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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

ディップ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 冨田 英揮

業界を代表する人材ベンチャーを育てた経営哲学

変わらぬフィロソフィーこそが、社員を育て会社を強くする

ディップ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 冨田 英揮

コロナ禍に突入したこの3年において、多くの業界が大きな試練を経験した一方で、この危機を次なる成長への転機に変えた企業もある。大きな打撃を受けた人材サービス業界にありながら、ユニークな施策の数々で存在感を高めたディップは、その代表格であろう。同社代表の冨田氏は「コロナ禍を経て、業界における市場シェアはむしろ拡大した」と語る。現在は、「DX事業」という新たな柱も立て、事業基盤の強化も打ち出す同社。危機突破の原動力はなんだったのか。また今後の成長ビジョンとは。同氏に聞いた。
※下記はベンチャー通信88号(2023年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

逆風の市況でも、市場シェアはむしろ拡大

―2023年2月期が終わりました。業績をどのように振り返っていますか。

 飲食業や販売業のクライアントが売り上げにおいて大きな割合を占めている当社だけに、2021年2月期からの2期は、コロナ禍の影響を大きく受けました。これに対して、人材サービスの市況が戻り始めた2023年2月期は、コロナ禍前の売り上げ水準を超えることが、期初からの目標でした。その目標はおおむね達成できそうな見通しです。

 そのうえ、コロナ禍の厳しい時期にあっても、じつは当社の市場シェアは、むしろ上がっているという試算があります。

―その要因はなんだったのでしょう。

 それは2023年2月期の業績回復の背景にもなっているのですが、コロナ禍で当社が社員一丸となって展開したいくつかのユニークな取り組みがあり、それらがクライアントや求職者のみなさんから評価された結果だと受け止めています。2020年1月に未知のウイルスが日本に上陸したとき、私はまず「何を守らなければならないか」と考えました。第一に社員を守ろうと、1月中にはリモートワークへの移行を実施しました。同時に、「ユーザーファースト」という当社のフィロソフィーに紐づく考え方に立ち返り、「求職者を守れ」「お客さまを守れ」というキャンペーンを大々的に展開したのです。

「時給を上げよう」施策は、クライアントの約7割が賛意

―たとえば、どういった取り組みを実施したのですか。

 まずは、当社のアルバイト・パート求人掲載サイト『バイトル』などのユーザーが新型コロナウイルスに感染した場合、治療期間中の収入相当額を当社が支払うという施策を発表しました。また、一斉臨時休校で緊急に人材が必要になったクライアントに対しては、「短期求人広告の無料掲載」を実施。売り上げが激減した業種・業態のクライアントには、「広告掲載費の支払い猶予」の対応を行いました。さらに、「ワクチンインセンティブプロジェクト」と題して、若い世代でのワクチン接種促進を狙った大規模な施策も展開しました。接種した従業員に対しての特別休暇や一時金の支給などを、クライアントの協力を得ながら実施していったのです。

 そして、2021年12月から続けているのは、「有期雇用ユーザーの待遇改善」に向けたキャンペーンです。

―クライアントに対する「時給を上げてください」というキャンペーンは、話題になりましたね。

 コロナ禍にくわえ、昨今の物価高騰の影響を強く受けるなか、これも「求職者を守れ」のキャンペーンの一環でした。クライアントに対する「時給を上げてください」という交渉は、採用コンサルタントである我々が行うのが一番効果的なんですね。需給状況や給与水準といった最新の労働市場環境をデータで詳細に把握しているのは、ほかならぬ我々であり、クライアントにはそれに基づいた有効な施策を提案してきた実績がありますから。

 この交渉のなかで意外だったのは、クライアントの約7割が積極的な賛意を示してくれたことでした。時勢を考慮して時給をアップしたことを、人材確保や集客の武器にしたいと考えるクライアントが思いのほか多かったことを知りました。結果として、求職者、クライアント双方にとって有益なキャンペーンになったと考えています。

コロナ禍でも証明された経験則「危機は会社を強くする」

―このような独自の取り組みを矢継ぎ早に実施できた理由はなんだったのでしょう。

 我々の強みのひとつは、「豊富なアイデア」にあると思っているのですが、それを迅速に行動へ移せた理由は、それらのアイデアがつねに会社の「フィロソフィー」に沿ったものだったからだと思っています。このフィロソフィーは、過去のさまざまな挑戦や苦難の歴史のなかで培われたものであり、会社や事業の形が変わったとしても、決して変えてはいけない「軸」になるものと位置づけています。

―それは具体的にどのようなものですか。

 企業理念である「私たちdipは夢とアイデアと情熱で社会を改善する存在となる」、ビジョンである「Labor force solution company」、ブランドステートメント「One to One Satisfaction」、そして全社員の行動規範「dip WAY」と行動哲学「ファウンダーズスピリット」で構成されています。

 今回のコロナ禍は、まさに我々自身がフィロソフィーを再確認する機会にもなりましたし、変わらずフィロソフィーを追求し続ける姿勢に、社員たちも「会社は本気なんだ」と感じてくれたはずです。だからこそ、社員たちはアイデアが「腹落ち」して、迷わず行動へ移せたのではないでしょうか。この経験が、さらにフィロソフィーを強固に浸透させてくれました。これまでの経営者人生のなかで感じてきた「危機は会社を強くする」という経験則は、今回もあらためて証明されたように思います。

逆らえない波なら、乗る準備をするしかない

―ディップでは現在、DX事業という新たな柱を立てていますね。これも、フィロソフィーに沿った動きなのでしょうか。

 そのとおりです。当社では、2019年に「Labor force solution company」というビジョンを策定しましたが、そこには、我々が提供すべきLabor force(労働力)というものの再定義が必要ではないか、という問題意識がありました。テクノロジーの進展が目覚ましい今、人々の働き方も大きく変わっています。そのとき、労働市場の課題解決をミッションとする我々が提供すべき労働力とは、必ずしも「人」だけではないのではないかと。従来の人材サービスにくわえ、AIやロボットを活用したサービスを開発・提供するDX事業を新たに立ち上げたのは、そのためです。機械が代替できる仕事は機械に任せ、人間はより喜びを感じられる仕事を手がけていく。そんな時代の変化を先導するのが当社の役割ではないかと考えています。

―求職者を取り巻く環境は大きく変わりますね。

 一見すると厳しい時代のようにも思えますが、AIやロボットに代替されて無くなる仕事もある反面、新たに生まれてくる仕事だってあり、むしろそれらのほうが多いとの試算さえあります。そもそも、DXの波に逆らうことなど無理だと思うんですね。そうであるならば、一刻も早くその波に乗る準備をするしかありません。情報流通によって労働市場の流動性を高めたり、労働者のリスキリングを支援したりといったかたちで、その手助けをすることが我々のミッションだと思っています。我々の取り組みによって企業は事業を改善し、従業員を大切にするようになり、そこで働く人々が幸せを感じ、社会が良くなっていく。そのように、当社が企業理念にも掲げる「夢とアイデアと情熱で社会を改善」していくことこそ、ディップが存在する意義だと思っています。

自分の可能性を信じることは、人生の醍醐味

―ベンチャー業界で成長を志す若者にメッセージをお願いします。

 私は、「THINK BIG」という言葉を大切にしていて、社員にもよく伝えています。この言葉には文字通り、「大きな志」「大きな夢」を持つべきという意味のほかに、「固定観念を払拭する」「バイアスを取り除く」といった含意もあります。固定観念に縛られず広い視野を持てたとき、人には新しい思考やアイデア、行動が生まれてくるものです。自分の可能性を最大限に信じ、行動できるということは、人生において最大の醍醐味だと思いますね。
PROFILE プロフィール
冨田 英揮(とみた ひでき)プロフィール
1966年、愛知県生まれ。27歳で起業を志し、1997年にディップ株式会社を設立。『はたらこねっと』『バイトル』などの事業を手がけ、2004年に東証マザーズ(当時)上場、2013年に東証市場第一部(現:東証プライム市場)へ指定替えを果たす。
企業情報
設立 1997年3月
資本金 10億8,500万円 (2022年2月末現在)
売上高 395億1,500万円(2022年2月期)
従業員数 2,356名(2022年4月1日現在の正社員)
※契約・アルバイト・派遣社員除く 事業内容/人材サービス事業、DX事業など
URL https://www.dip-net.co.jp/
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