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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

株式会社パトスロゴス 代表取締役CEO 牧野 正幸

新たなサービスを生み出し続ける「シリアルアントレプレナー」 の信念

社会課題を解決する「使命感」こそが、イノベーションを生み出す原動力

株式会社パトスロゴス 代表取締役CEO 牧野 正幸

企業のバックオフィスDXを支援するパトスロゴス。2022年10月には、「人的資本経営」という、企業が成長するうえで不可欠といえる取り組みを支援するシステムを発表した。同社代表の牧野氏はかつての創業企業で、いまでは大手企業の6割強が導入しているERPシステムを開発した実績がある。まさに、「シリアルアントレプレナー」としてサービスを世に送り出し、イノベーションを起こしてきた同氏。その背景には、どのような考えがあったのか。同氏に、詳細を聞いた。
※下記はベンチャー通信87号(2023年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

社会課題を解決するために、貫いてきた2つの考え方

―先ごろ、企業の「人的資本経営」を支援する新たなシステムを発表しています。牧野さんはこれまで、どのような考えで新たなシステムを開発してきたのですか。

 社会課題の解決という、「使命感」に似た想いがありますね。前の会社でERPシステムを開発した当時は、日本にはERPシステムが存在していなかったため、企業では莫大な費用をかけたオーダーメイド型のシステムを使っている状況でした。大手のシステムコンサルタントだった私は、「このままでは、過大な情報投資が収益を圧迫し、日本の企業は国際競争力を失ってしまう」と本気で懸念し、さまざまなシステム会社に開発の提案を行いました。しかし、「売れなければどうする」といった心配から、手がける会社が結局1社も現れなかったのです。「それならば」と私が自ら起業して、「日本版ERPシステム」の開発に着手したのです。

―今回はどのような社会課題を感じたのでしょう。

 いま、企業が成長していくためには「人的資本経営」の実践が不可欠といわれ、数多くの便利な特化型のシステムが存在しています。しかし、それぞれのシステムを「連携して効果的に使うことができない」という課題を感じていました。産業構造の急激な変化や少子高齢化の進行、個人のキャリア観の変化など、企業を取り巻く環境は以前と比べて大きく変わっています。そうしたなかで企業が持続的成長を遂げるには、事業ポートフォリオにあわせて、人材を適切にマネジメントする仕組みがより重要になります。今回発表した『パトスロゴス』は、人材マネジメントで使われるデータベースの規格を共通化することで、便利なシステムをデータがつながった状態で有効活用できる製品なのです。

―かつては、デファクトスタンダードともいえるERPシステムを開発した経験もあります。そうしたシステムを生み出せる秘訣はなんでしょうか。

 私はこれまで、2つの考え方を貫いてきました。1つは、「柔軟性を持って課題解決の方法を探る」ということ。もう1つは、「イノベーションは個人から生まれる」という考え方です。

 「柔軟性」について説明すると、エンジニアの世界でよく見られることなのですが、イノベーションを起こすためには、画期的なシステムをイチから開発しなければならないと考えがちになります。もちろん、それも1つの方法ではありますが、なにより膨大な時間とコストがかかってしまい、開発に向けたハードルが高くなります。しかし実際には、すべてをイチから開発しなくても、すでに世の中にある技術や仕組みをうまく組み合わせることで、十分にイノベーションを起こせるサービスを開発できるケースも少なくありません。ゴールへの最短ルートはどれなのかを考えることを前提に、そうした柔軟性のある考え方を持たなければなりません。

HR系SaaS製品をつなげる、統一規格のプラットフォーム

―たとえば、今回の『パトスロゴス』では、その柔軟性はどのように発揮されたのでしょう。

 世の中にあるHR系SaaS製品を自由に組み合わせて、つなぐことを可能にした「HR共創プラットフォーム」の開発が、それにあたります。HR系SaaS市場ではいま、企業規模や利用目的などさまざまなニーズに対応した製品が何百種類と生まれています。そのような製品を企業が状況に応じて自由に組み合わせて利用できるようになれば、人材を適切にマネジメントすることができ、「人的資本経営」の推進に活かすことができます。

 しかし、いまのHR系SaaS製品には、ほかの製品とつなげにくいという課題があります。特に、膨大な人事情報を抱える大手企業になればなるほど、それらのデータとSaaS製品をつなぐ技術的ハードルが高くなるため、便利なHR系SaaS製品の利用が浸透しない状況になっているのです。そうしたときに、当社では、複雑怪奇な技術でSaaS製品をつなげるのではなく、「HR共創プラットフォーム」というHR系SaaS製品の統一規格データベースをつくり、自由につなげられる仕組みを構築することを考えました。企業は、「HR共創プラットフォーム」を介して、ソケットを抜き差しするように簡単にHR系SaaS製品をつなげ、利用できるようにしたのです。

大事な開発シーンは、キーパーソンに任せる

―2つ目の「イノベーションは個人から生まれる」は、今回の『パトスロゴス』ではどのように体現されているのですか。

 特に、「HR系共創プラットフォーム」は、世の中にない仕組みであるため、開発に向けては自由な発想のもと、チャレンジし続けることが必要でした。そうした開発を進めていくにあたり、方向性はその都度、社内で確認していきながらも、大事な開発シーンについてはHR領域と技術領域のキーパーソンに任せました。なぜなら、私はイノベーションを起こす着想は、1人のキーパーソンの頭の中から生み出されるものだと信じているからです。だから、たとえスムーズに開発が進まないときでも、この方法は変えませんでした。

 逆説的ではありますが、「イノベーションは組織からは生まれない」という考えがあります。誰か1人が進もうとしても、組織のほかの誰かがそれを邪魔してしまうことは、大いに考えられるからです。だから、先見性を持ったキーパーソンとなる個人が、まずは進むべき方向性を示し、具体的な方法論を考えることが大切です。組織の力は、そうして示された道を進むなかで生じる課題を解決する際に、発揮されるものなのです。

―ただし、どれくらいの権限を個人に与えるかについては、経営者にとって難しい判断ですね。

 確かにその通りです。「ソリューションスペース」という言葉があります。「解決策の範囲」を示す概念ですが、仮に社員が、「開発を成功させるために、なんでも自由にやってもらっていい」と言われたとしましょう。するとその社員は、なにから手をつければいいのか戸惑うはずです。あまりにもソリューションスペースが広すぎて、なかなか自分で決められなくなってしまうからです。

 もちろん、ソリューションスペースが狭すぎては個人の力は発揮できません。「これが正解」と回答するのは難しいのですが、経営者は、その個人にあったソリューションスペースの範囲を見極めることが必要です。そして、個人に自由に動くことを許すぶん、当然ですが、失敗も許容しなければなりません。失敗することによって落ちてしまう生産性をどのように引き上げるか。このバランスを取れる経営者こそ、優秀だといえますね。

20代はベンチャー企業で「個人の力」をつける努力を

―社会での活躍を目指す若者にメッセージをお願いします。

 終身雇用制度が崩壊し、1つの企業に勤め続けることが大きなリスクになるこれからの時代は、「個人の力」をどこまで高めるかがポイントです。そのためには、「問題解決力」を身につける以外に方法はありません。問題解決力は、挑戦と失敗を繰り返してこそ身につくものです。そうした広いソリューションスペースを与えてくれるのが、ベンチャー企業にほかなりません。

 与えられたソリューションスペースのもと、20代の頃は試行錯誤を繰り返し、問題解決力を磨く努力をしてください。そこでさまざまな経験を積み重ねることで、30歳や40歳になったときに、どこでも通用する力を身につけられているはずです。そのベンチャー企業でそのまま働いてポジションをさらに上げてもいいですし、高収入が期待できる企業への転職もできるでしょう。起業の道も考えられます。要は、その後のキャリア形成の選択肢が大きく広がるのです。私の前の会社でそうした力を身につけたスタッフたちは、どの企業でも活躍していますよ。
PROFILE プロフィール
牧野 正幸(まきの まさゆき)プロフィール
日本アイ・ビー・エム株式会社の契約コンサルタントを経て、1996年にシステム業界に革新をもたらす「大企業向けERP」の開発・販売を行う株式会社ワークスアプリケーションズを創業。2001年に上場、CEOとして売上高500億円超の企業へと成長を牽引する。退任後、2020年に株式会社パトスロゴスを創業。人的資本経営に必要なすべてのSaaSと自由自在に即時接続ができ、同時に大手企業に必要な給与・労務・人事業務ともつながる共創型HRシステムの構築、人材の発掘を提供し、日本企業のデジタル化に貢献している。
企業情報
設立 2020年10月
資本金 6億8,300万円
事業内容 HR共創プラットフォーム『パトスロゴス』の開発、販売、サポート
URL https://www.pathoslogos.co.jp/
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