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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

MASTER key株式会社 代表取締役 / CEO 中野 仁貴

採用代行で飛躍したHRベンチャー代表が打ち出す次なる事業構想

「RPO×AX」の相乗効果で企業の価値向上を促し、「願い」が叶う社会を創る

MASTER key株式会社 代表取締役 / CEO 中野 仁貴

RPO(採用代行)事業を主軸に急成長を遂げ、今期売上高9億円超を見込むHRベンチャーのMASTER key。代表の中野氏は「採用は企業価値向上のための手段にすぎない」とし、RPOだけでなく、AIを活用したAX支援を融合した事業を次なる主軸に見すえている。さらに、事業パートナーとの協働で支援領域を拡大させ、企業の根本課題を解決する「企業価値向上支援」を打ち出した。この事業構想について、同氏に話を聞いた。
※下記はベンチャー通信95号(2026年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
MASTER key株式会社
代表取締役 / CEO
中野 仁貴なかの まさき
1992年、兵庫県生まれ。京都産業大学を卒業後、カンボジアにて起業。その後、ベトナム人材の受け入れ支援・貿易業を行うジェイビス株式会社に入社。Indeed Japan株式会社での関西拠点立ち上げを経て、2019年にMASTER key株式会社を設立。現在に至る。

人件費はコストではなく、無形資産としてとらえるべき

―事業内容を教えてください。

 RPOや人材紹介、そして近年はDXやAX支援にも乗り出しています。なかでも主軸であるRPO事業では、単なる応募者集めにとどまらず、採用プロセスの全体最適化を一気通貫で支援しています。たとえば、応募は多数あるのに面接での離脱率が高い企業があるとします。その原因を探ると、じつはスマートフォンでの閲覧に対応していないホームページであったり、Web上の口コミ評価が著しく低かったりすることが往々にしてあります。また、応募から面接設定までのレスポンスが遅すぎることも大きな要因です。これらは一見、採用活動とは無関係に思えますが、じつは求職者が離脱する大きな障害になっています。

―どういうことでしょう。

 大半の求職者は「求人広告を検索し、企業のホームページを閲覧して理念や事業内容に共感したうえで、応募から面接対応の質やスピードも考慮し、入社を決める」というプロセスを経ます。つまり、ホームページの不備や面接設定までの遅さは、入社に至るまでのプロセスを上流部分で堰き止めてしまっているのです。当社は、こうした採用活動における阻害要因を見つけ出し、プロセス全体を再整備することで、企業の採用活動を成功に導いています。現在は全国規模で事業を展開し、今期の売上高は前期の約185%となる9億円を超える見込みです。このRPO事業によって会社は日進月歩の成長を遂げてきましたが、採用だけでなく、企業のより根本的な課題を解決する必要性を感じています。

―企業の根本的な課題とは、どのようなものでしょうか。

 安易に人材を採用しても解決につながらないような課題を抱えている企業が多いと感じています。RPO事業で採用活動の深部に入り込み、企業の内部構造を紐解いていくと、「この職種の募集は、その企業に必要なのか」という疑問に直面することが増えました。この疑問を突き詰めていくと、採用は決して目的ではなく、「企業の課題を解決する一つの手段」でしかないと気づいたのです。では、ここでいう目的とはなにか。それは、経営の根幹である損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)から現状では見えていない課題を紐解き、財務状況の改善や社内体制の整備といった手段が必要だという考えに至りました。

―P/LやB/Sから、どのような課題がわかるのでしょう。

 一般的に企業は、社員にかかる人件費をP/L上でコストとしてみなします。ですが、見方を変えて、社員をB/S上での「無形固定資産」としてみなせば、そこから新たな利益を生み出すことを考えられます。つまり、利益源泉をつくる知財を生み出すのが社員だとすると、社員は無形固定資産になるという考え方です。また、雇用中の人件費をコストとして計上しているにもかかわらず、多くの経営者は「離職コスト」を見逃しています。この「離職コスト」は、一人を採用するまでにかかる費用に加え、それまでに支給した福利厚生費や人材教育にかけた費用なども上乗せされるため、離職率が高い企業は利益が圧迫され、経営を阻害する強い要因になっています。仮に現状で黒字であっても、実態は赤字だったということも少なくありません。こうした潜在的な課題を解決するには、採用だけではない新たな解決策が必要です。

AX戦略×人材戦略が、これからの経営に必須となる

―どのような解決策が考えられますか。

 私は「AX」にその活路を見出しています。すでに多くの企業でAI活用は進められていますが、その多くは、いまだ議事録や資料の作成といった初歩的な活用にとどまっています。確かにそれでも多少の効率化は期待できますが、私は「人がやらなくてもいい業務」は、そのほとんどがAIで代用できると考えています。たとえば、事務職の業務において離職と採用が繰り返され、つねに求人広告を出し続けている企業があるとします。その累積コストは非常に過大です。しかし、この事務職が行っている業務をAIで自動化できれば、最小限の人材で業務を回すことができ、そもそも人材を採用する必要がなくなります。そうすれば、求人広告や採用にかかるコストを削減でき、事業に投資する費用を捻出できるのです。つまり、ポイントは「人がやるべき業務」と「人がやらなくてもいい業務」を区分けし、後者についてはAIで仕組み化することにあります。その効果については、すでに当社で実証済みであり、他社に提供できるほどのノウハウを蓄積しています。

―どのようにして、効果を実証してきたのでしょうか。

 私が大切にしている哲学の一つに「インサイドアウト」の思想があります。これは、まず自社(インサイド)で実践し、確かな成果が出たノウハウを顧客(アウトサイド)に提供するという姿勢です。私は生成AIが登場してすぐに「これは産業革命が起こる」と直感し、専門の部署を立ち上げて、AI活用による業務の仕組み化を社内で実践してきました。一事例に過ぎませんが、RPO事業ではすぐに業務時間を月平均で約150時間削減できました。こうした自らの成功体験を包み隠さず顧客に提供することで、説得力のある本質的な支援が可能になります。このインサイドアウトの思想の根底には、「社員満足度の先にこそ、真の顧客満足度がある」という強い信念があります。自社の組織が強固であって初めて、顧客に対して価値あるサービスを提供できるのだと、私は確信しています。

離職率5%以下の秘訣は「ええやつ採用」にあり

―社員満足度を高めるため、どのような取り組みをしていますか。

 私たちは、社員一人ひとりが描く自己実現や夢と、MASTER keyが目指すビジョンが重なり合う部分を見つけ、ともに成長できる環境を大切にしています。ある社員は「愛されおばあちゃんになる」というミッションを掲げ、またある社員は「韓国に引っ越す」ことを目標にしています。ほとんど仕事に関係ありませんね(笑)。しかし、こうした個人の「願い」の実現と会社の理念との統合こそが、働きたいという意欲を向上させるのだと信じています。こうして意欲を高めることで、社員一人ひとりが「なんのために働くのか」という目的が明確になり、内発的な動機づけにつながるのです。実際、当社ではこうした取り組みを続けた結果、離職率を5%未満に抑えられており、いつも明るくポジティブな雰囲気を維持できています。

―確かに、先ほどから社員のみなさんが中野代表の顔が施されたうちわを振っていて、まるでアイドルのようです。

 いつもこんな感じです(笑)。しかし、この雰囲気のなか、仕事においてもメンバーが互いに支え合いながら挑戦できる強固なチームワークが生まれていると強く感じています。それもこれも採用基準として、業務経験やスキルよりも、感謝の心や素直さを持つ「ええやつ」を絶対条件にしていることが大きな要因だと考えています。この人間性を重視した採用により、社内の派閥争いや人間関係のトラブルといった、組織にとって無駄な心理的コストを排除できていると考えています。結果として、極めて誠実で、優秀なメンバーばかりがそろっています。

―このような会社をつくろうと考えたのはなぜでしょう。

 それは「MASTER key」という社名の由来に関連しています。一つは、マスターキー(親鍵)がすべての部屋の鍵を開けられるという意味があります。これは、世の中の社会課題を鍵穴に見立て、あらゆる課題を当社に依頼いただくことでトータルに解決できる「多事業展開」という意味を込めています。もう一つは、「MASTER」と「key」を分けてとらえる考え方です。社員一人ひとりが「自分の人生の主導権を握り、自分の人生のマスター(主)であってほしい」という願いを込めています。ただし、それ単体では成立せず、「顧客のキー(鍵・重要人物)となって初めて自分の人生のマスターになれる」という視点も重視しています。こうした理念のもと、当社で培った人材採用・定着の手法と、AXのノウハウを企業に提供し、その相乗効果で世の中の企業の価値を向上していくことが、私の新たな使命だと心に決めています。

日本経済を支える経営者を、一人でも多く輩出したい

―今後の展望を教えてください。

 まずは、当社が新たに打ち出したRPOとAXによる支援を通じて、「企業価値向上」の取り組みを加速していきます。さらに今後は、当社にはないノウハウを持つ事業パートナーを増やし、「AIO対策(※)」などといった専門領域の支援も強化していきます。この事業を通じて、将来的には日本経済を力強く支える経営者を、自社から、そして顧客企業のなかから一人でも多く輩出していくことが、私の「願い」です。そのためにも、まずはインサイドアウトの精神に則り、当社からホールディングス化を目指していきます。そして、当社のメンバーならそれを叶えられると、私は信じています。
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