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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

株式会社東京証券取引所 上場推進部長 永田 秀俊 / 上場推進部 兼坂 雄太

3年連続3桁の新規上場実績をスタートアップがけん引

世界的に逆風が吹くなかでも、国内のIPOは活況を維持

株式会社東京証券取引所 上場推進部長 永田 秀俊 / 上場推進部 兼坂 雄太

2022年の国内IPO市場における新規上場会社数は111社(※)と、3年連続で3桁の高水準となった。再編前のマザーズ市場とグロース市場の合計でIPO件数全体の6割を占めるなど、スタートアップの躍進が続いている。こうした情勢を受け、東京証券取引所の永田氏は、「IPO市場のさらなる活性化を図るべく、今後もスタートアップ支援に注力する」と話す。2022年の総括に加えて、今後の展望などを、同氏と兼坂氏に聞いた。

※TOKYO PRO Market(東京証券取引所が運営するプロ投資家向けの株式市場)への上場を含む全国のIPO社数

※下記はベンチャー通信88号(2023年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

IPOを目指す企業の、「ターゲットイヤー」が続く

―2022年の国内IPO市場についての総括を聞かせてください。

永田:国内のIPO社数は111社と、高水準を維持しました。2022年は、ウクライナでの戦闘の長期化やインフレ、金利上昇といったさまざまな懸念材料によって、米国や欧州などではIPOが低迷しました。そうしたなか、日本のIPO社数が3年連続で3桁を記録したということは、IPOが非常に活発だったと言えるでしょう。

兼坂:IPO社数の年間推移をみると、2022年は過去10年間で2番目に高い水準です。前年比では25社の減少となりますが、2021年にはコロナ禍の影響によりIPOのタイミングを見極めていた多くの企業でIPOが実現したものと捉えています。そのため、企業のIPOに対する意欲は旺盛な状況が継続していると感じています。

―世界的に厳しい市場環境にあるなかで、国内のIPO市場が活況な理由をどのようにみていますか。

永田:IPOの実現には、準備開始から早くても2~3年ほどかかります。ここ数年の国内の株式市場は安定的に推移しており、それを受けて上場準備を進めていた企業が定めたIPOの「ターゲットイヤー」が続いているのだと思います。業種別の傾向として、DXやAI、クラウドなどのキーワードを含む事業内容が目立ち、それらの業種・業態がコロナ禍でも好調だったことがうかがえるのではないでしょうか。また、マザーズ市場とグロース市場の合計でIPO社数は70社となり、スタートアップがIPO市場をけん引したと言えるかもしれません。

兼坂:TOKYO PRO Marketへの新規上場が、過去最高の21社となった点も印象的でした。その背景には、「株主数」や「利益の額」といった形式的な上場基準がなく、監査証明が1年間で足りるなど、同市場では一般市場よりも上場準備の負担を軽減されていることの認知拡大があるとみています。また最近では、同市場からグロースなどの一般市場へ上場する事例や資金調達を行う事例も複数出てきており、さまざまなかたちで活用されていると感じています。

―2023年もIPO市場の好調は続きそうでしょうか。

永田:IPO関係者の声を聞く限りでは、企業のIPOに対する意欲自体は、引き続き底堅い状況であるとみています。その一方で、地政学的なリスクや市場環境などの変化を踏まえて、上場予定時期を見極めている企業が出てきていることも事実です。

「ディープテック」企業や、地域企業のIPO支援を強化

―今後のIPO市場の活性化に向けて、どのような施策を進めていますか。

永田:特に力を入れているのが、国内のスタートアップの支援です。たとえば、宇宙や素材、ヘルスケアなどの先端領域で新技術を活用して新たな市場開拓を目指す「ディープテック」と呼ばれる研究開発型企業があります。ディープテック企業は、技術開発やビジネスモデルの構築が発展途上です。そのため、従来の目線では相対的に企業価値の評価が難しい面がありますが、大きな成長の可能性を秘めています。そこで、そういった企業に株式市場を通じて成長に必要な資金を速やかに供給できる仕組みを整えました。具体的には、製商品化やサービス化に至っていない段階であっても、機関投資家からの大規模な資金調達で上場までに相応の企業規模になっており、上場時も機関投資家を中心に大規模な資金調達を行うといった場合の仕組みです。その際、機関投資家などからの評価を上場審査で活用できるようにしました。

 また、国内各地域でIPOエコシステムの確立を図る取り組みにも着手しています。

―どのような取り組みでしょう。

兼坂:自治体や地域の金融機関などの関係各所と連携して、各地域でIPOが継続的に生まれる土壌形成を推進する取り組みです。その一環として、2022年12月には、七十七銀行と東北大学の協力のもと、仙台市でIPOに関する人材育成プログラムを立ち上げました。今後は、各地域の状況に応じて私たちの取り組みの内容もカスタマイズしながら、地域のスタートアップなどを育成していきたいと考えています。

永田:昨年に政府がスタートアップを強く後押しする方針を示し、その支援をより一層強化できる環境が整いました。今後は、新たな産業の担い手となるスタートアップの育成と成長に資する株式市場と、地域経済の活性化に資するIPOエコシステムの確立をさらに加速させます。それらを通じて、スタートアップ企業などへの円滑な成長資金の供給が実現する環境をつくり出し、日本経済の発展にもつなげていきたいです。
PROFILE プロフィール
永田 秀俊 (ながた ひでとし)プロフィール
1971年、大阪府生まれ。1995年に中央大学を卒業後、株式会社東京証券取引所に入所。2002年から2009年は上場審査部に所属し、国内および海外企業の上場審査業務に従事。その後、株式会社証券保管振替機構への出向を経て、2012年7月より上場推進部において、国内および海外企業の上場誘致・サポート活動を担当。2021年4月より現職。
兼坂 雄太(かねさか ゆうた)プロフィール
1996年、山口県生まれ。2019年に東京大学を卒業後、株式会社日本取引所グループに入社。大阪取引所・市場管理部に所属し、デリバティブ市場の管理・運営に従事。2021年11月より現職。
企業情報
設立 1949年4月
資本金 115億円
従業員数 312名(2022年4月1日現在)
事業内容 有価証券の売買を行うための市場施設の提供、相場の公表および有価証券の売買の公正の確保、その他の取引所金融商品市場の開設にかかる業務など
URL https://www.jpx.co.jp/
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