ベンチャー通信Online > 起業家インタビュー > 著名起業家 > 株式会社鳥貴族ホールディングス 代表取締役社長 大倉 忠司

INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

株式会社鳥貴族ホールディングス 代表取締役社長 大倉 忠司

35年にわたり愛され続けた理念経営の真価

コロナ禍の苦境が、我らの「強さ」を証明してくれた

株式会社鳥貴族ホールディングス 代表取締役社長 大倉 忠司

現下のコロナ禍にあって、もっとも深刻な打撃を受けた業種のひとつが飲食業、特に居酒屋業態であろう。顧客や従業員からの高いロイヤリティで知られ、昨年創業35年目の節目を迎えた鳥貴族も決して例外ではなかった。しかし、代表の大倉氏は、「この危機にあって、改めて自社の強さを実感している」と語る。この2月には持株会社体制へ移行し、新たな業態の創出も発表。コロナ後を見すえ、成長戦略の力強さは変わらない。その視線の先に描く姿とは。同氏に聞いた。
※下記はベンチャー通信82号(2021年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

新業態への挑戦で、社員のモチベーションを高く

―新型コロナウイルスの感染拡大は、事業にどのような影響を及ぼしていますか。

 外食産業のなかでも、特に居酒屋業態はもっとも大きな打撃を受けており、当社も厳しい状態が続いています。そうしたなか、店舗の立地特性に合わせてテイクアウトや昼営業など従来にない施策に着手し、売上の回復に努める一方、経費削減にも力を入れてきました。これらの成果は限定的なものでしたが、一度目の緊急事態宣言の解除後、当社の場合はお客さまの戻りがとても早かった。このイートインの回復に注力した結果、2020年7月期の売上高は23%、営業利益で17%の減少にとどめることができました。大手チェーンと比較しても20%ほど高い水準で推移したのではないでしょうか。

―業績を一定程度回復できた要因を、どのように分析していますか。

 「全品298円均一」という業態をはじめ、ステークホルダーに喜んでいただくことを第一に掲げてきた当社の理念が浸透し、評価されてきたのだと強く感じています。宣言解除後に営業を再開したときには、多くのお客さまから「待ってたよ」とお声をいただき、社員やスタッフには一番大きな励みになったはずです。鳥貴族の存在意義に、改めて確信をもてたのではないかと。

 いま、私は社員やスタッフのモチベーションをいかに高く維持するかを一番大事にしています。会議で集まることができないなかでも、鳥貴族の理念や存在意義を絶えず伝え、確認しています。また、この2月1日から持株会社体制に移行し、新業態の創出といった未来に向けての成長戦略を打ち出しているのも、その一環です。

―詳しく教えてください。

 これまで居酒屋業態一本で成長してきた当社ですが、今回のコロナショックによって、改めて経営基盤の強化が必要だと実感しています。感染症のリスクは今後も定期的に発生すると考えた場合、時短営業や休業要請を受けても、会社を支えていけるもう一本の柱が必要だろうと。社員やスタッフにとっても、売上の回復や経費削減だけではなく、将来に夢や希望がもてるチャレンジになるはずです。じつは以前から温めていた構想だったのですが、それを前倒ししようと決めたのです。

危機にある経営者に必要なのは、悲観と楽観のバランス

―ピンチをチャンスに変えようと。

 はい。振り返れば、ピンチをチャンスに変えてきたのが、鳥貴族の35年の歩みだったと言えます。創業1年目に、当時常識になかった「全品均一価格」を大胆にも実行できたのは、当時の赤字続きの苦境があったからこそ。また、その後の発展の足がかりになった大阪・道頓堀への思い切った出店は、直前まで出店の失敗が続き、社内が沈滞ムードに包まれていた状況が背中を押してくれました。

 今回の危機は、私の経営者人生において最大のインパクトがありますが、これを乗り越えればすごく大きな成長につながるのではないかと期待しています。実際、業績の痛手を最小限に抑えられている背景には、社員やスタッフの頑張りや成長があり、「鳥貴族は強いな」と改めて実感しています。アフターコロナでは「大きく飛躍できる」という確信が私にはあるんです。

―今回の経験も踏まえ、危機を乗り越える経営者に必要な資質とはなんでしょう。

 悲観的思考と楽観的思考とのバランスではないでしょうか。経営者として、つねに最悪の状況を想定してリスクに備える悲観的な発想が大事なのは言うまでもありませんが、そればかりでは周りはついてきてくれません。危機を乗り越えた後の夢やビジョンを語れる楽観的な発想も必要です。まさに、今回のような危機にあっては、経営者はそのバランスをいかに保てるかが問われます。とはいえ、楽観的な傾向が強い私には、まだ備わっていないんですが。

 今回のコロナ禍で、デリバリーや中食、内食が浸透し、お客さまが来てくれることは当たり前ではないということが、今後より鮮明になるでしょう。これからも選ばれる鳥貴族であるために、引き続きいい店づくり、価値づくりに注力していきます。
PROFILE プロフィール
大倉 忠司(おおくら ただし)プロフィール
1960年2月、大阪府生まれ。高校、調理師専門学校を経て、ウェイターとして大手ホテルチェーンで働く。1982年、焼鳥店に転職。1985年に独立、東大阪市内に「鳥貴族」1号店をオープン。1986年に株式会社イターナルサービス(現:株式会社鳥貴族)を設立、代表取締役社長に就任。全メニュー均一価格の低価格路線が支持され、出店を拡大。2014年にJASDAQ上場。2015年に東証2部、2016年に東証1部に上場。2021年、持株会社体制へ移行し、商号を株式会社鳥貴族ホールディングスへ変更。
企業情報
設立 1986年9月
資本金 14億9,182万9,125円
売上高 275億3,900万円(2020年7月期)
従業員数 9,098名(パート・アルバイト含む、2020年7月末現在)
事業内容 グループ会社の経営管理など
URL https://www.torikizoku.co.jp/
※このサイトは取材先の企業から提供されているコンテンツを忠実に掲載しております。ユーザーは提供情報の真実性、合法性、安全性、適切性、有用性について弊社(イシン株式会社)は何ら保証しないことをご了承ください。自己の責任において就職、転職、投資、業務提携、受発注などを行ってください。くれぐれも慎重にご判断ください。