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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

株式会社ネクスト 代表取締役社長 井上 高志

「利他主義」を掲げ、社会の変革に挑戦する

株式会社ネクスト 代表取締役社長 井上 高志

住まいの情報サイト『HOME'S』を掲載物件数・利用者数において国内No.1へと育て上げたネクスト。しかし、代表の井上氏は「実現したいビジョンに対して、道半ばである」と話す。同社がめざしているものは何か。中長期戦略や今後のビジョンなどを井上氏に聞いた。
※下記はベンチャー通信58号(2014年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

不動産情報を透明化しユーザーの「不」を解消する

―2014年3月期決算では2期連続の増収増益、売上高は前年比約20%増の過去最高146億円を達成しました。業績好調の理由を教えてください。

 ユーザーの利便性向上を目的とした改革を実行したからです。
 ユーザーが不動産ポータルサイトを利用する際に求めているのは、「情報量」と「使いやすさ」です。まず情報量を増やすために、ビジネスモデルの変更に挑戦しました。以前は、物件情報の掲載数に応じて提供元の不動産会社から料金を頂戴していました。それを基本料金のみで無制限に掲載でき、ユーザーの問い合わせが来て初めて料金が発生する成果報酬型に変えたのです。その結果、『HOME'S』の掲載物件数が飛躍的に増加。変更前は200万件に満たなかったのが、いまでは約490万件と、他サイトを2~2・5倍引き離してトップとなっています。
 次に、サイトを使いやすくするために、3年がかりの大規模プロジェクトとして、「賃貸」「新築」「中古」など不動産マーケットごとに分かれていたサイトを統合するフルリニューアルを行いました。これによりユーザーは、希望条件に対してマーケットを問わず、全物件の中から理想の住まいを探すことができるようになりました。さらに、「建物まとめて表示」「ダブリなし表示」など情報の表示構造の抜本的変更やサイトデザインのリニューアルを行い、結果としてユーザーから「使いやすい」と高い評価を獲得しました。また、このタイミングで40億円を投じて大々的にプロモーションしたこともあり、利用者数においても国内No.1のサイトになりました。

―ここまでアグレッシブに取り組む理由は何でしょうか

 社会に溢れる「不」を解消し、人々を笑顔に、幸せにすることこそ、私たちが事業を遂行する目的だからです。
『HOME'S』は、ユーザーの住まい選びにおける不便や不利な状況を解消するために始めた事業です。住まい選びは、一般的に生涯収入の約3分の1を割く人生最大の買い物であると同時に、子どもの教育や親の医療・介護、出会えるコミュニティ、通勤時間による働き方など、家族の人生に与える影響が非常に大きな選択です。住まい選びとは、単なる「物件選び」ではなく、その先の「人生や暮らしを選ぶ」ことなのです。
 しかし、不動産業界は売り手にとって都合のいい情報しか出さないことが多く、まだまだ消費者への情報開示が不十分な状態にあり、ユーザーは何を信じていいかわからない「情報の非対称性」が存在しています。この状況を変えたいと考え、創業以来奮闘してきました。私たちは日本にあるすべての物件情報をデータベース化することで、不動産業界の透明化にチャレンジしています。

業界や国を巻き込んで改革に取り組む

―業界における御社の役割とは何だと思いますか。

 現代にフィットしない古い規制や商習慣を打ち破り、不動産業界とユーザーをハッピーにすることです。日本最大級の不動産ポータルサイトを運営している当社には、ユーザーや不動産会社の声がたくさん集まります。それを不動産業界や国に届け、改革に取り組んでいきます。

―もう少し詳しく教えてください。

 日本人が生涯で住み替える平均回数は4・5回だとされますが、進学、就職、転職、結婚、子育て、退職といったライフステージの変遷に比べ、転居回数が少ない。そこには、多少不便でも我慢して同じ家に住み続けているという実態が隠されています。そのネックのひとつになっているのが転居コストの高さ。通常、転居時には、敷金、礼金など家賃3~5ヵ月分に相当する初期コストがかかります。これを無くし、月額の家賃に上乗せして一定金額を支払う「平準化払い」にすれば初期コストの負担が軽減されるため住み替えがしやすくなり、転居回数が増え、人々の不便が解消されるはずです。
 また、居住する目的以外で、ライフスタイルの多様化や社会的ニーズに応じて住宅を利用する「用途開発」を加速化させる必要があると思います。そのためには、例えば、特定の趣味をもった方向けのシェアハウス、マンションの空き室などで開業できる小規模保育所に適した物件、高齢者のデイケアセンター向きの物件など、社会ニーズの高い物件情報の提供に力を入れるべきです。ちなみに『HOME'S』では小規模保育所をつくるための規制に適合した物件を検索できるシステムの提供なども行っています。
 日本は人口が純減する時代に移行し、世帯数も2019年度がピークアウトだと予想されているなか、総務省統計局がこの夏に発表した「土地統計調査」では、全国の空家が約820万戸に上る、というデータが明らかになりました。賃貸物件に換算すれば、じつに7軒に1軒が空室という状態。実際、地方に行けば空室率が20%に迫るエリアすら存在します。民間の力だけでは、こうした人口減少にはあらがいようがありません。しかしこのように、住み替え回数の増加と用途開発の加速など、業界の改革を行うことで、不動産マーケットの拡大に繋がり、さらに日本経済の活性化にも貢献できると考えています。

利他主義の価値観に基づき社会を変革する

―日本経済の活性化は、人口減少の歯止めにもなりますね。ところで、今後の展開を聞かせてください。

 私たちは、暮らしの中の「不」を解消し、世界中の人々から「出逢えてよかった」と言っていただけるような仕組みを創り出していくことを目指しています。「住まい」の分野以外にも、人々が日々生活していく中で必要な大量の情報を整理し、提供したい。今後はこのビジョンを実現するために、最先端のテクノロジーを駆使しつつ、4つの方向に事業を展開していく方針です。
 ひとつめは、国内不動産情報サービスとしてのさらなる拡大。ふたつめに、不動産事業者向けBtoBサービスの開発です。不動産会社の業務の6~7割は広告チラシの作成などの事務作業に割かれており、顧客に接する時間は3~4割程度にすぎません。これを逆転させ、もっとたくさんの時間を顧客のコンサルティングに割けるようなプラットフォームを築きます。
 3つめとして、海外不動産情報サービスの拡充。現在タイや台湾、インドネシアなどに進出を果たしており、中長期的には100ヵ国くらいまで拡げていきたいと考えています。この巨大な情報プラットフォームの構築を加速化させるために、世界最大級の*アグリゲーションサイトを運営するTrovit社の買収を決定しました。同社は世界約40ヵ国に展開しています。これにより、ローコストで世界の情報サイトを運営するノウハウ、8600万件を超える不動産情報、月間4700万人のユニークユーザーを獲得しました。
 そして4つめですが、不動産領域以外の分野において事業を立ち上げていきます。
「金融」「インテリア」などすでにスタートしている領域もありますが、その他「家族」「旅行」「医療」「教育」「農業」など、人の生活に深く関わる分野を手掛けていきたいです。また、ベンチャーキャピタル事業として、ベンチャー支援にも投資をしていきます。
※アグリゲーションサイト:複数のサイトの情報を集積し利用者が一括して情報が閲覧できるサイトのこと

―新入社員にどのようなことを期待していますか。

 当社は「利他主義」という価値観に基づき、ビジネスを行っています。売上や利益は、事業を遂行する目的ではありません。世のため、人のために役立つことをした結果として得るものです。そして、その利益は、世の中に役立つこと、古い慣習を打破してより良い未来を創るために再投資します。こうした当社の価値観に共感し、社会の変革に対してチャレンジする情熱と行動力をもった人材を歓迎します。
 実際、当社で活躍しているのはそのような人材です。例えば、当時新卒2年目の社員が新規事業提案制度を利用して、トランクルームや収納スペースを検索できるサービスを提案。彼自身が事業責任者となって事業を立ち上げ、現在も推進しています。
 また、同じく新規事業提案制度を利用した2名の女性社員は、子会社の社長に就任しました。ひとりは子育て支援のサービス、もうひとりは旅行者と現地住民のつながりを創出するサービスという、新領域での事業にチャレンジしています。また、インドネシアの拠点は当時新卒6年目の社員に立ち上げを任せ、COO(最高執行責任者)として『HOME'S』の海外展開に挑戦してもらっています。
 このように当社では社員がやりたいと思うことにチャレンジできる環境を用意しています。将来的にここ10年で、100人の経営者を輩出したい。ネクストグループとして、「利他主義」や共通のビジョンで結ばれた強固な組織を創りたい。そうして社会の変革を加速させていきたいです。
PROFILE プロフィール
井上 高志(いのうえ たかし)プロフィール
1968年、神奈川県生まれ。1991年に青山学院大学経済学部を卒業後、株式会社リクルートコスモス(現:株式会社コスモスイニシア)に入社。その後、株式会社リクルート(現:株式会社リクルートホールディングス)を経て、1995年にネクストホームを創業。1997年に株式会社ネクストを設立、代表取締役社長に就任。不動産・住宅情報サイト『HOME'S』を国内最大級の規模に発展させ、2006年に東証マザーズ上場。2010年に東証一部上場。京セラ・KDDI創業者の稲盛和夫氏主宰の「盛和塾」で、全国の塾生の経営者の中から優秀賞を受賞。著書に『「普通の人」が上場企業をつくる40のヒント』(ダイヤモンド社)がある。
企業情報
設立 1997年3月
資本金 19億9,900万円(2014年6月30日現在)
売上高 146億9,000万円(2014年3月期:連結)
従業員数 608名(2014年6月30日現在:連結)
事業内容 不動産情報サービス事業、その他事業
URL http://www.next-group.jp/
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