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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

GMOインターネット株式会社 代表取締役会長兼社長・グループ代表 熊谷 正寿

コロナ禍でも成長し続けるメガベンチャーの「経営哲学」

「他社と同じ」では、会社は続かない。経営も危機管理もそれは同じ

GMOインターネット株式会社 代表取締役会長兼社長・グループ代表 熊谷 正寿

コロナ禍で社会が大きく変動するなか、変わらぬ成長を続けているGMOインターネットグループ。12期連続の最高益を達成した前期に続き、今期2021年12月期は、さらに前期を更新する業績推移を見せている。その要因について、同社グループ代表の熊谷氏は、「あらゆる危機を想定した事業継続への準備があった」と語る。実際、この間の同社の迅速な「コロナ対応」は、周囲の耳目を集めている。いかにして、その強固な経営体制は築かれているのか。企業成長にかける想いや、将来ビジョンもあわせて同氏に聞いた。
※下記はベンチャー通信83号(2021年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

どこよりも早く始め、どこよりも早く終了させる

―熊谷さんがいち早く全社に在宅勤務体制を敷いたのが昨年1月。どこよりも早いコロナ対応は、周囲の注目を集めました。

 まずは、経営者として考えるべき、もっとも重要なことはなにか。それはパートナー(※)の命を守り、事業を止めることなく運営することです。それを最速で実行するために、「在宅勤務の発動」という経営判断はじつにシンプルな考え方でした。

 ただし、それが実行できたのは、事業継続計画に対する日頃からの準備があったからです。直接のきっかけは、2011年の東日本大震災とそれに伴う原発事故で、当時は関東圏が放射線に汚染され、事業継続が不可能になるという事態も想定できました。当社は、インターネットインフラ事業をメインに展開している会社ですから、当社が事業を止めてしまえば、日本のWebサイトの半分以上に影響がおよび、お客さまに大変なご迷惑をおかけしてしまいかねません。そこで、本社が無人になっても動く、在宅システムとBCPを完全に組み上げました。以来、自然災害やパンデミック、国際紛争まで想定し、年1回は在宅訓練を絶やさず続けてきたのです。
※パートナー : GMOインターネットグループにおける従業員のこと

―そうした準備があったからこそ、あのようなスピードのある決断ができたと。

 ええ。経営において、スピードは力です。あらゆる危機に際しては、トップ以外にだれも責任などとることができない。トップの責任でスピード感をもって、すべてを一気に動かすのが鉄則です。今回は、過去の呼吸器系ウイルスの致死率や感染の広がり、当時の武漢市をはじめ中国全体の状況、日本との関係性などを多角的に分析し、災害対策本部を立ち上げた翌日には在宅勤務への移行を決断。また、今年6月には、政府発表の翌日に新型コロナウイルスワクチンの職域接種の対応方針を発表し、7月半ばにはパートナーの家族やお取引先、地域の希望者を含め、約2万人の接種を実施し、職域接種の完了を宣言。どこよりも早く始め、どこよりも早く終了させる。それがトップに課せられた危機管理における責任だと思っています。

事業が成長しているのは、過去の危機管理対策の賜物

―コロナ禍への対応のなか、熊谷さんはどのようなことを心がけていたのでしょう。

 「災い転じて福となす」と言うように、絶えずポジティブに考えることを心がけていました。たとえば、今回もBCPレベルをより一層引き上げるチャンスだと。これを単にピンチだと捉えれば、ほかの人と同じです。経営も危機管理もそれは同様で、他社と同じことをしていては、会社は続きません。事業の現場でも、パートナーがそれぞれに、そうした意識をもてたことが、結果的に現在の業績につながっているのだと思います。

―今期も過去最高業績のさらなる更新が続いていますね。

 コロナ禍の影響を大きく受けることなく、事業が成長しているのは、過去の危機管理対策の賜物だと思っています。たとえ、インターネットインフラ事業がコロナ禍の影響を受けにくいとされていても、日頃の準備がなければ、会社や事業の運営もパートナーたちの意識もバラバラになっていたはずです。準備があれば、迅速な対応もでき、長期的にも冷静で的確な判断ができます。たとえば、いまコロナ禍の混乱のなか、オフィスを廃止したり、地方に移転したりする企業がありますが、将来きっと後悔することになると思います。事業や人はコミュニケーションの上に成り立っており、その質やスピードを考えると、すべてをオンラインに置き換えることはできないですから。

ロボット・AIの「活用No.1企業グループ」へ

―足元の業績をどのように分析していますか。

 細かく見れば、足元で顕著な動きは、6年前から投資してきた暗号資産事業が事業の「第3の柱」に成長してきたことです。リスクをとって投資してきた事業が、ここにきて芽を出し始めたことは評価できますね。そのほか、インターネットインフラをはじめとする我々の「岩盤事業」においても、顧客数は順調に伸びています。

―熊谷さんはこれまでも、特に市場シェアNo.1には強いコダワリがありましたね。

 それはあくまでも結果としての市場シェアですね。インターネットの普及により、モノやコトの比較が容易になり、No.1のサービスしか生き残れない時代になっています。その傾向は、さらに加速していくでしょう。ですから、「市場シェア」が重要な指標であることは事実です。

 ただし、我々が一番重視している指標は、「お客さまの笑顔」です。お客さまに喜んでもらった結果が、売上であり、利益であり、市場シェアなんです。この結果を目的と混同してしまうと、組織がおかしくなってしまいます。お客さまが喜んでいない結果には、なんの意味もなく、そんなことは求めません。創業から30年間、私は「儲ける」とか「儲かる」といった言葉を使ったことは、一度としてない。一番いいサービスを提供して、一番喜んでもらいなさいと。それは、いまも変わらないスタンスです。

―それでは現在、熊谷さんがもっとも力を入れている経営テーマはなんですか。

 ここ半年間、もっとも力を入れているのは、エンジニアのみならず、全パートナーの「デジタル人財化」です。今後、ロボットやAIが人間の仕事を置き換えていく領域も多くなります。このリソースをいかに使いこなすかで、事業の成長に大きな影響をおよぼすのは間違いありません。そこで現在、「ロボット・AI活用No.1企業グループ」になることを今年の目標に掲げ、AIやRPAの活用といった社内プロジェクトを推進しています。大きな活用効果がすでに確認されており、上半期だけでも数千時間の業務効率化効果が得られています。

―それらの成果をもとに、今後どのようなビジョンを描いているのですか。

 私は、インターネットの登場は間違いなく「産業革命」だと認識しています。過去の歴史を研究するなかで、「産業革命は55年続く」というのが、私の持論です。インターネットによる産業革命の起点は1995年ですから、いまはちょうど中間点。当社も、創業からの30年間は植え付け期に過ぎません。そうした時間軸に見合った経営計画を策定しており、先ほどのプロジェクトも、そうした長期的なイメージをもった事業戦略のひとつと位置づけています。いずれにせよ、収穫期はこれからです。

思い残すことなく、リスクをとってでもチャレンジを

―これからの時代に、起業家を目指す若者にメッセージをお願いします。

 一度しかない人生ですから、思い残すことなく、リスクをとってでもチャレンジしてください。起業家は大変な仕事ですが、やりがいも大きいです。この変化の激しい時代にあってなお、醍醐味を実感しています。私は生まれ変わっても、ふたたび起業家の道を歩みたいと思っていますね。
PROFILE プロフィール
熊谷 正寿(くまがい まさとし)プロフィール
1963年、長野県生まれ。東証一部上場のGMOインターネット株式会社を中心に、上場企業10社を含むグループ全105社、パートナー(従業員)6,554名(2021年6月末時点)を率いる。1991年、株式会社ボイスメディア(現:GMOインターネット株式会社)を設立、代表取締役就任。1995年、インターネット事業を開始。1999年に「独立系インターネットベンチャー」として株式上場を果たす。「すべての人にインターネット」を合言葉に、インターネットインフラ事業、インターネット広告・メディア事業、インターネット金融事業、暗号資産事業を展開。
企業情報
設立 1991年5月
資本金 50億円
売上高 2,105億5,900万円(2020年12月期)
従業員数 6,554名(2021年6月末時点)
事業内容 インターネットインフラ事業、インターネット広告・メディア事業、インターネット金融事業、暗号資産事業
URL https://www.gmo.jp/
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