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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

株式会社Cloud Illusion 代表取締役 大隅 直人

Webマーケティング支援ベンチャーのトップが描く"豊中シリコンバレー化構想"

「Toyonaka Venture」を拡大させ、地域活性化に貢献したい

株式会社Cloud Illusion 代表取締役 大隅 直人

国内のベンチャー企業は、大都市圏で起業するケースが多い。そうしたなか、豊中市(大阪府)に拠点を置き、「Toyonaka Venture」というコミュニティビジネスに取り組んでいるベンチャー企業がWebマーケティング支援を手がけているCloud Illusionだ。同社代表の大隅氏は、「生まれ育った豊中市を米国のシリコンバレーのように、スタートアップや成長意欲の高い人材が生まれ、集まるようなまちにしたい」と意気込む。本企画では同氏と、豊中市長の長内氏と豊中商工会議所会頭の吉村氏との鼎談を実施。「Toyonaka Venture」の詳細に加え、その舞台となる豊中市のベンチャー企業支援の方針などを聞いた。
豊中市長
長内 繁樹おさない しげき
1958年、大阪府生まれ。1981年、関西学院大学経済学部を卒業。1983年、豊中市役所に入庁。2010年、健康福祉部長に就任。2014年、副市長に就任する。2018年、豊中市長に就任し、現在は2期目。
豊中商工会議所
会頭
吉村 直樹よしむら なおき
1949年、大阪府生まれ。1977年、父が創業した食品メーカーのマリンフード株式会社に入社。取締役管理部長、常務取締役を経て、1980年、30歳で代表取締役社長に就任する。2022年、豊中商工会議所の会頭に就任。
株式会社Cloud Illusion
代表取締役
大隅 直人おおすみ なおと
1995年、大阪府生まれ。2018年に大学を卒業後、ITベンチャーに入社。半年で事業部の責任者に就任。その後、Webマーケティング会社のマネージャーを経て、2022年、株式会社Cloud Illusionを設立し、代表取締役に就任する。

地元の駅前から発信するコミュニティビジネス

―「Toyonaka Venture」とはどのような取り組みですか。

大隅:豊中市において、企業や人材を育成したり呼び込んだりして、企業や店舗のWebマーケティング支援を行いつつ「豊中をシリコンバレーのようなまちにする」ことを目的としたコミュニティビジネスです。当社は、SNSを活用した企業や店舗のWebマーケティング支援をメインに手がけているベンチャー企業です。豊中市の庄内駅前の商業施設にコワーキングスペースをつくったのが、この事業を始めたきっかけです。いざつくったものの、単純にコワーキングスペースとして貸し出すだけでは面白くない。それよりも、このスペースを活かしつつ、Webマーケティング支援や勉強会の開催などを通じて、地元の企業や人材のITリテラシー向上を支援するとともに、市外にもネットワークを構築していけば、地域活性化につながるんじゃないかと考えたのです。この事業を発足した直後、動画マーケティング支援を手がける会社代表の佐藤尚功氏に、事業の構想を話したところ「ぜひ一緒にやりたい」となり、共同で「Toyonaka Venture」事業を始めることになったのです。

―事業を開始しての状況はいかがですか。

大隅:現在は、Webマーケターや映像ディレクター、フォトグラファーなど、企業やフリーランスあわせて約60名が集まり、企業や店舗のマーケティング支援を行っています。少しずつですが、「豊中でおもしろい取り組みを行っているクリエイター集団がいる」と口コミで評判が広がり、「Toyonaka Venture」のメンバーがマーケティング支援を手がけた事例は200を超え、クライアントは関西を中心に全国に拡大しつつあります。また、地元にゆかりのある著名作曲家をインフルエンサーとしてプロデュースしており、総フォロワー数は30万人を突破しています。さらに、地元の人向けに動画制作などの勉強会を開催したり、市内の小学生に地域をPRする動画をレクチャーしたうえで制作してもらう「豊中こども報道」というコミュニティを運営したりするなど、幅広い取り組みを行っています。

 そのほか、2023年に廃校した小学校の一部を豊中市から2024年に借り受け、撮影スペースに活用するなど、活動拠点も広げています。

補助金だけにとどまらず、事業成長の支援をしていく

―長内さんは、「Toyonaka Venture」の取り組みをどのように見ていますか。

長内:大隅さんと知り合って3年経ちますが、非常に面白い取り組みだと感じています。そもそも当市では、全国の自治体のなかでも早くから市内の起業支援に取り組んできました。たとえば、約20年前から豊中商工会議所と連携し、「とよなか起業・チャレンジセンター」を共同運営しています。同センターでは、起業・経営に関する相談やセミナーの開催、事業者間交流会の実施などを通じて、当市に根差したビジネスを展開しようとしている企業を支援しています。私自身、市長就任2期目となる令和4年からの基本政策に「スタートアップ企業等への支援の充実」を掲げ、大学生を対象に起業マインドを醸成する「アントレプレナーシップ養成講座」や市内事業者の成長を促す「アクセラレーションプログラム」などを実施しています。このプログラムは、大隅さんも受講されています。「Toyonaka Venture」は、売上やネットワークを順調に伸ばしていると聞いていますが、ほかの市内の事業者も含め、補助金だけに限らず、さらなる事業意欲を醸成したりビジネスチャンスを創出したりするお手伝いができればと考えています。

―吉村さんは、「Toyonaka Venture」の取り組みをどのように見ているのでしょう。

吉村:私も面白い事業だと感じています。現在、豊中商工会議所の会員企業数は約2,700社です。そのなかで、いわゆる議員と呼ばれるメンバーが会議所運営の中核を担うのですが、その議員が全部で100名います。そのなかで、30歳未満のメンバーはゼロなんです。若いメンバーがいない状況を課題だと感じていたのですが、そうしたなか「Toyonaka Venture」のことを知り、「えっ、20代の社長が運営しているの? 最高じゃないか」と思ったわけです。そこで、豊中市における創業機運の醸成や産業に活力を与えることを目的に、2024年、豊中商工会議所は「Toyonaka Venture」と連携協定を締結しました。今後、セミナーや勉強会を一緒に企画するといった取り組みを通じて、さまざまな業種の創業・経営支援を行い、豊中市の発展に寄与する活動を行っていく予定です。

参画するメンバーの夢も、応援していきたい

―なぜ大隅さんは、豊中市で起業しようと考えたのですか。

大隅:もともと起業する際、「マーケティングの力で地元を元気にしたい」という想いがあったからです。私が豊中市のなかでも庄内出身なのですが、あくまでも個人的な話として、小学校の頃に「お金を持っている家とそうではない家がある」という感覚がありました。いま考えると、そういった格差をなくしたいという気持ちが根底にあったと思います。私たちが地元の企業を支援することはもちろん、リアルな話、会社自体が大きくなれば「税金」という形で地域に還元もできますから。

 そして、「Toyonaka Venture」を立ち上げたことで新たな想いも生まれています。

―どのような想いですか。

大隅:「Toyonaka Venture」に参画するメンバーの夢を応援したいという想いです。私自身もそうですが、会社を立ち上げた人や独立した人はなにかしらの夢を持ち、思い切って前職を辞めたはずなんです。事実、私の周りにはそうした人たちが大勢います。あるメンバーが「ここに来たからやりたいことができている。だから、ここをほかの人にとっても夢が叶う場所にしていきたい」と言ってくれたとき、私も同じ気持ちでした。メンバーそれぞれの夢が重なったその先に、「豊中をシリコンバレーのようなまちにする」という壮大な夢が実現できると考えているのです。地域の活性化はもちろん、「メンバーの夢」の応援を、「Toyonaka Venture」で実現していきます。

各関係者と連携を深めつつ、事業を継続してほしい

―長内さんと吉村さんは、「Toyonaka Venture」にどのような期待をしていますか。

長内:「Toyonaka Venture」は事業の成長だけでなく、若手事業者の育成・支援にも力を入れていると聞きます。当市でも、「経営戦略方針2025」を策定し、「とよなかエコシステム」を新たに推進していきます。これは、経済面から都市の魅力と機能を向上させようとする取り組みで、事業者や資金、人材を呼び込み、民間主導の活動を喚起・支援することで民間企業のイノベーションを後押しし、地域経済の活性化を促進していく施策です。「Toyonaka Venture」の取り組みは「とよなかエコシステム」の推進にもつながると大いに期待しています。当市はこれまでどちらかというと、起業支援に注力してきましたが、これからは、起業後の事業成長への支援にも力を入れていきます。今後も「Toyonaka Venture」を含めた事業者のみなさんや豊中商工会議所とも連携を深めながら、当市をさらに活力あるまちにしていきたいですね。そのなかでも、大隅さんのような若い世代の人がどんどん新しいプランや事業を率先して生み出し、結果として大阪市に距離的にも近い当市を事業の集積地にしてもらえたらと思います。

吉村:ぜひ、我々と連携を深めつつ「Toyonaka Venture」の事業を継続していってほしいですね。私自身、創業23年の会社を30歳で引き継いで45年経営していますが、事業を継続することは本当に難しいです。特に会頭を務めていると、面白そうな事業に取り組んでいる会社があっても、2年経って「あの会社どうした?」「消えました」という話を聞くのも日常茶飯事です。1つや2つの失敗は、気にしなくていいんです。とにかく粘り強く、継続して、継続して、継続して、七転び八起きでがんばってほしいですね。

―「Toyonaka Venture」の今後のビジョンを教えてください。

大隅:お二人に話していただいたことを肝に銘じつつ、これからもいろいろな企業や人を巻き込んで事業を拡大させていきたいと考えています。まだ事業を始めて間もないですが、おかげさまで、メンバーやクライアント、豊中市役所、豊中商工会議所、学校などさまざまな人たちと垣根を越えたつながりが生まれています。これらのご縁に感謝しながら活かすことで、豊中をシリコンバレーのようなまちにしていきます。

吉村:豊中から出ていかないでくださいね。

長内:豊中に人や会社を集めてくださいね。

大隅:もちろんです。
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