敗戦直後の神戸にひとり降り立った鬼塚喜八郎。非行に走る少年、売春婦になる少女。そんな光景を見た鬼塚は、自分の一生を「日本の青少年の育成」に捧げることを決意する。世界的メーカー「アシックス」の創業者である鬼塚喜八郎は、起業の極意は「私心なき素直な心」だと言う。そして、取材の当日。85歳を過ぎた鬼塚に、起業家の気迫はいまだ健在だった。
※下記はベンチャー通信10号(2004年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
―敗戦直後の神戸に出てきて、どんなことを感じたんですか。
鬼塚:当時の神戸は、国際都市だった。無秩序に多くの外国人が入ってきて、街としては荒廃していた。治安も悪かった。空襲で家を焼かれた子供たちが、闇市場に流れ込んで、非行に走っていく。アメリカの進駐軍も進駐してきて、日本の少女がパンパンという売春婦になって、彼らの手先になっていましたよ。ひどい有様でした。僕は、そんな神戸を見て愕然としたんです。なんということだ。戦死していった戦友たちは、何のために死んでいったんだと。平和な日本をつくるために、子供たちを守るために、死んでいったはずなのに、なんてざまだと。
そこで僕は決心したんです。日本の将来を担っていく日本の青少年のために一生を尽くすぞと。青少年を立派に育てて、健全な国民にしていくことが、自分の使命だと考えるようになった。
―青少年の健全な育成のために、なぜスポーツが大事だと考えたんですか。
鬼塚:スポーツの重要さは、そもそも堀という戦友に教えてもらったんです。教育の原点は、「健全なる身体に健全なる精神が宿る」ということだと。心身ともにバランスよく育ってはじめて立派な人格形成ができる。そしてスポーツには、スポーツマンシップがあるということを。
1つ目に、スポーツにはルールがある。ルールを守らなければ、スポーツはできない。スポーツを通して、ルールを守る大切さを知る。ルールを守るのは、人間のいちばん基本的なことです。そして、2つ目に礼儀。スポーツマンは礼儀を重んじる。やはり人間は、一人では生きていけない。人と人との交わりの中で成長していく。相手に礼儀を尽くして、相手に認めてもらって、初めて相手が心を開いてくれる。
3つ目に、スポーツマンはベストを尽くして闘う。ベストを尽くすとは、積極的に情熱を持って取り組むこと。それにより新しい技術を習得していく。時には負けることがあっても、ベストを尽くして闘ったら、負けても悔いは残らない。逆に今度は絶対に勝ってやるぞと、ハングリー精神が沸いてくるんです。そして、4つ目にチームワーク。実はこれがいちばん大事です。チームワークというのは、時には自分が犠牲になることもある。自分がみんなの踏み台になってチームを勝利に導くことだってある。
むかし読売巨人軍に川上という有名な監督がいたんです。その川上監督に、いちど会って話を聞いたことがあった。なぜ巨人軍を強いチームに育てることができたのかと。その時に監督の口から出たのが、「チームワークの大切さ」だったんです。野球には、優秀な投手や優秀なバッターが必要だ。でも、それだけじゃ、勝てないんだと。みんながチームワークを組んで、はじめてその力が発揮される。そんな話を聞いたんです。
また、こんな話も聞きました。4番バッターにバントを指示したことがあった。しかし、彼は監督の指示を無視して、バントをせずに三振してしまった。その試合は結果として負けた。その晩に川上監督は彼を呼んだんです。「お前は野球が分かっていない。プロじゃない!野球というのは、みんながチームワークを組んで初めて勝てるんだ。お前は明日から二軍へ行け!」。そうやって彼を諭した。
でも彼は、「くそっ!監督は俺の実力を知らない!」とブツブツと文句を言った。それを聞いたコーチが、彼のもとに行って言ったんです。「おい、お前はなんて奴だ!さっき俺が監督のところに行ったら、監督が泣いていたぞ。なんであんなに素晴らしい能力を持った選手が、チームワークの大切さを分かってくれないんだ。あんなに素晴らしい能力を持っていても、チームの一員には加えられない。本当にもったいないと。残念でしょうがないと。そう言って監督が泣いていたぞ」。それを聞いた彼は、凍りついた。「俺が間違えていた。俺が悪かったんだ」と。そして、彼は川上監督のところに行って謝り、その次の日から一軍に復帰したんです。そんな話を聞きました。いい話でしょ。
そして5つ目は、スポーツマンというのは、いつも自分と向き合って、自分自身を磨き続ける。また目標を立てて、その目標に向かって、練習を重ねる。スポーツとは、ただ体を動かすだけじゃなくて、精神鍛錬でもあるんです。
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