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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

株式会社ニトリホールディングス 代表取締役会長 似鳥 昭雄

流通業界の革命者が語る“イノベーションを起こす方法”

大きなロマンがあれば不可能はない

株式会社ニトリホールディングス 代表取締役会長 似鳥 昭雄

※下記はベンチャー通信62号(2016年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

「経験がない」なんていいわけにすぎない

―小売業としてスタートしたニトリが、どうやって異分野のノウハウを獲得していったのですか。

 イチから勉強して、とにかく挑戦あるのみ。最初はそんなノウハウなど社内の誰ももっていません。でも、モノづくりにせよ、物流にせよ、世の中にはその事業を手がけている会社がたくさんある。だったら、自分たちにできないはずがない。

 異分野に挑戦するとき、最初は「専門外なので…」と、しりごみする社員もいます。それに対しては、私が率先して「ならばオレがやってみせる」と実行してしまう。すると、「なんだ、できるんだな」と。そうやって、社員に挑戦する姿勢を教えてきました。

「前例がない」「経験がない」なんて、いいわけを探している限りなにも生まれません。理想が高ければ高いほど、現実がなかなか追いついてこないのは確かです。しかし、その高い理想と現実を一致させることが私たちの仕事なのです。いまや「挑戦する文化」がニトリの社内の隅々にまで浸透しています。どれだけ厳しい課題に直面しても、社員のチカラで克服できると信頼しています。

上場企業平均の約5倍社員教育に投資している

―そこまで信頼できる人財を、どうやって育成しているのですか。

 ニトリでは社員教育に、平均的な上場企業の約5倍の投資をしています。それによって一人ひとりのモチベーションが高まり、成長してくれる。結果として、同業平均の約2倍の労働生産性を実現しています。

「会社のために犠牲になれ」といわれて、がんばり続けることなんてできるわけがない。私自身もそういう人間でしたから。「自分のために働くように」と伝えています。たとえばサービス残業をさせるなど、社員のモチベーションを落とすだけです。ニトリでは1分でも就業時間を超えたら残業代を支払っています。

―社員教育の内容を教えてください。

 若いうちは、なによりも経験を積ませています。「製造物流小売業」というビジネスモデルをもっているニトリでは、ビジネスの領域が極めて広い。必要な職種も多岐にわたります。そのため、社員を2〜3年ごとに異動させ、製造・物流・小売などさまざまな部門を経験させる「配転教育」を行っています。つねに新しい業務に挑戦し続け実績を上げさせることで、総合力を養っていくのです。

 というのも、20代のうちは、とにかくカラダを動かす時期だから。現場の最前線で何回も繰り返して、ありとあらゆる業務のオペレーションを体験する。それによって、仕事をするために不可欠な「観察・分析・判断」をする総合的なチカラが身につくのです。

 それが血肉になって30代を迎えた人財は、きわめて生産性の高い仕事ができる。影響力のおよぶ範囲はまだ小さくても、メンバーを動かして効率的に仕事を進めたり、いままでの仕組みを見直して改善することもできるようになります。

―そんな経験をして40代になると、どん な人財に成長しているのですか。

 経験と知識を活かし、新しいニトリをつくりあげていく、イノベーションを起こせる人財になるのです。本格的にマネジメントに携わるようになり、大きな影響をおよぼせる。必要ならば、過去をすべて否定して、まったく違う仕組みに変えてしまえばいい。

役職や年齢に関係なく変革を進められる風土

―ニトリには創業から48年の歴史があります。それをすべて否定するようなアイデアを出しても、抵抗が大きいのではありませんか。

 いいえ。そんなことはありません。アイデアを出したヒトの役職や年齢に関係なく、「それはお客さまのためになることなのか」「住まいの豊かさを世界の人々に提供するというロマンの実現に近づくことなのか」だけを基準に判断される風土があるからです。

 ニトリには、「担当者」「マネジャー」「経営層」という3つの階層しかありません。そして役職や年齢にかかわらず、お互いを「さん」づけで呼ぶ。体制的にも風土的にもきわめてフラットな組織になっています。

 もっとも、私だけは「社長」と呼ばれる。べつに私が偉いわけじゃない。社員が「にとりさん」というと、自分の勤務先を「さん」づけしているみたいで、おかしいから(笑)。

―そうしたフラットな組織をつくりあげた裏にある、似鳥さんの経営哲学を聞かせてください。

「なによりもお客さまのために尽くす」。その一念です。硬直的な組織では、お客さまよりも社内のことを気にするケースが出てきてしまうもの。私自身、商売を始めたころは、毎月の売上や利益を前年同月より増やせるかどうか、そればかりを気にしていました。でも、そんな思いはお客さまに伝わってしまう。

 お客さまが店に来て、商品や接客を見る。それだけで「この店は客のことなどあまり考えていないな」とわかってしまう。なにも買う気になれないし、たとえ買ってもらえてもリピートは絶対にありえないでしょう。

 だから業績が伸びず、「もはや倒産か」と追い込まれ、自殺すら考えた時期もあったんです。でも、そこで米国視察ツアーに参加する機会を得て、会社を大きく発展させる原動力となるロマンをもつことができた。運がよかったんですね。そこから業績を伸ばすことができました。

―そこで得たものはなんでしたか。

「唯一の正義は、お客さまの不平・不満・不便を発見して、解決すること」です。価格なのか、品質なのか、機能なのか。なにかひとつでもいいから問題を解決し、誰もやったことがない新機軸を打ち出して、お客さまにトクをさせる。自分がもうけるより前に、お客さまにもうけさせれば、お客さまは自然と来店してくれるようになる。私はこれを「ブーメラン現象」と呼んでいます。

伸びしろの大きな組織でケタ違いの成長を体感しよう

―最後に、進路に悩む学生にメッセージをお願いします。

 伸びしろの大きな組織を選んでほしい。硬直的な組織では、会社を2倍・3倍に大きくすることは困難です。それに対して、伸びしろの大きなベンチャー企業や、大規模であっても柔軟性の高い組織であれば、10倍・100倍に発展させることができます。そうしたダイナミックな成長の過程を経験することで、人もまた飛躍的な成長を遂げることができます。

 挑戦意欲のある若い人には、ぜひケタ違いの成長を味わって、大きく羽ばたいてほしいですね。
PROFILE プロフィール
似鳥 昭雄(にとり あきお)プロフィール
1944年、樺太(現:サハリン)生まれ。北海道で育つ。1966年に北海学園大学経済学部を卒業後、父親が経営するコンクリート会社に入社するが間もなく退社。1967年に家具店を札幌市に開店。1972年に似鳥家具卸センター株式会社(現:株式会社ニトリホールディングス)を設立。同年に米国を訪問、「欧米の住まいの豊かさを日本に提供する」というロマン(志)を確立。チェーン展開を加速し、1989年に札幌証券取引所に上場、2002年に東証一部上場。2010年に持ち株会社へ移行。アジアを中心とする世界の学生を支援する似鳥国際奨学財団の代表理事を務める。著書に『運は創るもの』(日本経済新聞出版社)。
企業情報
設立 1972年3月
資本金 133億7,000万円(2015年2月末:連結)
売上高 4,172億8,500万円(2015年2月期:連結
従業員数 9,215名(2015年2月末:連結)
事業内容 グループ会社の経営管理ならびにそれに付帯する業務
URL http://www.nitorihd.co.jp/
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