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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野 慶久

設立わずか9年で東証一部に上場した企業のトップが語るベンチャー観

大手企業を逆転するチャンスが到来

サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野 慶久

※下記はベンチャー通信49号(2012年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

―その後、御社は2000年に東証マザーズ、2002年に東証二部、そして2006年に東証一部に上場を果たしました。まさに順調でしたね。

青野:いえいえ! 決してそんなことはありませんよ。これまで、企業としてさまざまな壁にぶつかってきました。まず、グループウェアは何回も買い換えるものではないので、インターネットのみを通じてソフトを販売するというシンプルなビジネスモデルに限界がきました。そこで、製品ラインアップを増やすとともに、販売パートナーを募って販路を作るなど、新たな事業展開を行いました。

また、私が社長になった2005年の頃、一気に拡大路線を図って積極的にM&Aを行ったことが裏目に出ました。数年で売上29億円から120億円に拡大したのですが、いくつかの企業が赤字を出してしまい、利益は逆にダウンするという状態に。そこで自分たちが目の届く範囲まで事業を絞ることに決め、少しずつ会社を売却し、スリム化を図っていきました。

―ほかに大きな転機はありましたか?

青野:会社が急成長を狙うイケイケのベンチャー体質から、安定した成長が望める企業へと転換したことです。そもそも当社が販売しているソフトは、常にバージョンアップを図っていかなければならない商品。顧客に安定した商品を販売していくためには、勝手知った開発者や営業担当者にできるだけ長く働いてほしいというのが本音です。しかし、2005年頃の社内体制はまったくの真逆でした。たとえばストックオプション制度を導入していましたが、株価が上昇するとさっさと売却して利益を得て、辞めてしまう可能性がある。さらに、当時は社内で競わせるような相対評価制度を敷いていたので、評価されない社員が辞めていくという悪循環を生み出していました。これでは、社員が長く勤められるわけがない。

そこで、一攫千金の性質を持つストックオプション制度から、長く持っていると無理のない資産形成が望める従業員持株会制度へ。さらに、相対評価から絶対評価へ変更しました。この結果、離職率は低下しましたが、設立当初のベンチャー気質が気に入っていた社員は会社を去ることになりました。

―社内体制を変更する際に、育児休暇制度も見直しましたね。

青野:ちょうどその頃、結婚・出産を迎える社員がチラホラ出てきました。そこで、育児休暇を最大6年間取れる制度を整えたんです。これもモノづくりを行うメーカーとして、長く社員に働いてもらうための方策の一環でした。

―2010年、社長の青野さん自ら2週間の育児休暇を取得し、話題を集めました。

青野:じつは、今も育児休暇を取得していて、毎週水曜日は出勤していないんです。最近は、スマートフォンでも会議に参加できますからね。ただ、あくまでも育児休暇であって在宅勤務ではありませんから、なるべく育児に専念するようにしています。仕事の誘惑に打ち勝つのは難しいですが(笑)。

―青野さんは、ハードワーカー体質なんですね。

青野:社員には、「休んでいいよ」、「早く帰っていいよ」と言いつつも、私自身は「職場で死にたい」くらいの考えを持っていましたからね(笑)。これではダメだと、自分から積極的に育児休暇を取るようにしたのですが、私のような偏った思考が今の日本の停滞を生み出しているのではと考えているんです。仕事を優先してバリバリ働くか、私生活も大事にする働き方を選択するか。どちらが良くてどちらが悪いかは、人それぞれだと思います。ただ、世の中の人全員がガツガツ働くと、子どもはどんどん減ってしまうでしょう。自分が子育てを経験してつくづく実感したのですが、育児を行う人がいるから次の世代が育つ。それは、次世代の市場を形成することにつながるんですよね。

これからの時代は、育児を優先するような会社が強いんだよというのを見せたいのです。実際にこうした動きは、当社に限ったことではありません。以前、H&Mの日本法人の社長が1年の育児休暇を取得したことも記憶に新しいですしね。こうしたワークスタイルの多様化は、価値観の多様化につながります。そんな、新しい価値を生み出す会社を創っていきたいんです。
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