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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

クオンタムリープ株式会社 代表取締役 出井 伸之

ソニー前CEOがベンチャー育成に挑む

ベンチャーこそ、ルールブレイカーたれ

クオンタムリープ株式会社 代表取締役 出井 伸之

※下記はベンチャー通信37号(2009年新春号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

―日本のベンチャーを取り巻く状況をどう見ていますか。

出井:ベンチャーを支える仕組み、私はそれを生態系と呼んでいますが、日本とアメリカではその生態系が全く違う。アメリカでは、従来の方式とは全く違うアプローチで半導体や※クリーンテックの技術開発をするベンチャーに、創業期のグーグルに出資したKPCBや、セコイア・キャピタルなどの大手ベンチャーキャピタルが大胆に投資している。しかし、日本のベンチャーキャピタルは頑張っているものの、規模も長期的ビジョンもそれに遠く及ばない。だから、日本にはルールブレイカーになり得る人材や技術があっても、なかなか生き残れない現実があると思います。

 またアメリカには成功で大きなお金を手にした起業家は、私財を投じて社会貢献やベンチャー育成を行う、資本循環の風土があります。しかし、日本には大金持ちを生む仕組みがないので、個人の※エンジェルも生まれづらい。

―では、日本はどうすればいいのでしょうか。

出井:日本でエンジェルの役割を担えるのは、現時点では大企業だと思います。だから日本の大企業は意識して、利益の一部をルールブレイクのために投資すべきだと考えています。大企業の長所は、資金が豊富で経営が安定していること。大企業の短所は、大きいがゆえに組織が硬直的で、仕事が固定化している場合が多いこと。それに対してベンチャーの長所は、組織が柔軟で仕事が常に変化している。ベンチャーの短所は、一度大きな失敗をしたら会社が潰れてしまう可能性があること。こういった大企業とベンチャーが、お互いの長所を組み合わせ、短所を補完すれば、日本経済に「クオンタムリープ」を起こせると私は考えています。

 たとえば、トヨタ、ソニー、日立などの日本を代表する大企業は新技術をたくさん持っています。でも大企業は自らの事業領域やリスクを考え、その新技術を世の中になかなか出すことができない。一方、大企業と同じような新技術を持っているベンチャーも存在します。でも豊富な資金が無いので、新技術を大胆に事業化できない。

 いま私は、大企業がベンチャーに出資しやすい仕組みづくりを考えています。この仕組みが機能すれば、日本の新技術が世の中に積極的に出てくるし、同時に有望なベンチャーを育てることもできる。そして、育ったベンチャーが新しい産業、ひいては大企業までをも活性化していく核となる。これが日本独自のベンチャー育成モデルになり得ると考えています。私がソニーCEO時代に、ソニーがマネックス(現:マネックスグループ)に出資したのも、このような考え方がベースになっています。

―よく日本のベンチャー業界では、「第2のソニーを創る」という表現が使われますが、第2のソニーは生まれると思いますか?

出井:いわゆる工業、IT産業といった産業エリアからだけではなく、農業や水産業などの第一次産業から、世界に通用するベンチャーが日本から生まれる可能性があると思います。その場合、これまでの産業構造とは全く違う視点が必要かもしれません。今年で21世紀も9年目になりましたが、いまだ世界経済は20世紀に確立されたブランドの大企業が主要プレーヤーとなっています。そろそろ、全く新しい産業構造を持つ21世紀型のベンチャーが世界経済の主要プレーヤーになってもいい頃です。2050年にもなれば、主要プレーヤーの顔ぶれは大きく変わっていることでしょう。

 その主要プレーヤーに日本のベンチャーが入るためには、よりグローバルな視点で物事を考えることが重要です。たとえば百度の本社は北京ですが、法人登記は税金の低いケイマン諸島という国です。株式は資金調達がしやすい世界最大の新興市場の米ナスダックに上場しています。しかも事業展開は、中国と同じ漢字文化圏である日本や香港にも進出している。つまりグローバルな視点に立って、それぞれ最適な選択をしているわけです。しかし、多くの日本のベンチャーは国内に留まってしまっている。そこが残念なところです。
※クリーンテック:天然資源の消費、大気への温暖化ガス排出や廃棄物を減らし、再生可能な資源を活用するさまざまな技術/製品/サービス・プロセスのこと。
※エンジェル:ベンチャー企業への資金提供と事業支援を行う個人投資家のこと。
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