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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

株式会社USEN-NEXT HOLDINGS 代表取締役社長CEO 宇野 康秀

日本を代表するベンチャー起業家が模索する「コロナ後」の働き方

自分たちの存在意義とはなにか、発信し続けるのがトップの役割

株式会社USEN-NEXT HOLDINGS 代表取締役社長CEO 宇野 康秀

有線放送大手のUSENや動画配信サービスのU-NEXTといったグループの事業会社を再統合し、2017年12月に新たにスタートを切ったUSEN-NEXT HOLDINGS。この間、事業のポートフォリオ化が進み、強靭化されたグループ経営体制によって、コロナ禍で激変する市場環境を見事に乗り切っている。直近2021年8月期のグループ売上高は、2,000億円を超えた。「必要とされる次へ。」をコーポレートスローガンに掲げ、つねに時代の先を読み続けてきた同社代表の宇野氏が見すえる「次」とは、どのようなものか。同氏に聞いた。
※下記はベンチャー通信84号(2022年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

成長の連続性と安定性を生む、ポートフォリオ戦略

―2022年8月期の第1四半期決算も好調な業績が発表されています。この好調な推移をどのように分析していますか。

 2017年にグループを再統合した時から、大きな成長を描いていく一方で、連続的に安定した成長ができる経営体制や事業構造を目指してきました。それが現在の業績に反映できているのは、率直に評価しています。USENやU-NEXTをはじめ、グループのすべての事業がストック型のビジネスをベースとしているので、ユーザーを順調に増やしていくことさえできれば、事業構造の面から成長の連続性や安定性が担保できるようになったわけです。

―まさに進めてきたポートフォリオ戦略が功を奏して、コロナ禍を乗り切った格好ですね。

 もちろん、事前にコロナ禍を予測していたわけではありませんが、成長の連続性や安定性を追求するなかでは、さまざまな危機に耐えうる「経営のサステナビリティ」は強く意識してきました。各事業のユーザー層も法人から飲食店、一般コンシューマーといったように分散されていることが、グループ経営の安定性を生んでいます。結果、今回のコロナ禍では、USEN事業で飲食店の影響が出ながらも、巣ごもり需要でU-NEXTが伸びるといったように、グループ全体で景気の波を受けることが少ない経営体に移行することができています。

 今後は、USENを中心とするストック型の「高収益事業」で得られた収益を、業務用システムなどの「安定成長事業」への再投資や、コンテンツ配信やDX商材といった「高成長事業」への先行投資に向けていきます。ステージの異なる各事業がそれぞれ連動しながら、グループ全体として収益成長させていくモデルです。

―今回のコロナ禍は、宇野さんにとってどのような機会でしたか。

 企業グループとしての組織力、結束力を磨く良い試練だったと感じています。世界経済として見れば、欧米を中心に回復が早かった地域も多く、当初予想されていたような大きなショックはなかったと思っています。しかし、コロナ禍に突入した当初は、先が見えず、事業への影響も読めなかった。世の中の変化に対して、機敏に対応していかなければならないなか、組織の結束力が問われる場面は少なくありませんでした。

「外出は悪」とされていたなか、あえて全新入社員を集める

―そうしたなか、宇野さんはトップの役割をどのように意識していたのでしょう。

 メディアがなにを報道し、世の中がどう動いているか。それも重要ですが、「私なりにどう考えているか」というメッセージを社員たちに発信することをつねに意識していました。いま自分たちはどう行動すべきか、それを考える前提として、自分たちの会社や事業の社会的意義を明確にすることを心がけてきました。たとえば、我々の事業のなかには、病院やスーパーなどで働くエッセンシャルワーカーの後方支援を担う事業もあります。そこでは、たとえ行政が不要不急の外出を控えるよう呼び掛けてはいても、自分たちが家にこもっていては役割を果たせないと判断し、事業活動を優先させた場面もありました。

 また、あるときは世の中の動きに逆行するかのように、「外出は悪」とされていたなか、あえて全新入社員を集めて私から直接メッセージを伝える機会を設けたこともありました。

―会社の機能を維持するうえで、どうしてもそれが必要だと判断したと。

 ええ。そうした経験を通じて、社員たち自身も、自らの仕事の社会的意義を再認識していくことにもつながったのではないかと感じています。一昨年でしたが、有線放送の仕組みを使った「声で広げる!ソーシャル ディスタンス プロジェクト」が社内で発案されたのは、そうした成果のひとつでした。

 芸能人や著名人たちの協力を得ながら世の中にソーシャルディスタンスを訴えていく取り組みでしたが、これをありとあらゆる施設に無償提供していったのです。これは業績のための営業行動ではなく、「お客さまのために役立とう」とする自分たちの存在意義を明確にする行動にほかなりません。当社がこれまでコーポレートスローガンとして掲げてきた「必要とされる次へ。」の理念を、多くの社員が改めて実感できたのではないでしょうか。

変わっていく、社員にとっての「会社の意味」

―社員のみなさんに「働く理由」や「モチベーション」を見つめ直してもらうための改革は、これまでも進めていましたね。

 そのとおりです。グループ再統合を機に、フリーアドレス化やリモートワーク制度の導入、副業を認めるといったかたちで、当社なりの「働き方改革」を推進してきましたが、その目的は、社会から必要とされ、やりがいをもって個々人が働ける環境をつくることでした。コロナ禍によって、そうした「働く理由」を見つめ直す機会はできた一方で、こうした改革の帰結として、社員の帰属意識は薄くなり、社員にとっての「会社の意味」は変わっていかざるをえません。そのなかで、社員が働いた成果を企業としてはどのように評価し、それを「個人の満足」にどのようなかたちで返していくのか、そうした新たな課題が生まれてきているのも事実です。当社としても、まだその明確な答えは模索中ですが、コロナ禍でリモートワークや副業が一般化してきたいま、このことは多くの企業が共通して抱える課題になるのかもしれません。

「サステナビリティ」が、経営の最重要テーマ

―「コロナ後」を見すえた現在、もっとも力を入れている経営テーマはなんですか。

 経営のサステナビリティを追求することは、グループ再統合以来の一貫したテーマと言えます。そのなかで、いま推進している取り組みのひとつが「社長発掘プログラム“CEO's GATE”」です。これは、グループ内に100人の社長と100の事業会社を生み出し、それぞれを100億円規模に成長させることで、1兆円企業グループを目指すというビジョンの一環ですが、有能な経営者をグループ内で育て、経営のサステナビリティを追求するという狙いが背景にあります。

 企業の成長を考えると、カリスマ経営者が自ら事業をつくり、強力にけん引していくスタイルもあり、私自身もそうした経営スタイルでした。しかし、私の父親は63歳で若くして亡くなっていますが、いくら有能な経営者でも、いつかは必ず亡くなる。そこに依存した企業は、果たしてサステナブルと言えるのか。個人に頼らない、真にサステナブルな企業グループをつくりあげることが、いまの私の最重要テーマです。

―ベンチャー業界で成長を志す若者にメッセージをお願いします。

 経営者を30年以上続けてきて、いまになって実感するのは「時間の有限性」です。昔は、「宇野さんもすぐにおっさんになるよ」と諸先輩たちによく言われたものですが、まさにそう。しかし、時間の有限性を意識することは、若いうちはとても難しい。よく私のもとに、「起業したいんですが」と相談に来る若者がいるのですが、そんなとき私は「やりたいならすぐにやりなさい。悩んでいる時間がもったいない」と伝えています。起業したところで、うまくいくかどうかわからないのに、起業するかどうかで悩んでいてもしょうがない。何事も早く着手した人間のほうが圧倒的に有利です。また若いうちにしかできない働き方もある。

 私も起業した当初は遊ぶ時間などまったくありませんでしたが、いまは冬にスノーボードを楽しむようになりました。意外にも、この年齢になっても十分に楽しめますね。
PROFILE プロフィール
宇野 康秀(うの やすひで)プロフィール
1963年、大阪府生まれ。1988年に明治学院大学法学部を卒業し、株式会社リクルートコスモス(現:株式会社コスモスイニシア)に入社。わずか1年で退社し、起業を決意。1989年に株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)を設立し、代表取締役に就任。1998年、父の急逝を受けて株式会社大阪有線放送社(現:株式会社USEN-NEXT HOLDINGS)の代表取締役に就任する。2010年、株式会社USENの代表取締役社長を辞任し、同社から会社分割された株式会社U-NEXTの代表取締役社長に就任。2016年、株式会社U-NEXT社長のまま株式会社USEN取締役会長に。2017年、株式会社USENと株式会社U-NEXTが経営統合し、株式会社USEN-NEXT HOLDINGSの代表取締役社長CEOに就く。
企業情報
設立 2009年2月
資本金 9,641万円
売上高 2,083億5,100万円(2021年8月期)
従業員数 4,692名(連結:2021年8月31日現在)
事業内容 グループ会社の経営管理など
URL https://usen-next.co.jp
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