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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

株式会社東京証券取引所 上場推進部長 横田 雅之 / 上場推進部 上場支援担当 統括課長 永田 秀俊

好調が続くIPO市場を東証が読み解く

ベンチャー企業の上場機運は過去最高の水準にある

株式会社東京証券取引所 上場推進部長 横田 雅之 / 上場推進部 上場支援担当 統括課長 永田 秀俊

新規上場会社数が前年比2社増の98社(※)と、2年連続の増加となった2018年のIPO市場。増加傾向が続く要因はなにか。東京オリンピック・パラリンピックの後も高い上場機運は続くのか。本特集の冒頭では、日本取引所グループの東京証券取引所(以下、東証)を取材。2018年のIPO市場を総括してもらうとともに、今後の展望を語ってもらった。

※ TOKYO PRO Marketを含む全国のIPO社数
※下記はベンチャー通信75号(2019年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

マザーズへのIPO社数は過去最高を更新

―2018年のIPO市場について、総括を聞かせてください。

永田:国内のIPO社数は、東証と大阪証券取引所が2013年に統合して以来、最多となりました。なかでもマザーズ市場は前年比14社増の63社で、同市場が1999年に創設されて以来、もっとも多い数値を記録しました。これは、マザーズ市場のコンセプトである「高い成長可能性」をもつ企業の上場が増加傾向にあるものととらえています。同市場では特に、テック系ベンチャーの上場が目立ちました。メルカリなど注目を集めた大型上場も多かったため、投資家の株式市場に対する関心も高まった年になったと思います。

横田:昨年のIPO社数を地域別でみると、31社が東京以外の企業で、全体の約3割を占めました。地域金融機関と連携して地域のIPOを促す東証の取り組みが、IPO市場全体の活況にもつながっているとみています。

―地域金融機関とはどのような連携を展開しているのでしょうか。

横田:東証は2017年以降、11の地域金融機関、1大学と基本協定を結んできました。私たちは協定にもとづき、地域金融機関の取引先で上場の可能性がある企業を訪問し、IPOへの疑問や懸念の解消に努めています。このほか、上場のメリットを伝え、IPOの機運を高める目的でセミナーなども開催しています。

 地域の企業を訪れて感じるのは、上場に対するとらえ方が東京の企業と異なることです。東京の場合、小規模なベンチャー企業でも勢いをつけて上場するケースが多いのですが、地域の企業ですと、「大企業でなければ上場できない」という印象を経営者がもっていることがよくあるのです。

永田:実際に過去3年間のマザーズ市場でIPOを果たした企業は、「年間売上高が中央値で約22億円、経常利益が約2億円規模」というデータがあります。提携する地銀の行員がこのデータを見ると、「このくらいの規模の会社なら取引先にたくさんありますよ」と驚くんですよ。つまり、上場へのハードルは、みなさんが思っているほど高くないのです。

―東証の取り組みは経営者の心理的なハードルを下げることに主眼があるのですね。

横田:ええ。上場をもっと身近なものとして感じてもらい、業績拡大や事業承継に向けた経営戦略のひとつとして認知してもらえれば、地域のIPOはまだまだ増えていくでしょう。

永田:同様に心理的なハードルを下げる取り組みとして、私たちは昨年、バイオビジネスの分野に特化した上場相談窓口も開設しました。同分野のうち創薬系企業の場合、医薬品を市販して収益をえるまでに時間がかかります。そのため東証はこれまで、投資家のリスクを抑える目的で上場審査のガイドラインを特別に設けていました。しかし、創薬系に該当しないバイオベンチャーの間でも、「このガイドラインをすべて充足しなければならない」という誤解が生じてしまいました。私たちはこうした誤解を解消するため、アーリーステージのバイオベンチャー企業でも上場に向けて気軽に相談できる窓口を設けたのです。

横田:地域の企業やベンチャー企業に限らず、東証は今後も上場に対する正しい理解を広め、株式市場をより身近に感じてもらえるよう取り組みを継続していきたいと思っています。

オリンピック後も上場機運はしぼまない

―最後に、2019年のIPO市場について展望を聞かせてください。

永田:今年も好調な傾向が継続し、100件近い高水準のIPOが実現されると見込んでいます。上場の可能性がある企業数は、現時点でここ数年と変わらない水準にあります。

横田:過去数年間は、五輪の開催決定を契機に、多くの企業が「2020年までのIPO」を宣言していました。同時に、五輪後の景気落ち込みを懸念する声もありました。しかし、市場関係者や観光系ベンチャーの経営者などに話を聞くと、「五輪はひとつの通過点にすぎない」ととらえる見方が増えてきています。五輪後を見すえても、上場を予定する企業数は減っていません。好調な市場環境が続くなか、東証は今後も情報提供などを通じて有望な企業の成長を支えていきたいですね。
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