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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

株式会社壱番屋 創業者 宗次 德二

日本を代表するカレーチェーン「ココイチ」創業者が示す不変の経営者論

経営に人生を捧げる覚悟で、社会に貢献する会社を創ってほしい

株式会社壱番屋 創業者 宗次 德二

日本を代表するカレー専門チェーン大手で、国内1,285店、海外12ヵ国・地域に218店舗を展開する(※)壱番屋。1978年の「カレーハウスCoCo壱番屋」(以下、ココイチ)の創業から、役員退任まで24年連続で増収増益を成し遂げ、同社の確固たる礎を築いたのが宗次德二氏だ。退任から24年が経過した現在も当時の姿勢を変えず、音楽ホールの運営などを通じてその経営哲学を実践し続けている。その哲学について、同氏に詳しく聞いた。
※2026年2月末現在
※下記はベンチャー通信95号(2026年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

壱番屋で得た個人資産は、100%社会にお返しする

―宗次さんは現在、どういった活動に力を入れていますか。

 2002年に壱番屋の役員を退任してからは、NPO法人イエロー・エンジェルを通じて音楽や福祉などさまざまな支援活動を行ったり、クラシック音楽専門の「宗次ホール」を運営したりしています。ホールは年300回近くコンサートを開催しており、その稼働回数はおそらく日本一レベルだと思います。クラシック業界は厳しく、このホールも赤字が続いている状態ではありますが、演奏家の方々に少しでも多くの機会を提供したいという思いで、20年近く地道に続けています。私自身の生活スタイルや姿勢は経営の第一線にいた頃とまったく変わっておらず、いまも毎日、朝の3時55分までに起きて、誰よりも早く活動を始めます。ホール前の掃除をしたり、花の手入れをしたり、入り口に立ってお客様の送迎をしたりしています。自分が休みたいという欲求はなく、こうした活動を毎日コツコツと積み上げることが心から楽しいのです。

―そうした活動の根底にはどういった思いがあるのですか。

 引退して数日後、妻と一緒に預金通帳を見ていたときに、妻が「このお金は自分たちが使うお金じゃないね。社会からの一時預かりにしよう」と言ったのです。その言葉がいまの活動の原点になっています。壱番屋の経営でいただいた自分の個人資産は、100%社会にお返ししようと決意したのです。そこには、お客様や地域社会に対する深い感謝の思いが根底にあります。宗次ホールの設立に関しても、最初から緻密な計画があったわけではありません。たまたま土地が買えて、専門家の先生から「立派なホールができますよ」とアドバイスをいただき、急遽建設が決まったのです。さまざまな経緯が重なってクラシックホールをやることになりましたが、現在では多くの演奏家の方々から「天井が高くて音響がすばらしい」と高く評価していただけるようになりました。ココイチ時代もそうでしたが、私は人生や経営はすべて、「行き当たりばったり」で良いと思っています。

―しかし、経営には計画性が必要ではありませんか。

 これだけ社会情勢が変化し、いつ災害が起きるかわからず、競合の動きも予測できない激動の時代において、中長期計画というものは所詮、絵に描いた餅にすぎません。それよりも、目の前の目標必達にこだわるべきなのです。そして、明日の成功の種や経営のヒントは、すべて現場に落ちています。お客様とのやり取りのなかにしか、答えはありません。そんな考え方を、私は「行き当たりばったりシステム」と呼んでいます。私が25歳で初めて喫茶店を開業したとき、名古屋ではコーヒーにトーストやゆで卵をつけるモーニングサービスが当たり前でした。周囲の銀行や取引先からは「モーニングを出さない店なんて一軒もない」と忠告されましたが、私は安易にトーストやゆで卵をつけるのではなく、心を込めた接客と最高の笑顔で勝負すると決めていたのです。競合の動きに合わせるのではなく、どこまでも目の前のお客様と真剣に向き合うこと。その姿勢こそが大切です。

―宗次さんは徹底した現場主義で知られていますね。

 私自身は、俗に言うリーダーシップやカリスマ性といった特別な経営能力は持ち合わせていないと自覚していました。だからこそ、ひたすら「超現場主義」を徹底し、自分が誰よりも一生懸命に、真面目に働き、背中で教えようと決めていたのです。経営者が現場の最前線に立ち続けることで、ココイチは役員退任まで24年連続で増収増益を続けることができました。周りに合わせて容易に値下げをしないため、粗利益率はつねに一定に保たれ、売上が伸びれば利益も伴って増えていくという好循環ができました。増収増益を維持できれば、会社としての蓄えも厚くなり、社員への待遇改善や教育といったすべての面がうまくいきます。私はそのために、経営者の集まりや異業種交流会には参加せず、夜の飲み歩きといった友人付き合いも一切しませんでした。時間とお金と体力のすべてを、現場の店舗と社員のために注ぎ込みたかったのです。

黒字経営の維持こそ、経営者の根源的な使命

―なによりも利益を出すことが大事だと。

 耳が痛いと言う人もいるかもしれませんが、経営者がなによりも目指すべきは黒字経営の維持です。利益をあげて適正に規模を拡大していかなければ、競争に勝つことはできませんし、非常時の際にも持ちこたえられません。テレビのグルメ番組などで「うちは儲からなくていいんです。赤字でも常連さんのために自転車操業でやっています」と美談のように語る店主が取り上げられることがありますが、私は経営としてそれはあるべき姿ではないと思います。しっかりと適正な利益を出し、納税額を増やしていく努力をすること。そして成長し、発展することで、社員や取引先と利益を分かち合うこと。それこそが経営者の最大の使命であり、納税すらまともにできないようでは経営とは言えません。

―起業や経営をめぐる環境の変化をどのように見ていますか。

 ITの発達によって、設備資金も固定費も少なくスタートできるようになり、起業のハードルは劇的に下がったと思います。確かに社会の変革は凄まじいものがありますが、黒字経営を続けていくという経営者の根源的な使命や、仕事に向き合う基本的な姿勢は決して変わりません。世間では働き方改革が叫ばれていますが、中小零細企業の経営者は別です。安易にそれに流されてしまっては、黒字経営にはつながらないでしょう。私は起業を考えている人から相談を受けると、まずは「起業なんてやめなさい。不幸になりますよ」と伝えています。裏付けのない自信だけで成功できるほど、経営は甘くありません。しかし、どんなに厳しい生活が待ち受けていようとも絶対に乗り越えてみせるという本気の情熱があるならば、「明日にでもやりなさい」と背中を押しています。

経営はすべて自己責任。まずは自ら打ち手を講じよ

―強い覚悟が必要ということですね。

 経営は行き当たりばったりで良いと言いましたが、それは決して手を抜くということではありません。やるからには、時間を忘れて没頭し、誘惑を断ち切って一生懸命にやらなければならないのです。私自身、恵まれていてラッキーの連続だったとはいえ、妻と二人ともパンの耳が昼食だった時期もありました。もう一度同じことをやれと言われても絶対にできないほど、社業にすべてを注ぎ込んできました。成功のためには、自分の人生そのものを経営に捧げるという強い覚悟が必要です。そして、誠実であること、真面目であること、健康であることという徹底した自己規律が求められます。昨今は、最低賃金の引き上げや物価高に対して文句を言う経営者もいますが、それはありえません。経営はすべて自己責任です。環境の変化に対して、文句を言う前に自ら手を打つのが真の経営者です。

―ベンチャー企業の若手経営者にメッセージをお願いします。

 私がお話ししたようなストイックな考え方は、いまどきの経営者や起業を目指す若い方々の感覚とは、相当なずれがあるかもしれません。それでも私は、この姿勢が一番大切であると自信を持って言うことができます。起業家は、まず自分を頼ってきてくれた社員や取引先の人たちを幸せにしなければなりません。経営者が自分自身の欲求を満たしたり、私欲に走ったりすることは二の次にすべきです。本気で経営に向き合い、しっかりと利益をあげて、社会的な存在意義を示せる会社を一つでも多く創ってほしいと心から願っています。正当に利益を出し、困っている人に振り向けてあげることのできる企業が増えることで、思いやりのある、やさしい社会がつくられていくはずです。若い世代のみなさんが、強い覚悟を持って社会に貢献する本物の経営者へと成長されることを期待しています。
PROFILE プロフィール
宗次 德二(むねつぐ とくじ)プロフィール
1948年、石川県生まれ。不動産会社での勤務などを経て、1974年、妻の直美氏と喫茶バッカスを開業。1978年、「カレーハウスCoCo壱番屋」を創業。1982年、株式会社壱番屋を設立し、代表取締役社長に就任。1998年、株式会社壱番屋の代表取締役会長に就任。2002年に株式会社壱番屋の役員を退任し、2003年にNPO法人イエロー・エンジェルを設立、理事長に就任。2007年、名古屋市にクラシック専用の音楽ホール「宗次ホール」をオープンし、代表に就任。
企業情報
設立 1982年7月
資本金 15億327万円
売上高 655億1,800万円(2026年2月期)
従業員数 1,298名(2026年2月末現在:連結)
事業内容 カレー専門店「カレーハウスCoCo壱番屋」の店舗運営およびフランチャイズ展開、その他の飲食事業など
URL https://www.ichibanya.co.jp/comp/
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