INTERVIEW 業界別起業家インタビュー
「利他主義」を社是に社会課題解決に挑む
社会変革を先導する当社にとって、コロナ禍は「千載一遇のチャンス」です
株式会社LIFULL 代表取締役社長 井上 高志
新型コロナウイルスの感染拡大によって、社会生活や経済活動の多くの局面で制約が生まれている。対面による営業活動、顧客対応が制限されている不動産業界は、その典型的な一例であろう。しかし、不動産・住宅情報サイトの業界大手『LIFULL HOME'S』を運営するLIFULL代表の井上氏は、「不動産業界における情報の非対称性に対して変革を志してきた当社には、千載一遇のチャンス」と語り、矢継ぎ早に新たな施策を打ち出している。危機を乗り越えた先に描くビジョンとは、どのようなものか。同氏に聞いた。
※下記はベンチャー通信82号(2021年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
「公益志本主義」で目指すは「三方よし」ならぬ「八方よし」
―LIFULLの事業に対して、コロナ禍の影響はいかがでしたか。
国内事業は、一度目の緊急事態宣言の期間にユーザーの動きが止まった影響が大きく、売上減少は避けられませんでした。海外事業はさらに影響が大きく、一時的には昨対比で約50%もサイト上のトラフィックが減少した場面もありました。しかし、いずれの市場でも営業利益は確保でき、昨年4月の業績予想で行った下方修正の水準まで落ち込む最悪の事態は回避できました。各種販管費を抑制することで、利益を確保できる体質を示すことができたのです。
業績以外への影響も大きく、当社は昨年3月上旬からグループ全体で在宅勤務に切り替え、分散していた子会社のオフィスも本社にすべて集約。同時に、当社が全国11拠点で展開するシェアサテライトオフィスと宿泊施設の機能をあわせ持つ地方型の共同運営型コミュニティ『LivingAnywhere Commons』を、テレワーク拠点として全社員に開放しました。さらに、昨年10月からは在宅勤務環境の整備に充ててもらうため、全社員の月例給を10%引き上げています。
業績以外への影響も大きく、当社は昨年3月上旬からグループ全体で在宅勤務に切り替え、分散していた子会社のオフィスも本社にすべて集約。同時に、当社が全国11拠点で展開するシェアサテライトオフィスと宿泊施設の機能をあわせ持つ地方型の共同運営型コミュニティ『LivingAnywhere Commons』を、テレワーク拠点として全社員に開放しました。さらに、昨年10月からは在宅勤務環境の整備に充ててもらうため、全社員の月例給を10%引き上げています。
―とても動きが早く、手厚い対応ですね。そのような対応がとれた理由はなんですか。
もともと、当社は「利他主義」を社是に掲げてきたことが大きいと思っています。すべてのステークホルダーに配慮した「公益志本主義」という経営哲学を大切にしており、コンシューマーやクライアント、株主といった8つの対象を挙げ、そこでは従業員やパートナーも重要なステークホルダーと位置づけてきました。いわば、「三方よし」ならぬ「八方よし」ですね。物件の内見や契約といったサービスをすべてオンライン化するツールを一時無料開放し、コロナ禍で打撃を受けたクライアントを支援してきたのも、そのためです。
20年以上にわたって培ってきた企業文化や経営哲学があったからこそ、大きな混乱に直面しても、基本的な考え方に沿って素早く対応ができた。今回のコロナ禍によって、我々は試されたのだと思っています。
20年以上にわたって培ってきた企業文化や経営哲学があったからこそ、大きな混乱に直面しても、基本的な考え方に沿って素早く対応ができた。今回のコロナ禍によって、我々は試されたのだと思っています。
2025年までに、100の社会課題に取り組む
―コロナ禍が、理念の正しさを証明してくれたと。
そのようにポジティブにとらえています。そもそも創業以来、「テクノロジーで不動産業界を変革する」というビジョンを掲げてきた当社にとって、コロナ禍は「千載一遇のチャンス」にほかなりません。「FAXの使用が止められない」「対面営業が当たり前」といったアナログの連鎖が根強かった不動産業界も、今回の混乱でDXを否応なく迫られています。この変革をさらに後押しし、「八方よし」を実現できる新しい事業の創出が、我々の使命と考えています。
―今後の事業ビジョンを教えてください。
従来の国内、海外の不動産領域の事業を推進しながら、社会課題の解決に資する事業展開を進めており、「地方創生」や「シニア市場」を柱とする事業領域の拡大に力を入れていきます。はからずも、コロナ禍によって人々の価値観が変わり、働く場所の選択肢が大きく広がりました。テクノロジーの進展もそれを後押ししており、電気や水といったライフラインに縛られず、医療や教育などの公共サービスも遠隔で受けられる住環境も実現可能な時代です。テクノロジーを駆使し、豊かで自由な住空間の創出は、今後の重要なミッションになるでしょう。
一方、高齢化が深刻な日本では、いかに健康寿命を延ばし、高齢者が安心して暮らせるかが重要な社会課題になります。当社では、2025年までに100の社会課題に取り組みます。
一方、高齢化が深刻な日本では、いかに健康寿命を延ばし、高齢者が安心して暮らせるかが重要な社会課題になります。当社では、2025年までに100の社会課題に取り組みます。
―危機を乗り越えるために、経営者に必要な資質とはなんでしょう。
変化への対応力だと思います。えてして、利益至上主義に走る経営者の場合、環境変化に直面しても、過去の事業スタイルに固執してしまう傾向があります。それでは変化に乗り遅れ、生き残れない。
とはいえ、いざ危機や環境変化に際して、「変われ」と社内に号令をかけるだけでは組織は動きません。日頃から失敗を許容し、チャレンジを絶えず促し続けることが大事です。その時、進むべき道筋を誤らないために、ぶれない軸=価値観を持っているか。軸を持って希望あるビジョンを掲げられるかも、経営者の重要な資質になるでしょう。
とはいえ、いざ危機や環境変化に際して、「変われ」と社内に号令をかけるだけでは組織は動きません。日頃から失敗を許容し、チャレンジを絶えず促し続けることが大事です。その時、進むべき道筋を誤らないために、ぶれない軸=価値観を持っているか。軸を持って希望あるビジョンを掲げられるかも、経営者の重要な資質になるでしょう。
PROFILE
プロフィール
井上 高志(いのうえ たかし)プロフィール
1997年、株式会社ネクスト(現:株式会社LIFULL)を設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指して、不動産・住宅情報サイト『HOME'S(現:LIFULL HOME'S)』を立ち上げ、日本最大級のサイトに育て上げる。現在は、国内外あわせて約30のグループ会社、世界63ヵ国にサービス展開している。個人として究極の目標は「世界平和」で、LIFULLの事業のほか、個人でもベナン共和国の産業支援プロジェクトを展開し、一般社団法人新経済連盟 理事、一般財団法人Next Wisdom Foundation 代表理事、一般財団法人Peace Day 代表理事などを務める。
企業情報
設立 | 1997年3月 |
---|---|
資本金 | 97億1,600万円 |
売上高 | 354億200万円(2020年9月期) |
従業員数 | 1,478名(連結:2020年12月31日現在) |
事業内容 | 不動産情報サービス事業、その他事業 |
URL | https://lifull.com/ |
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