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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野 慶久

ニッポンの働き方改革の先頭を行くIT企業家

もっとヤンチャで もっと反体制な起業家、出でよ

サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野 慶久

1997年の夏、愛媛県松山市のマンションの1室で産声をあげたサイボウズ。簡単・低価格のグループウェアが支持されて業績を伸ばし、2006年には東証1部上場企業となった。いまはクラウドでのサービス提供に注力。政府が推進する働き方改革をITで支援する。自らイクメンとして「新しい働き方」を体現する代表の青野氏に、どんな社会をめざすのか聞いた。
※下記はベンチャー通信66号(2017年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

売上高118%増加も「まったくモノ足りない」

―2015年12月期連結売上高は前期比約118%増で、70億円を突破。好調ですね。

 いえいえ、まったくモノ足りないですね。私たちが提供するクラウド型のグループウェアは、組織に柔軟な働き方をもたらし、仕事の効率を劇的にアップさせる基盤システム。それをWebから申し込むだけで速く、低コストで導入できるんです。しかも、システムは私たちが運用するので、顧客はバックアップやバージョンアップ作業などをする必要がなく、導入後の手間も少ない。

 このサービスがなかなか普及しない。それはそのまま、国内における働き方改革のスピードが遅いことを示しています。イライラしていますよ。

転職先から出戻ってくるのも副業に農業をするのもOK

―青野さん自身が育児をするために3回にわたって長期休暇をとったことが話題になったのをはじめ、サイボウズは先進的なワークスタイルで有名です。これは「日本の働き方改革の先陣を切ろう」ということですか。

 そうですね。私たちのやっていることが広がっていけばいいなと。10年ほど前に離職者が多くなり、人材不足に見舞われたことがあります。そこで、もっと長く働き続けられる会社にしようと人事制度を見直しました。

 具体的には、育児のための時短勤務のほか、会社の承認がなくても副業してOK、退社から最大6年までは“出戻り” OKなど。多様な働き方を受け入れています。

 たとえば企業広報担当の江原なおみは新卒入社で大手電機メーカーに入社し、夫の転勤で退職しました。その後16年ものブランクを経て、サイボウズで9時から16時までの時短勤務で復帰しました。ほかにも、社長室で経営戦略づくりに携わっている中村龍太。彼の場合、農業を副業にしています。冬以外は月に4~5日は田畑に出ているんです。

―ユニークですね。でも、多様な働き方が混在しているとマネジメントが複雑化するデメリットがあると思います。それを超えるメリットはなんでしょう。

 おもに2つあります。ひとつは優秀な人材を確保できること。先に紹介した江原はTOEIC満点のスキルをもちながら、時短勤務で、存分にチカラを発揮できる会社がなかなか見つからなかった。時短勤務を許容したことで、こんな優秀な人材にジョインしてもらえる。

 もうひとつは、異分野のネットワークや知見をもちこんでもらえることです。農業を副業にしている中村は、農業経営に最先端のクラウド技術を活用することで、収益力の高い農業にチャレンジしています。

 育児休暇や“出戻り”OKも同じメリットがある。育児をしていると、ママ友のネットワークができたり、自治体や医療機関・教育機関と関係をもったりします。ほかの会社に転職した人は、そこで得た知見やノウハウをもってきてくれる。

 普通、こういう新しいリソースやノウハウを手に入れるには投資が必要じゃないですか。でも、時短勤務や出戻り、副業なら、サイボウズはおカネを出さなくてすむ。それで私たちのビジネスが大きく発展する機会が得られるわけだから、メリットは巨大です。

―なるほど。しかし、統率のとれない組織になってしまう心配はありませんか。

 いいえ。「グループウェアで世界ナンバーワンになる」。このビジョンが浸透していれば、無理に統制をきかさなくてもメンバーはビジョンに沿った行動を取ってくれます。ビジョンが共有・共感されていることが大切です。

 いいかえると、「野球部に入ったんだから、野球をしようね」というだけのことです。ただ、サイボウズの場合は「毎日、練習に出てこい」なんていわない。週1日の参加でもかまわないんです。そうすることで、たとえば「事情があって週1日しか参加できないけど、道具の手入れには自信がある」という人材を獲得できるわけです。

命を賭けられる仕事はグループウェアだけだった

―サイボウズは500名に迫る社員がいます。ビジョンを浸透させる方法を教えてください。

 私自身がつねにビジョンに沿って行動することです。「グループウェアで世界ナンバーワンになる」というのは、私自身の苦しい経験から生まれた。2000年に株式上場を果たした後、市場から調達した資金で9つの企業を買収しました。企業規模を拡大するためで、IT系ならなんでもよかった。結果、マネジメントに失敗し、大損失を出しました。

 「社長を辞めたい」。一緒に創業した仲間にそういいました。でも、首をタテに振ってくれない。そこで腹を決めました。それまでは「がんばればなんとかなる」と考えていた。もうそんなレベルではダメだ。「命を賭けよう」と。では、自分が命を賭けられる仕事はなにか。もともとエンジニアだった私にとって、その答えがグループウェアでした。買収した企業のうち、グループウェア関連の事業をもつ1社だけ残し、あとの8社はすべて売却してしまいました。

―グループウェアに専念することで業績を立て直し、躍進できたわけですね。最後に、若い世代にメッセージをお願いします。

 いま、この国に働き方の改革が必要なことはみんなわかっています。しかし、国や大企業は旧態依然。ならば、僕らベンチャー企業がやらなければ。起業家は小さくまとまってはダメ。もっと反体制、もっとヤンチャになってほしいですね。
PROFILE プロフィール
青野 慶久(あおの よしひさ)プロフィール
1971年、愛媛県生まれ。1994年に大阪大学工学部情報システム工学科を卒業後、松下電工株式会社(現:パナソニック株式会社)を経て、1997年に愛媛県松山市を本拠にサイボウズ株式会社の設立に仲間とともに参画。取締役副社長に就任。その後、2005年4月に代表取締役社長に就任する。バリバリ仕事をこなしつつ、子どもの面倒をみる「イクメン社長」として話題になった。
企業情報
設立 1997年8月
資本金 6億1,300万円
売上高 70億1,354万円(2015年12月期:連結)
従業員数 464名(2015年12月末:連結)
事業内容 情報通信、情報提供に関するサービスならびにソフトウェアの開発、販売
URL https://cybozu.co.jp/
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