「食うには困らない」くらいの状況になりました。ただ、請負業だったので、このままでは「『世界で通用する』というブレイクスルーを起こすのは難しい」と感じてもいたのです。そこで自社サービスの開発に注力。アドエビス、EC-CUBEが一気に市場に受け入れられるようになると、毎月数百万円単位で売上があがるようになりました。このタイミングから、明らかに当社の事業の勢いが変わったと感じましたね。

現代をどう捉えているか

及川:いまの時代で大切なのは「無理に戦わない方がいい」ということです。かつては「ライバル会社とどう戦うか」という考え方が一般的でしたが、いまはそんな時代ではありません。そのため、ライバル会社も含めて、「業界をどう良くしていくか」と考えることがとても大切だと思います。私の座右の銘は「中庸」。物事には必ず「プラス」と「マイナス」の2極があります。これは単純に「プラスが良くて、マイナスは悪い」という意味ではありません。まず、物事には「両極がある」ということを認識するのが大切なのです。ですから、もし、いま起業するとしても、「これが正しい戦い方」ということはできません。戦い方にも「プラスの面」と「マイナスの面」があるからです。ただ、私は、「自分の理想を実現するために必要な手段として、いまは流通の仕事を行っている」とはいえると思います。

岩田:時代を正確に捉えるためには、インプットをコントロールすることがとても重要だと思います。私は10代から35歳くらいまで、インプットを非常に厳密にマネジメントし、テレビ、雑誌、新聞、ラジオなどのメディアにはいっさい触れませんでした。読書をしたり、人からの一次情報を吸収したりすることに努め、そうすることで、自分の思考を洗練させることにこだわりました。いまも、SNSやそのほかの情報源は偏っていることが多いので、そうした情報が自分の思考や行動に影響を与えるのを避けるように行動しています。

事業の選び方

及川:どんな事業を選ぶかは、「経営理念ありき」だと思っています。当社では「持続可能な農産業を実現し、生活者を豊かにする」というビジョンにプラスになる事業しか行わない方針です。そして、当社の社員に対しては、「なぜ経営理念が大切か」を考えてもらうなど、社内の意識統一に努めています。

岩田:手がける事業を選ぶにあたっては、より大局的に現在の状況を捉えることが大切です。当社は、設立以来、テクノロジーを使ってビジネスを行ってきましたが、いまはあえて、「DX人材による顧客支援」など労働集約的な事業にシフトしています。今後、SaaSや生成AIといった分野に参入しても、事業の差別化は難しいと思うからです。むしろ、そうしたテクノロジーを駆使して、ビジネスをドライブする力を持った優秀な人材が不足しているのがいまの時代。当社は、そうした人材を採用し、教育できる点において強みを発揮できると考えています。

組織の作り方

及川:「みんなが楽しく働ける会社」を作りたいと思っています。ただ、私は、組織作りについては苦手です。そのため、組織作りが得意な社内の人に任せている状況です。特に自分が何かをしているわけではありません。

岩田:組織作りにおいて重要なのは、「一貫した世界観」を作ることだと思います。基本的には、まず事業があり、それに合わせて組織が作られます。一方で、「組織を作り、そこから事業を生み出す」というアプローチもあります。当社の場合、ECのサブスクリプション事業がその例です。こうした事業は、顧客と真摯に向き合い、コツコツと良いものを作り続けることで、少しずつ受注が増えていくビジネスです。もちろん、まず事業戦略があり、そこから組織が作られるわけですが、最初から確固たるビジネスモデルがあったわけではありません。組織と経営理念、事業戦略に一貫性があること。それが、組織としての強みを発揮するために重要なポイントだと考えています。

エグジットについて

及川:エグジットするため、上場して株を売却することも一つの方法です。しかし、私には自分が作り上げたい世界があります。ですから、その世界が完成したらエグジットしたいと考えています。ただ、経営を無駄に続けるつもりはありません。私は、「60歳になったら会社を辞める」と社内で宣言しています。あと10年しかありませんが、「それまでに1兆円の野菜と果物を取り扱えるほど事業を成長させるにはどうすればいいか」を絶えず考えています。

岩田:東証の市場区分再編によって、マザーズ市場がグロース市場に変わりました。これはエグジットを見据えるスタートアップの経営者にとっては、大きな変化だと思っています。中長期的にはユニコーンを目指せるような企業しか上場できなくなるでしょう。そのため、今後は多くの企業が、M&Aによって規模の拡大を図る時代が来ると思います。そうした環境の変化を認識して、自らの事業戦略を作り上げることが重要になってくると考えています。
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