INTERVIEW 業界別起業家インタビュー
若気の至りこそ最大の武器
ホリプロ 創業者 堀 威夫
※下記はベンチャー通信8号(2003年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
―つまり会った相手に好印象を持たれるような人が成功するということですか。
堀:少し違う。好印象を与えるというとニュアンスが違ってくる。好印象を与えることだけを考えてしまうと、間違えて相手にへつらうことに繋がる恐れがあります。いい顔をするというのは、もっと内面的なもの。へつらったり、気に入ってもらうためにするのではなく、人生をいかに生きるかの哲学を持った人が作る顔のことです。自分のことを評価して欲しいとか、「ここは得意なところだから分かって下さいよ」って言っているようではダメ。自分に忠実に生きて、ウソが全くない。そんな生き方をして初めていい顔が作れる。 アメリカから輸入されたファーストフードのお店では、従業員の笑顔までマニュアルで決めている会社もあるみたいですが、それは違うと思う。やっぱりハートから出たものじゃないと本物じゃない。最初はうまくいっても、しばらくしたらお客さんに見破られますよ。
―話は変わりますが、もし堀さんが今の時代の大学生だったら何をしていると思いますか。
堀:たぶん懲りずに、また音楽をやっていると思いますよ。でもその後、今みたいに芸能プロダクションを興していたかというと、それは違うと思う。私が芸能プロを興せたのは、その時代の流れに乗ったから。新しい媒体であるテレビが登場して、日本の国力も右肩上がりで上昇してた。私はその上昇気流に運良く乗ることができたんです。 また当時の日本は、まだ戦後間もない時期で社会的にも熟成しておらず、流れる時間もおおらかだった。だから一度失敗しても、復活できるだけの時間的な余裕があったんです。もし今、東洋企画を立ち上げても、うまくいくはずがない。 それと当時のビジネスのヒントは、全てアメリカにあったんです。イトーヨーカ堂やダイエーの中内功さんにしても、みんなそう。新しいビジネスのヒントは、アメリカで見付けてきた。スーパーマーケットやファーストフードなどとアメリカで出会って、衝撃を受けてみんな日本に帰って来た。私自身もアメリカに何度か行って、いくたびにヒントを得て日本に帰って来た。でも今は、アメリカの情報が即時に日本に届く時代。アメリカからのヒントだけでは、ビジネスは成功しません。
―今の時代でビジネスを興そうとするのは無謀ですか。
堀:いや、そうとも言い切れません。みなさんは若いでしょ。若さが武器になります。「若気の至り」という言葉があります。だいたい非常にネガティブに使われることが多い言葉です。でもこの「若気の至り」こそ、もの凄いエネルギーになるんです。若さゆえの破天荒さ。あまり考えずに行動する。年を取れば、それなりに自分の中に経験則ができて、色々と考えてしまいます。そうすれば無茶な行動はできなくなる。残念ながら、今の私には「若気の至り」は、もうできません。でも僕も若い頃に「若気の至り」を数多くして、そのお陰で今のホリプロがあります。
―堀さんのした「若気の至り」って、どんなことですか。
堀:たくさんしましたよ(笑)。象徴的なのは、ザ・スパイダースというグループを売り出した時。はじめはちっとも売れなかった。だから一発逆転を賭けて、アメリカでデビューさせようと思ったんです。当時のアメリカでは、日本がちょっとしたブームだった。その流れに乗って、ヒットさせようと。もしヒットしなくても、アメリカでレコードデビューしたって言えば、日本でのセールスツールになるなと思って。それで、まだ日本航空も国際線すら飛ばしていない時代にアメリカに飛んだ。西海岸で3箇所くらいプロモーションのコンサートを開いて、シングルレコードも出した。でも、それが見事に失敗。向こうの人間も、「なんで日本で一番になっていない奴がアメリカに来るんだ」って。「日本で一番になってから、アメリカに来るのが当然だろう」ってね。まぁ、言われてみれば、その通りなんだけど。でもこっちは、「日本で一番になれねぇから、アメリカに来たんだよ」っていうのが正直なところ(笑)。アメリカでは見事に大失敗しましたが、でもそこで懲りなかったのが若気の至り(笑)。じゃあ、今度はグループじゃなくてソロで行こうと。ソロだと経費もかからず、安く済む。当時アメリカ人男性の願望として、日本人の妻を持って、手作りの中華料理を毎日食うとかいうのがあった。なぜ和食じゃなくて、中華なんだって感じですが(笑)。
だから、そのアメリカ独身男性の夢を意識して、今度は日本女性をソロでデビューさせようと。それで日本に帰って来た。日本に帰ってしばらくすると、大阪支社長から電話が入ったんです。「面白い新人がいる。見に来てほしい」と。それで大阪の曽根崎のゴーゴー喫茶に行くと、大勢の客がダンスに酔いしれていた。でもその背の高い短髪の少女が歌い出すと、客は踊りをやめて聴き入った。馬力ある歌声に、僕の背筋もゾクゾクしましたね。これが和田アキ子との出会いです。この子を育てて、アメリカでソロデビューさせよう。そう思いました。アッコは柔道の経験もあったので、アメリカの男性にミステリアスに映るんじゃないか。そんな期待もあって、「君なら世界に通じる」と言ってスカウトした。でも周囲には反対意見も多かった。「大柄な女性はスターになれない」、そんなジンクスが当時あったんです。とはいえ、そんなことは気にせず、東京に連れて来て英会話学校に通わせて渡米の準備をした。しかし結局、アッコは日本デビューで売れちゃったから、アメリカには連れて行かなかった。こんなことは、やっぱり若かったからできたこと。あまり考えずに行動して、たまたまそれが意図していた結果とは違って、しかもより良い結果を生んだ。今じゃ、こんなことは到底できない。
だから、そのアメリカ独身男性の夢を意識して、今度は日本女性をソロでデビューさせようと。それで日本に帰って来た。日本に帰ってしばらくすると、大阪支社長から電話が入ったんです。「面白い新人がいる。見に来てほしい」と。それで大阪の曽根崎のゴーゴー喫茶に行くと、大勢の客がダンスに酔いしれていた。でもその背の高い短髪の少女が歌い出すと、客は踊りをやめて聴き入った。馬力ある歌声に、僕の背筋もゾクゾクしましたね。これが和田アキ子との出会いです。この子を育てて、アメリカでソロデビューさせよう。そう思いました。アッコは柔道の経験もあったので、アメリカの男性にミステリアスに映るんじゃないか。そんな期待もあって、「君なら世界に通じる」と言ってスカウトした。でも周囲には反対意見も多かった。「大柄な女性はスターになれない」、そんなジンクスが当時あったんです。とはいえ、そんなことは気にせず、東京に連れて来て英会話学校に通わせて渡米の準備をした。しかし結局、アッコは日本デビューで売れちゃったから、アメリカには連れて行かなかった。こんなことは、やっぱり若かったからできたこと。あまり考えずに行動して、たまたまそれが意図していた結果とは違って、しかもより良い結果を生んだ。今じゃ、こんなことは到底できない。
―他に「若気の至り」はなにかありますか。
堀:ホリプロのタレントスカウトキャラバンもそうですね。当時会社の売り上げが10億円の時に1億円の経費をかけて開催した。正直、スカウトキャラバンの目的は全国に出向いて行って、会社名を売って、会社のブランドを作ろうというのが目的だった。うちのタレントは若い子が多かったから、会社が親に信用されないとスカウトが難しかった。だから会社名をもっと知ってもらおうと始めたんです。でも、結果的に榊原郁恵、堀ちえみ、山瀬まみ、井森美幸、鈴木保奈美、深田恭子をスカウトできた。また同時に会社の知名度も上がったんです。
―最後に起業家を目指す若者にメッセージを下さい。
堀:要するに、技術などのテクニカルな部分で起業しようとすると失敗すると思う。自分を信じて行動する。いつも自分に正直に。そしていい顔を作る。また若いうちはたくさん失敗したらいい。失敗して学ぶ。若いうちに成功するのは、あまり良くない。負け戦を知らないと、驕り昂ぶりにつながる。人間が傲慢になりますよ。負け戦を知っていた方が、起業家として長続きする。だから自分を信じて、若いうちは破天荒に生きればいいと思います。みなさんも、思いっきり若気の至りをすればいいと思います。それがきっと財産になりますよ。
PROFILE
プロフィール
堀 威夫(ほり たけお)プロフィール
株式会社ホリプロ創業者、元会長・社長。現、取締役ファウンダー。1932年10月15日生まれ。神奈川県出身、A型。明治大学商学部卒。戦後ギターを独習し、数々のバンドを結成。日本一のギタリストといわれたが、才能の限界を感じ、1960年にホリプロの前身の(有)堀プロダクションを設立。63年に(株)ホリプロダクションを設立し、代表取締役社長に就任。舟木一夫、和田アキ子、山口百恵を育て上げると同時に、近代的マネジメントを導入して世界でも有数の芸能プロを築き上げた。2002年には東証一部にも上場。趣味は読書、ゴルフ、ダイビングなど。
企業情報
設立 | 1963 年1月16日 |
---|---|
資本金 | 45億8,300万円 |
売上高 | 198億900万円 (2010年3月期実績) |
従業員数 | 242名(平成18年3月末) |
事業内容 | タレントの発掘・育成を強みとするマネージメント事業を中心に、番組やCMを制作する映像事業、ミュージカルなどの演劇をプロデュースする公演事業など、さまざまな事業を複合的に展開する総合エンターテイメント事業 |
URL | http://www.horipro.co.jp |
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