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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

BROTHER株式会社 代表取締役 藏脇 健太 

地方発のベンチャー企業が価値提供する「メタバース」「XR」「web3」の組み合わせとは

先端ITを複合的に活用し、地域課題の解決に新たな道筋を創る

BROTHER株式会社 代表取締役 藏脇 健太 

少子高齢化や都市への一極集中といった社会課題に悩みつつも、効果的な対策を打てていない地方自治体は多い。そうしたなか、先端ITによって地域課題の解決に取り組んでいるベンチャー企業がある。鹿児島県を拠点とするBROTHERだ。「先端ITの効果的な活用によって地域の未来に新たな可能性を見出したい」と意気込む代表の藏脇氏は、元柔道整復師という異色の経歴を持つ。なぜ、IT業界に転身し、地域の課題を解決しようと考えたのか。同氏に、取り組みの詳細を含めて聞いた。

自治体や学校を巻き込んだプロジェクトなどを実施

―事業内容を教えてください。

 「メタバース」「XR」「web3」の3つの先端ITを活用して、地域の社会課題を解決するための支援を行っています。まず、インターネット上に3次元の仮想空間を構築するメタバースと、リアルとバーチャルを融合させた空間をつくり出すXRを組み合わせることで、顧客のニーズに合った「3次元空間」を制作・提供ができます。そして、web3のブロックチェーンの技術基盤を使えば、コンテンツの提供やデジタルデータの販売、送金などが個人間で直接やり取りができるようになります。この3つを複合的に活用し、これまでの地域にはなかったアプローチで、課題解決の支援を行っているのです。こうした3つの技術をトータルに支援しているのは、地方発ベンチャー企業でも少ないと思います。

―具体的に、どのような支援を行っているのですか。

 たとえば、「『伊佐米』をつくっている伊佐市(鹿児島県)の新規就農者を増やしたい」という地域支援サービスを提供している会社とタッグを組んで、『13verse(イサバース)』というプロジェクトを昨年から開始しています。これは、仮想空間を活用して伊佐市の農業体験ができるコンテンツの提供などを通じ、同市の関係人口を増やす取り組みです。プロジェクトの一環として、自治体の伊佐市も巻き込み、そのコンテンツを「東京ゲームショウ2024」に出展したところ、非常に好評でした。そこからさらに発展し、「大阪・関西万博」に、5月末よりコンテンツを出展することが決定しました。今回は伊佐市に加え、地元内外の高校と連携協定を得ることができ、目下のところ、コンテンツをさらに磨き上げているところです。ゆくゆくはweb3と連動して、農家がユーザーに直接米を販売できる仕組みも連携させていければと考えています。

 また、鹿児島県観光連盟を支援した事例もあります。

―詳しく教えてください。

 同観光連盟からの依頼内容は、「インバウンドに向けて、『旅前』に観光体験をしてもらうことで鹿児島県を訴求したい」とのことでした。このときは、4泊5日のパッケージツアーの観光名所や宿泊施設を全行程撮影し、VRで360度見られるコンテンツを作成しました。これなら言葉が伝わらなくても、事前に旅行を「没入体験」できます。タイ、シンガポール、台湾、インドネシア、香港の国・地域の展示会にて活用してもらったところ、海外の方々からの反応もよく、口頭での説明が不要なほどの臨場感で地域の魅力をアピールできることから、展示会に帯同する観光連盟のスタッフ数も減らせ、コスト削減にもつながったそうです。

 そのほか、鹿児島県で毎年開催される音楽フェスにて、「地方の音楽フェスをもっと新しいチャレンジで県外に発信していきたい」という実行委員会のニーズに応え、ネット上でフェス会場をそのまま再現し、現地に行かなくてもアバターでフェスに参加したり、グッズが購入できる仕組みをつくったりもしました。この取り組みは、テレビでも紹介されましたね。

VRによる施術の可能性に、衝撃を受けたのがきっかけ

―なぜ、ITを活用して地域の課題解決を支援するサービスを提供しているのですか。

 もともと私自身が、VRに興味をもったのがきっかけです。じつは、私の前職は柔道整復師で、整骨院勤務やフリーのトレーナーとして、地元の鹿児島で施術を行っていました。治療が必要だと判断した患者さまを病院に紹介する場合もあるのですが、県内に医者が不足しているため、県外でなければ適切なサービスが受けられないケースがあり、そのことにフラストレーションを感じていました。そんなとき、慢性疼痛に悩んでいる人がVRを活用した施術を受けることで痛みが軽減できたという論文を読み、衝撃を受けたのです。「これを使えばもっと人の役に立てるのでは」と、その論文が発表される学会に参加するなど、いろいろ調べていきました。その過程でXRやweb3の存在も知り、「これら先端ITを複合的に活用すれば、施術だけに限らず少子高齢化や都市への一極集中などにともなう、地域が持つあらゆる課題解決の新たな筋道を創れるのでは」という発想にいたったのです。首都圏では、こうした先端ITを活用した取り組みは進んでいますが、鹿児島を含めた地域ではほとんど進んでいません。「それならば私がやろう」と決意したのです。

―未経験からそうした技術を学んだのですか。

 はい。この領域は日進月歩で技術が進む一方で、そうした技術を学べる参考書のようなものはありませんでした。そこで、SNSで発信されている最新の英語の関連情報を翻訳して学習したり、首都圏に拠点を持つIT企業に入社し、メタバースの新規事業開発に携わったりしました。そして、鹿児島にてBROTHERを立ち上げたのです。地元には、メタバースなどを扱う会社は見当たらず、「おもしろい仕事をしている会社がある」と口コミで広がり、ありがたいことにいまの実績につながっているのです。首都圏ではなく、「鹿児島発」という点こそが現状のブランディングにつながっています。

国内外で連携して、新たな経済圏をつくりたい

―今後のビジョンを教えてください。

 鹿児島県に限らず、社会課題を抱えている地域は国内のいたるところにあります。そうした地域を、たとえば、同じくITによって地域課題を解決しようとしているベンチャー企業と提携することによって、支援していきたいと考えています。特に業種を絞り込んではいないのですが、自治体とスマート農業に取り組んでいるベンチャー企業などとは相性がいいと思いますね。そして、ゆくゆくは海外に進出して、その地域の課題解決にも貢献していき、国内とも連携して新たな経済圏をつくっていければと考えています。そうした想いに共感してくれるベンチャー企業があれば、ぜひ一緒にやっていきたいですね。
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