INTERVIEW 業界別起業家インタビュー
バックオフィス支援領域でクラウド市場をけん引するトップの経営哲学
課題解決の「定石」を学んでこそ、会社の「成長の壁」は回避できる
株式会社ラクス 代表取締役社長 中村 崇則
企業の煩雑なバックオフィス業務に悩む担当者を、コミカルに描いたCMを目にした人は多いのではないか。そこで紹介されている法人向けクラウドサービス『楽楽精算』『楽楽明細』など、「楽楽クラウド」を提供しているのがラクスだ。「楽楽クラウド」は、累計10万社以上(2025年12月時点)で利用されており、同社の売上高は今期600億円を見込んでいる。バックオフィス・フロントオフィスの業務効率化を手がけるラクス代表の中村氏に、成長の要因などを聞いた。
※下記はベンチャー通信94号(2026年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
「DX」の浸透が、クラウド事業の成長を後押し
―まず、ラクスの直近の業績を振り返ってください。
2026年3月期の第3四半期の累計売上高は442億9700万円と前年同期比で24.6%増、営業利益は125億円で65.7%増と堅調に推移しています。特に、営業利益率は四半期で初めて30.9%と初の30%台に達し、過去最高を更新しました。2026年3月期の第2四半期では、通期の売上高の予想を600億円に上方修正しましたが、計画通り達成できる見込みです。今期は5ヵ年中期経営計画の最終年度で、CAGR(※)を31〜32%という目標を掲げて取り組んできましたが、実現できそうなところに来ています。
※CAGR : Compound Annual Growth Rate(年平均成長率)の略で、ある一定期間の平均的な年間成長率を表す指標のこと
―業績が好調な要因はなんでしょう。
やはり、当社の主力製品である『楽楽精算』『楽楽明細』などを中心としたクラウド事業が、強力なストック型ビジネスとして成長している点ですね。その背景として、主力顧客である中小企業の経営者や現場担当者が「社内DXを進めなければならない」というマインドにチェンジしてきたことがあげられます。当社は2008年からクラウドサービスを提供してきましたが、当初は「打てど響かない」という側面もありました。しかし現在、「DX」はひと昔前の「インターネット」のように、もはや当たり前のものとして浸透しています。「インボイス制度」や「電子帳簿保存法」が施行されたことも、大きな後押しになりました。
―多くの企業がクラウド市場に参入していますが、いかに差別化を図っているのですか。
先んじて市場に参入し、我々が「いける」と思った分野を選択し、継続的に深掘りしている点ですね。我々がバックオフィス業務に着目したのは、バックオフィス業務用のクラウドの解約率が低かったからです。それは、いかに現場担当者が煩雑な業務に困っており、業務効率化のニーズが高いかを示していました。そこで、「経費精算」なら「経費精算」に特化した「ベストオブブリード型戦略(※)」で、現場担当者の使いやすさにこだわったクラウド開発を徹底してきました。たとえば『楽楽明細』は当初、請求書発行を主とするサービスでしたが、そこに「債権管理機能」を付加するなど、対応できる業務範囲の拡大を現在も続けています。さらに、そこに大量の「開発リソース」「営業リソース」「広告リソース」を投入し、より勝てる状況をつくるのです。
※ベストオブブリード型戦略 : 経理、販売、請求など特定業務ごとに「ベスト」の機能を備えた専門性の高いプロダクトを提供し、それらを組み合わせて顧客の業務全体を効率化する戦略
―「選択と集中」ですね。
そのとおりです。それで、ニーズが高く認知度がある良い製品を、強い営業力で販売する体制をつくり、他社の追随を許さない状況を生み出しているのです。そうした「選択と集中」は、経営者としてつねに意識しています。
「2030年問題」に備え、大きく3つの戦略を展開
―今後も業績好調の流れは続く見込みでしょうか。
2030年までは、まず問題なく業績を伸ばしていけるとみています。しかし、それ以降は日本の労働人口が減っていく「2030年問題」がやってきます。業務効率化を支援するクラウドにとって、人手不足はむしろ追い風と言えましたが、今後は市場自体が縮小するフェーズに入るため、逆に向かい風となります。そこで、いまから2030年に備えるため、新たな経営戦略に取り組んでいるところです。
―詳細を教えてください。
大きく3つの戦略を実行していきます。まずは、サービスをアップデートします。具体的には、「ベストオブブリード型戦略」から「統合型ベストオブブリード戦略」に舵を切ります。これまで、各業務領域にてベストだと言える製品を提供してきましたが、それぞれは切り離された状態でした。たとえば、顧客が当社の製品を複数導入した場合、IDや社員情報を製品ごとに入力する手間が発生していました。そこで今後は、各製品をシームレスにつなげるサービスを提供していきます。まずは、共通ID基盤『楽楽従業員ポータル』をリリースしました。これを使えば、1度ログインするだけで連携する製品をすべて利用できます。そして、業務の親和性が高い製品同士をつなげるサービスを順次リリースしていく予定です。顧客のさらなる業務効率化につながるほか、当社にとってはクロスセルによる顧客単価のアップも望めます。
―2つ目の戦略を聞かせてください。
提携およびM&Aを強化していきます。シュリンクする市場のなかでシェアを争うのは得策ではありません。そこで、これまでは自社開発が中心でしたが、お互いにシナジーが発揮できる会社と手を組み、一緒にマーケットを開拓していこうと考えています。実際、2025年11月にタレントマネジメント(※)市場で人材データプラットフォームを提供しているプラスアルファ・コンサルティングと業務提携を締結しました。これを機に、同社のタレントマネジメントシステム『タレントパレット』のOEM製品である『楽楽人事労務』の提供を2025年11月に発表しました。このように、すでに実績のある製品を活かせば、自社で開発することなく、顧客ニーズに応える製品を素早く提供できます。今後は、競争より共創で勝ち残っていきます。
※タレントマネジメント : 従業員個人の能力、スキル、経験、志向などの情報を可視化・一元管理し、それらを配置、育成、採用、評価に戦略的に活用する人材管理手法のこと
―3つ目はなんでしょう。
ASEAN展開の強化です。今後縮小していく日本にこだわるのではなく、海外の市場もとらえていく必要があると考えています。現在、ベトナムとインドネシアに子会社があるほか、クラウドを提供しているインドネシアの企業に出資していますが、そうした取り組みをさらに進める予定です。
先人から「定石」を学べば、課題は大体回避できる
―これまで、順調に経営を行ってきたという印象を受けますが、成長の壁にぶつかったことはあるのでしょうか。
特に「ぶつかった」と感じたことはなかったですね。確かに会社が成長していく過程で課題はつねに発生しますが、先回りして学習していたので回避できました。先人の知恵により、経営における課題解決の方法はすでに確立され、書籍などでまとめられています。課題のテーマに関する書籍を3冊ほど読めば、課題はだいたい解決できます。たとえば、人材が育たない場合は、今後は育成制度が必要になる。「じゃあ育成制度とはなんぞや」と、そのテーマに関する書籍を読むという具合です。
―経営に関する課題解決の定石を事前に学べば、壁にはぶつからないと。
ええ。課題解決にオリジナリティは必要ありません。たとえば、将棋を打つことは、ルールさえ知っていれば誰でもできます。しかし、勝つためには将棋の「定石」を学んで知ることが重要です。将棋をいきなり始めて、プロの棋士と勝負して勝てる天才はいないでしょう。それは経営も同じで、感覚で勝てるような天才の経営者はいません。それでいうと、そのことを知らず感覚的に経営しているベンチャー企業の経営者は意外と多いのかもしれませんね。経営者は、経営に関する課題解決の定石を絶対に学ぶべきだと強く思います。それが、会社が伸び続けるのか、あるいは挫折するかの分岐点の1つと言えるでしょう。
日本を代表する企業へ、さらなる事業拡大を目指す
―今後のビジョンを教えてください。
今期は売上高600億円を見込んでいますが、この先も長期的な視点で事業規模を拡大させていきます。今ある製品をさらに強化し、そこから生まれる収益を元手にM&Aなどを進めていけば、さらなる飛躍的な成長はつくっていけると思っています。それで、外部環境に左右されない基盤と信頼を得て、より多くの企業の成長を当社のITサービスで支援していきます。その先に、「日本を代表する企業になる」というゴールを目指します。
PROFILE
プロフィール
中村 崇則(なかむら たかのり)プロフィール
1973年、山口県生まれ。1996年に神戸大学経営学部経営学科を卒業し、日本電信電話株式会社(NTT)入社。NTT在籍中、無料メーリングリストサービスを展開する合資会社DNSを共同で設立。2000年、株式会社インフォキャストに改組。同年、インフォキャストの楽天株式会社への完全子会社化を機に、ITエンジニアの育成を事業とする株式会社アイティーブーストを設立し、代表取締役に就任。2010年、株式会社ラクスに社名変更。2015年に東証マザーズ(当時)に上場を果たす。
企業情報
| 設立 | 2000年11月 |
|---|---|
| 資本金 | 3億7,837万8,000円 |
| 売上高 | 489億円(2025年3月期:連結) |
| 従業員数 | 3,086名(2025年3月31日時点:連結) |
| 事業内容 | 「楽楽クラウド」をはじめとした企業の業務効率化を支援するクラウドサービス(SaaS)の開発・販売、IT人材事業 |
| URL | https://www.rakus.co.jp/ |
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