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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

株式会社東京証券取引所 上場推進部長 荒井 啓祐 / 上場推進部 調査役 熊谷 祐輝

グロース市場の上場社数は63社で新規株式公開をけん引

「資金調達の活発化」を背景に、2024年の国内IPOは高水準を継続

株式会社東京証券取引所 上場推進部長 荒井 啓祐 / 上場推進部 調査役 熊谷 祐輝

2024年におけるIPO市場の新規上場会社数は134社(※)で、5年連続で3桁の高水準となった。特に、グロース市場に上場した企業数は63社で、スタートアップがIPO市場をけん引した。こうした市況を受け、東京証券取引所(以下、東証)・上場推進部長の荒井氏は、「スタートアップ支援など市場のさらなる活性化に取り組んでいく」と話す。2024年の総括に加え、今後の展望を同氏と同部調査役の熊谷氏に聞いた。
※134社 : TOKYO PRO Market(東京証券取引所が運営するプロ投資家向けの株式市場)への上場を含む全国のIPO社数
※下記はベンチャー通信92号(2025年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

TOKYO PRO Marketに、過去最高の50社が新規上場

―まずは、2024年の国内IPO市場についての総括を聞かせてください。

荒井:国内におけるIPOの社数は134社にのぼり、直近10年間で比較すると、過去最高を記録した2021年に次いで2番目という高水準でした。アメリカの景気後退への懸念や、急速な円高進行による一時的な市況の混乱はありました。しかし、株式相場が堅調であるのを背景に、資金調達が活発化したのが高水準の要因だと考えられます。なかでも、グロース市場への上場社数は63社で、スタートアップがIPO市場をけん引したのが見てとれます。近年、宇宙、素材、ヘルスケアなどの領域で、大学などと連携して新たな市場開拓を目指す研究開発型企業、いわゆる「ディープテック企業」がグロース市場に上場するケースが徐々に増えています。2024年も、たとえば宇宙関連ビジネスを取り扱う会社が2社上場しました。

熊谷:初値時価総額が1,000億円を超える新規上場が、奇しくも前年と同様の6件実現したことも印象的でした。さらに、2024年ならではのトピックが、もうひとつありました。

―それはなんでしょう。

熊谷:TOKYO PRO Marketの新規上場会社数が、過去最高の50社となった点です。その要因としては、一般市場より上場準備の負担が軽減されているTOKYO PRO Market自体の認知度が高まっていることがあげられます。また、我々が認定しているJ-Adviser(※)が担当企業にTOKYO PRO Marketを提案しているのに加え、上場後も非常にていねいなサポートをしてもらえているのも要因だと考えています。同市場から、グロース市場に上場する企業もあり、ステップアップに利用する事例も増えています。
※J-Adviser : 担当するTOKYO PRO Marketの上場会社に対して、上場前の上場適格性の調査確認や上場後の適時開示の助言・指導、上場維持要件の適合状況の調査を東京証券取引所に代わって実施する企業を指す

―2025年もIPO市場の活況は続くと見ていますか。

荒井:我々が得ている情報では、一定数の企業がすでに準備を進めていると聞いています。そのため、「IPOを活用して会社を成長させていこう」という企業の意欲は衰えることなく、マーケットの状況に応じて下振れする可能性はあるものの、底堅く推移するのではないかと見ています。なかでもグロース市場においては、引き続き、ディープテック企業の新規上場が今後も増えていくことを期待しています。

全国各地や海外において、幅広くIPOを支援

―IPO市場を活性化させるために取り組んでいることを教えてください。

熊谷:ひとつは、国内各地域における企業のIPOを促進させることを目的に、自治体や地元の金融機関などと連携し、「IPO経営人材育成プログラム」を開催しています。これまで、北海道、宮城県、新潟県、愛知県、大阪府、京都府、広島県の7地域で開催しており、2025年も福井県と福岡県で開催を予定しています。これは、IPOを目指す企業の経営者層に対し、必要な情報を提供することに加え、参加した企業や団体同士のネットワークを構築してもらうのも狙いです。また、上場の準備段階での各種手続きや審査などについて気軽に相談できる「IPOセンター」という窓口を、上場推進部内に設置しています。

荒井:さらに、2024年は、アジアの有力企業に対し、日本における事業・資金調達支援、IPO支援などを行うことを目的に「東証 アジア スタートアップ ハブ」を設置しました。こちらは、証券会社や監査法人、ベンチャーキャピタルなど幅広い関係者にパートナーやオブザーバーとして参加してもらい、アジアを中心に14社を対象企業として選定し、実際に支援を開始しています。

今後の、東証の運営方針を聞かせてください。

熊谷:引き続き、国内外でIPOを目指す企業を支援することで、IPOの裾野を広げていきたいですね。特にグロース市場においては、「日本経済をけん引するスタートアップの輩出」が命題になっています。そのため、上場前だけでなく、上場後の成長に向けた果敢なチャレンジを企業に促していくためのアプローチを図っていきます。

荒井:我々は「資本市場のインフラ」であり、主役はあくまで企業です。企業がIPOを活用して、さらなる成長を望めるような仕組みを構築することは、我々の使命と言えます。その使命を果たし、日本経済の発展につなげていきたいですね。
PROFILE プロフィール
荒井 啓祐(あらい けいすけ)プロフィール
1994年、東京証券取引所(現:株式会社東京証券取引所)に入所。TOKYO AIM(現:TOKYO PRO Market)の設立業務やロンドン駐在を経て、2019年より情報サービス部長として株価指数の企画開発などを担当。2023年より現職。
熊谷 祐輝(くまがい ゆうき)プロフィール
2015年、地方銀行入行。法人融資、地域活性にかかる地方創生関連業務、スタートアップ企業の成長支援やIPOのサポート業務などを担当。2024年より、株式会社東京証券取引所上場推進部に出向。現在は国内企業の新規上場サポート業務および地域企業のIPOプロモーションなどに従事。
企業情報
設立 1949年4月
資本金 115億円
従業員数 331名(2024年3月31日現在)
事業内容 有価証券の売買を行うための市場施設の提供、相場の公表および有価証券の売買の公正の確保、その他の取引所金融商品市場の開設にかかる業務など
URL https://www.jpx.co.jp/
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