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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

楽天株式会社 代表取締役会長 兼 社長 三木谷 浩史

日米ITトップ対談

グローバルで始まった変革の波に乗り遅れるな

楽天株式会社 代表取締役会長 兼 社長 三木谷 浩史

※下記はベンチャー通信61号(2015年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

―ティールさんは1996年にネット決済の分野で起業しました。いわばFinTechベンチャーの草わけです。この事業領域で成功できた理由を教えてください。

ティール 「ひとりめのユーザーに使ってもらう難しさ」を克服する方法をみつけたからです。金融の世界はとくにそうですが、新しい技術を最初に採用してくれるところを見つけ出すのが難しい。なぜ円やドルが使われるのかといえば、それは「ほかの人も使っているから」。“自分ひとりが使っている通貨”なんて、ありえないのです。だから、だれも新しいものを使いたがらない。1960年代にクレジットカードが登場したときも、店舗や消費者に普及するまでに大変な時間を要しました。

 ですから、PayPalではそこをどうやって解決するか徹底的に追求しました。結論は、だれもがすでに使っているものと組み合わせること。つまり、お金と電子メールを結びつけたのです。電子メールを使っている人は億単位でいるわけですから、それに決済サービスをくっつければ普及するはずだと考えたのです。

―それが功を奏し、PayPalは順調に業績を伸ばしていました。それなのに、どうして会社を売却したのですか。

ティール シリコンバレーでは、株式公開するのではなく「大手企業に売却したい」と考える起業家が増えていて、私もそのひとりだったからです。起業家が目指しているものが昔とは変わってきています。買収されることを祝うわけです。

三木谷 それは賢い選択だと思いますね。これはライフスタイルの問題でもある。たぶん、日本の起業家はちょっと頑固なんでしょう。小さな時価総額でも株式公開しようとしてしまう。「売却はしたくない」「なんとか維持したい」と。

ガラパゴス発想を超え世界標準を採用せよ

―三木谷さんはEコマースの領域で大きな成功をおさめました。今後、どう金融分野を伸ばしていきますか。

三木谷 いま、楽天グループの売り上げの半分は金融です。金融ビジネスではビッグデータを使えるのが楽天の大きなアドバンテージだと思います。クレジットカードをアメリカと台湾でも発行し始めたので、今後は国をまたがるグローバルなビジネスを確立することが課題です。

―金融業界をどのように変えようとしているのか、ビジョンを聞かせてください。

三木谷 もう変化は始まっているのではないでしょうか。みなさんネットを使って株の取引をしていますし、送金もしている。問題は、そうしたことを包括するネット決済の仕組みをつくれていないこと。その原因のひとつは、あまりにも保護主義的な政府の規制です。

 たとえば、東京証券取引所での取引時間は今も9時から15時です。しかもランチタイムはクローズしてしまう。ほかの国の取引所に行くと、24時間365日オープンです。日本ならではの古い規制というものがあります。私たちが先を行くには、ここから変えていく必要があるでしょう。

 好むと好まざるにかかわらず、政府や業界がグローバルスタンダードを採用せざるを得なくなっていきます。そのほうが圧倒的にコストが低いからです。そういう時代が来ます。

ティール 私もそう思います。グローバルサービスはただ単に採用すべきものです。日本のなかだけで通用するガラパゴスなサービスをつくりだすのは避けるべきです。もっと悪いのは、東京オリンピックで海外からの注目が集まるのを機に「ガラパゴスのサービスをグローバルに広めよう」なんて考えること(笑)。

競争するのではなくオンリーワンになれ

―ティールさんは『ゼロ・トゥ・ワン』という著書を上梓し、日本でも評判になっています。読者になにを伝えたかったのですか。

ティール 「独占を目指せ」ということです。なにか新しいことをすれば、その分野で独占ができる。独占を「悪いことだ」と思う人もいるでしょうが、起業するのであれば、狙うのはそこでしょう。Googleがその成功例です。この10年以上、競合はありません。

「競争しよう」と思うのではなく、誰もやっていないことをやれということです。

三木谷 楽天の場合はちょっと違います。私たちのミッションはローカルな経済に力を与えることです。中小企業に活力を提供するのが目的で、そのビジネスを取りあげることではありません。

 これはビジネス戦略としてだけでなく、持続可能な組織になるために重要。Amazonは既存の小売店と競争しようとしていますが、私たちはそうではない。たとえば富山の小さな店舗が世界中のユーザーに商品を販売できるようにしているわけです。また、社員たちにとっても「自分たちは社会に新たな価値を提供しているのだ」「既存のビジネスを奪おうとしているのではないのだ」と誇りをもてるのです。

ティール その観点は重要ですね。私たちはつねに疑問を投げかけなければいけません。「自社のためだけになっていないか」「コンシューマーのため、社会のためになっているかどうか」。重要なのはつねに会社のミッションを考えることです。

楽観主義を身につけて新しいことに挑戦しよう

―日本にシリコンバレーのような起業するのが当たり前の風土を根づかせるには、なにが必要でしょう。

ティール 楽観主義かもしれません。シリコンバレーがあるカリフォルニアは楽観的です。2万人がハリウッドに行って、そのうち20人くらいしか映画スターになれない。でも「スターになれる」と楽観している。日本は教育水準が高いし、情報もたくさんもっている。だから、もっともっとできることがあるのに、でも「それはできない」と思っている。

 2008年、テスラ・モーターズのCEOになった直後のイーロン・マスクと話をする機会がありました。そのとき「アメリカで最後に成功した自動車会社はどこか」と聞かれた。1941年のジープが最後だと。67年間、自動車業界ではだれも成功していなかった。だからこそ「そろそろ新しい会社を立ち上げるべきだよね」と。とても楽観的な言葉が印象に残っています。
PROFILE プロフィール
三木谷 浩史(みきたに ひろし)プロフィール
1965年、神戸市生まれ。1988年に一橋大学商学部を卒業後、株式会社日本興業銀行(現:株式会社みずほ銀行)に入行。1993年、ハーバード大学にてMBAを取得。1995年に株式会社クリムゾングループを設立。1997年に株式会社エム・ディー・エム(現:楽天株式会社)を設立し、代表取締役に就任。インターネット・ショッピングモール『楽天市場』を成長させ、2000年に日本証券業協会へ株式を店頭登録。2004年にJリーグ・ヴィッセル神戸のオーナーに就任し、さらにプロ野球界にも参入。50年ぶりの新規球団・東北楽天ゴールデンイーグルスを誕生させた。2012年に一般社団法人新経済連盟の代表理事に就任。現在は楽天株式会社の代表取締役会長兼社長のほか、公益財団法人東京フィルハーモニー交響楽団理事長なども務める。近著に、経済学者である父との共著『競争力』(講談社)。
PayPal 創業者 ピーター・ティールプロフィール
1967年、独フランクフルトで生まれ、米カリフォルニア州で育つ。 1989年にスタンフォード大学で修士号を得た後、同大学のロースクールへ進学。1992年に法務博士に。 1993年からクレディ・スイス・グループでデリバティブ取引に従事。1996年にオンライン決済で金融革命をめざす会社を立ち上げる。その後、イーロン・マスク(現:テスラモーターズCEO) 率いるX.comと合併し、社名をPayPalへ変更。同社を急成長させた後の2002年に15億ドルでebayに売却。5,500万ドルの持ち株売却益を得た。それを元手に同年、ヘッジファンドを設立。 2004年、時価総額が490万ドルだったFacebookに50万ドルを融資。その後、貸付金を株式に転換し、2012年の同社のIPO後に株式売却益として累計10億ドル超を得た。現在、ヘッジファンドのクラリアム・キャピタルCEO、 ベンチャーキャピタルのファウンダースファンドのパートナー。
企業情報
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