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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

株式会社トリドールホールディングス 代表取締役社長 兼 CEO 粟田 貴也

国内外で2,000店舗を突破した巨大外食チェーンのトップが抱く経営の矜持

「飽くなき成長」を追求し続ければ、予測を超えた未来も切り拓ける

株式会社トリドールホールディングス 代表取締役社長 兼 CEO 粟田 貴也

今から約40年前の1985年、1軒の焼き鳥屋を兵庫県加古川市に創業。その後、2000年に讃岐うどん専門店『丸亀製麺』1号店を同市に出店したトリドールホールディングス代表の粟田氏は、今や国内外で2,000店舗以上を持つ、巨大外食チェーンを束ねるトップとなった。国内の飲食店が、原材料費や人件費の高騰にあえぐなかでも、同社の勢いは止まらず、順調に業績を拡大している。同氏に、成長を続けられる理由などを聞いた。
※下記はベンチャー通信92号(2025年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

『丸亀製麺』だけでなく、国内の他業態も業績に貢献

―まずは、トリドールホールディングスの直近の業績を振り返ってください。

 2025年3月期第2四半期(中間期)の売上高は1,337億2,000万円で、連結でも、「丸亀製麺」「国内その他」「海外事業」の全セグメントでも、中間期における過去最高となりました。特に『丸亀製麺』をはじめとする国内事業は、コロナ禍が収束したこともあり、順調に進捗しました。『丸亀製麺』のトピックとしては、うどんから生まれたもっちもち食感の新商品『丸亀うどーなつ』が大ヒットし、2024年6月25日の販売開始以来、約半年で1,000万食を突破しました。また、2024年3月には、『丸亀製麺』独自の麺職人制度に合格した「麺職人」を国内全店舗に配置しました。『丸亀製麺』以外の業態でも、ハワイアンカフェレストラン『コナズ珈琲』が売上を伸ばしたほか、姫路濃厚とんこつラーメン『ラー麺ずんどう屋』が全国100店舗を達成するなど、業績に貢献しました。

―国内の原材料費や人件費が高騰するなか、売上を伸ばせている理由はなんでしょう。

 やはり、当グループが単に飲食を提供しているのではなく、お客さまに「感動体験」をお届けしていることが、大きな集客装置になっているからだと思います。業界的には省人化・省力化が当たり前になっており、配膳ロボットや、お客さまが直接、注文を入力できる卓上デバイスなどを導入する飲食店が増えています。私自身、そうした企業努力に対しては非常に肯定的です。しかし、我々が重視しているのは、そこではありません。たとえば『丸亀製麺』では、すべての店舗で国産小麦と塩・水のみを使用した粉から生地をつくり、臨場感のあるオープンキッチンで「手づくり」「できたて」のうどんを提供しています。当然、手間やお金もかかりますが、だからこそお客さまにおいしさはもちろん、「感動体験」を提供できるのだと考えているのです。

―「感動体験」を提供することが顧客のリピートにつながると。

 その通りです。『丸亀製麺』は、「うどんを手間暇かけて粉から手づくりする」とともに「全国各地に店舗を増やし同じクオリティで提供する」という一見すると相反することにこだわってきました。言わば、「二律背反」ならぬ「二律両立」です。そもそも飲食店というのは、オペレーションを優先して考えがちです。一方、我々の場合は「どうしたらお客さまに来てもらえるか」を一番に考える。集客できれば、絶対的な売上が立つのですべての固定費を凌駕できる。これは『丸亀製麺』に限らず、我々が運営しているすべての飲食ブランドが提供している本質的な価値です。その代わり、接客以外の業務ではAIを活用して客数を予想するなど、徹底的にデジタル化を図っています。こうした点は他社がマネできないことであり、当グループの強みだと自負しています。

耳で聞いて現場で体験し、強みを理解してもらう

―その強みを発揮するために、どのようにして粟田さんの方針を従業員に浸透させているのですか。

 もちろん、そうした考えに共感してもらえる人材の採用を重視していますし、「粟田未来塾」と称して私が全国を回って従業員に直接想いを伝えるような理念教育の取り組みなどは数多く実施しています。とはいえ、そうした強みを現場で発揮する従業員はラクではありません。いくら「『感動体験』の提供が大事なんだ」と口で言っても、飲み込めない人もいるでしょう。しかし、現場に立てばお客さまに「おいしいね」と言っていただき、行列ができる。結果として、売上も上がる。実際に『丸亀製麺』の既存店で過去最高売上を達成する店舗がいくつも出てきています。「感動体験」を、従業員も体験しているわけです。だからこそ、「このやり方でいいんだ」と従業員も身をもって理解できるのです。

 また近年は、従業員のエンゲージメント(※)を高める取り組みにも注力しています。
※エンゲージメント : ここでは従業員の会社に対する愛着心や思い入れを指す

―具体的にどのような取り組みを行っているのですか。

 定量的な話で言うと、2024年の6月から従業員ひとり当たり約10%の賃上げを実施しました。そのほか、店長に、自由に使える予算を持ってもらい、スタッフの誕生日にプレゼントを贈ったり、ちょっとした懇親会を開いたりすることを推奨する取り組みや、店長のスタッフに対する「傾聴力」を高めるセミナーの実施などを正式な社内プロジェクトとして進めています。そうすることで、「お店に行けば、話を聞いてくれる仲間がいる」と従業員に思ってもらえるような環境をつくっていくのが狙いです。お客さまに「感動体験」を提供するのは、従業員にほかなりません。その従業員の「働く幸せ」を追求していくことで、結果として「感動体験」の提供をより強化していこうというわけです。こうした環境づくりが、従業員の内発的な動機を生み出し、それが顧客満足と従業員満足の向上という良い循環を生み出すのだと信じているのです。

M&Aの基準は実演がある点、感動の本質は万国共通

―海外展開の戦略についても聞かせてください。

 現在、国内外あわせて2,000店舗以上を展開していますが、海外は米国、香港、インドネシア、台湾、ベトナム、カンボジア、フィリピン、イギリスなど約900店舗です。2011年に、米国ハワイに初の海外店舗を出店し、これを皮切りにグローバル展開を加速させ、さらに2015年以降は、M&Aを通じて多様な海外ブランドを取得し、事業の幅を広げてきました。私は、国内市場もまだまだ伸ばしていけると考えていますが、やはり海外には夢がある。ですから、海外もどんどん出店するエリアや店舗数を増やしていきます。『丸亀製麺』の海外ブランドである『MARUGAME UDON』はもちろん、M&Aでグループインしてもらった業態に共通しているのは、実演という「感動体験」があることです。この方針は海外でもブレることはありません。海外のロードサイドの屋台で、できたての料理を手渡しされるとワクワクしますよね。ですから、感動の本質は万国共通なんです。

従業員に持ってほしい3つの哲学

―今後はどのように経営の舵を切っていくのですか。

 引き続き我々の武器を国内外で磨いていき、「唯一無二の日本発グローバルフードカンパニー」を目指していきます。それを社内外に発信するため、ミッション、ビジョンなどを見直しました。そのタイミングでそれらを実践していく全従業員が、未来永劫に持つべき哲学として、「成長哲学『トリドール3頂(ちょう)』を新たに掲げました(下図参照)。「KANDO」は、海外も含めて我々が追求していくべき武器として、英語表記にしました。「二律両立」は、「KANDO」をお客さまに届けるために欠かせない我々のスタイルです。そして「称賛共助」は、それらを支える従業員が「働く幸せ」を感じられるように、称え合い助け合う文化をつくっていこうというメッセージです。これらは、まさに私が「大事にしている」と話してきたことをまとめたものなのです。
そのうえで、私自身がこれまでも、これからも大事にしていきたい言葉があります。

―それはなんでしょう。

 「飽くなき成長」です。当グループは、2028年3月期までの中期計画で売上高4,200億円、4,900店舗を目指してはいますが、それがすべてだというわけではありません。目標数値には反映されない、もっともっと人智を超えた、予測不能な未来を切り拓きたいという想いがあるのです。いかに無謀に見えても、大志を持ってチャレンジすれば奇跡を起こせると考えています。「食」は身近なレジャーです。やはり、レジャーは楽しくないと。ですから我々は、これからも「手づくり」「できたて」という非効率・非合理にこだわっていきます。
PROFILE プロフィール
粟田 貴也(あわた たかや)プロフィール
1961年、兵庫県生まれ。神戸市外国語大学中退。学生時代のアルバイト経験から飲食業に魅力を感じ、1985年に焼鳥居酒屋『トリドール三番館』を創業。父親の故郷である香川県の讃岐うどん人気に着想をえて、2000年にセルフうどん業態『丸亀製麺』を開業。チェーン店の常識を覆す数々の挑戦で顧客の心をつかみ、急成長。2006年に東京証券取引所マザーズ市場(当時)に上場、2008年に東京証券取引所第一部(当時)に市場変更。コロナ禍を乗り越え、国内外で多業態展開を加速している。
企業情報
設立 1990年6月
資本金 45億1,900万円(2022年3月末現在)
売上高 2,319億5,200万円(2024年3月期)
従業員数 7,790名(2024年3月末現在:連結)
事業内容 飲食業を中心とする傘下子会社の経営管理
URL https://www.toridoll.com/
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