INTERVIEW 業界別起業家インタビュー
成長企業を取り巻く資本市場環境の変化を東証が解説
上場後の成長がより重視されるなか、IPOはますます「飛躍の好機」に
株式会社東京証券取引所 上場推進部長 荒井 啓祐 / 上場推進部 調査役 礒貝 周平
2025年の新規上場会社数は66社と、前年を大きく下回った。しかし東京証券取引所(以下、東証)は、この減少を一時的な市況の影響に加え、「上場後の成長」を重視する資本市場の構造変化の表れであると捉えている。グロース市場における上場維持基準の引き上げという大きな改革が決定したいま、東証はどのような市場像を描いているのか。上場推進部の荒井氏と礒貝氏に詳しく聞いた。
※下記はベンチャー通信94号(2026年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
「数」にはこだわらず「質」を重視。市場のフェーズが移行
―2025年のIPO市場をどのように総括していますか。
礒貝:国内の新規上場会社数(プロ向け市場を除く)は、前年比20社減の66社で、2013年以来の低水準となりました。上半期は市況の不透明感から上場が抑えられましたが、第4四半期には前年同期並みまで回復しており、上場意欲自体は衰えていないと見ています。注目すべきは、投資家の「上場後の成長」への期待の高まりです。グロース市場における新規上場会社の初値時価総額(中央値)は前年の88億円から125億円へ、経常利益(中央値)も1億円から4億円へと増加しました。これは、投資家の期待に応えられるよう上場時期を吟味し、一定の規模や収益性を確保したうえで上場する企業が増えた結果と言えます。一方、小規模や赤字でも上場後に大きく成長していくビジョンがあれば、IPOを実現できている点も重要です。市場は「数」にはこだわらず「質」を重視し、上場後の成長につながるIPOなのかをより強く問うフェーズへと移行しています。
荒井:こうした「上場後も持続的に企業価値を向上させ、投資家の期待に応えてほしい」という市場の要請は、昨年来、東証が進めているグロース市場の改革にも反映されています。この改革の目的はグロース市場を「高い成長を目指す企業が集う市場」とすることにあり、その実現に向けて複数の施策を進めていますが、特に注目を集めているのが上場維持基準の引き上げです。
荒井:こうした「上場後も持続的に企業価値を向上させ、投資家の期待に応えてほしい」という市場の要請は、昨年来、東証が進めているグロース市場の改革にも反映されています。この改革の目的はグロース市場を「高い成長を目指す企業が集う市場」とすることにあり、その実現に向けて複数の施策を進めていますが、特に注目を集めているのが上場維持基準の引き上げです。
―基準を引き上げた狙いを改めて詳しく教えてください。
荒井:グロース市場は、未来の日本経済を担う企業を育てる場です。その観点からすれば「上場5年経過後から時価総額100億円以上」という新たな基準は決してゴールではありませんが、上場後の早期の成長を促すべく、一つの通過点として定めています。100億円というのは、機関投資家の投資対象となるミニマムな水準ですが、これを超えて機関投資家の伴走を得られれば、成長投資を進めやすくなる好循環が生まれます。今般、新規上場基準の見直しは行っていませんが、IPOを目指す経営者のみなさんが、こうした点も意識しながら最適な上場時期や成長戦略をより真剣に検討し始めたことはポジティブな変化です。
―IPOを目指す企業にはどういったマインドセットを期待しますか。
荒井:上場後も高い成長を追求し続ける、さらなる高みを目指すマインドが不可欠です。現在、経営者と投資家の間には認識の乖離が見られます。たとえば、「着実に増収増益を実現しているのに市場に評価されない」と悩む経営者に対し、投資家は既存の大型株を凌駕するくらい高い成長率の継続をグロース株に期待しています。企業には、ニッチ市場にとどまらず新たな市場をいかに開拓し成長を止めない戦略を描けるかが問われているのです。投資家との対話を通じて期待される役割を認識し、戦略を磨き続ける姿勢が重要です。
資金調達や準備の場を整え、質の高いIPOを生み出す
―IPO市場の活性化に向けて、東証はどういった施策に取り組んでいますか。
礒貝:上場後の成長につながるIPOを増やすため、準備段階からの支援に注力しています。たとえば、上場後に投資家から期待されることを前もって経営者のみなさんに認識してもらうための情報発信を強化しています。VCなどと連携した勉強会も設け、投資家の期待を直接伝える機会を増やしています。また、非上場段階での資金調達や株式流通を円滑にするため、ベンチャーファンド市場の改善や東京プロマーケットの改革に向けた議論も進めています。多様な資金調達ルートや準備の場を整え、質の高いIPOが継続的に生まれるよう、取引所の立場からも貢献していきます。
―さらなる成長を目指すベンチャー企業経営者にメッセージをお願いします。
荒井:上場後の成長がより期待されるようになるなかで、IPOだけを目的にした経営はこれまで以上に立ち行かなくなるでしょう。しかし、その期待に真摯に応える企業にはより多数の投資家が集い、より多額の成長資金を調達できるようになるはずです。厳しい環境下でも、魅力的な成長戦略を描き、投資家の共感を得られれば、IPOはさらなる飛躍の好機となります。上場という舞台を最大限に活用し、未踏の領域を目指していただければと思います。
PROFILE
プロフィール
荒井 啓祐(あらい けいすけ)プロフィール
1994年、東京証券取引所(現:株式会社東京証券取引所)に入所。TOKYO AIM(現:TOKYO PRO Market)の設立業務やロンドン駐在を経て、2019年から情報サービス部長として株価指数の企画開発などを担当。2023年4月から現職。
礒貝 周平(いそがい しゅうへい)プロフィール
2015年、株式会社日本取引所グループに入社。上場審査業務などに従事後、2020年から上場部企画グループで、市場区分再編やグロース市場の見直しなど、上場制度全般の企画設計を担当。2025年5月から現職。
企業情報
| 設立 | 1949年4月 |
|---|---|
| 資本金 | 115億円 |
| 従業員数 | 308名(2025年3月31日現在) |
| 事業内容 | 有価証券の売買を行うための市場施設の提供、相場の公表および有価証券の売買の公正の確保、その他の取引所金融商品市場の開設に係る業務など |
| URL | https://www.jpx.co.jp/ |
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