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INTERVIEW 業界別起業家インタビュー

株式会社Inner Resource Founder・取締役 石川 裕己

「研究現場のDX」を目指すベンチャー創業メンバーの決意

業界特化型の購買管理DXツールで、日本の科学研究力を底上げする

株式会社Inner Resource Founder・取締役 石川 裕己

研究者向けに特化した購買管理システム『reprua』。開発元のInner Resourceによると、研究現場における業務効率化の効果が高く評価され、利用者の数は順調に増えているという。このシステムを開発した狙いについて、同社の創業者の一人で取締役を務める石川氏は「科学研究をめぐる国家的な課題にチャレンジするため」だと話す。石川氏らが挑む課題とはなんなのか。Inner Resourceの目指すビジョンと合わせ、同氏に聞いた。
※下記はベンチャー通信90号(2024年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

日々の煩雑な事務のために、研究者の時間が奪われている

―事業内容を教えてください。

 研究用試薬・消耗品の購買管理システム『reprua』を開発しています。『reprua』の利用者は、バイオ系ベンチャーや大学、食品・素材・化学・製薬などR&D機能を有するメーカーのほか、それらの企業・機関に商品を販売する理化学系商社です。購買にまつわる一連の事務を効率化できる点が評価され、利用者数は毎年2桁の増加率で伸びています。その背景には、業界のデジタル化の遅れが研究者の業務負担につながっていたという実情があります。当社は、私を含め、そうした業界の実情を知る複数の有志が立ち上げた会社であり、「研究者が研究に没頭できる世界を創る」というミッションのもとで事業を展開しています。

―石川さんたちは、どのような経緯で会社の立ち上げにいたったのですか。

 私はかつて理化学系商社に勤め、研究者に商品を販売していました。そこでは業界特有のルールやそこに紐づく独特の商習慣を背景に、紙ベースのアナログな取引が残っており、その煩雑さを私自身、毎日実感していました。しかし、それは裏を返せば、顧客である研究者も同じです。研究者は、研究で得た成果を科学や医療の発展につなげることが本業なのに、そのための時間は煩雑な事務に日々奪われている。商品の提供を通じて研究活動を支える立場の自分に、できることはないだろうか。そうした問題意識を私はもつようになっていました。ただし、一商社がこの問題に取り組んでも、その企業と研究者の間の部分的な改善にとどまり、業界全体の改善にはつながりません。そこで、同じ問題意識をもつ有志が集まり、第三者的な立ち位置から研究現場のDXを目指す会社として2017年にInner Resourceを設立したのです。

研究の生産性向上に貢献

―設立から約7年間をどのように振り返っていますか。

 設立の目的である「科学研究をめぐる日本の課題の解決」に向け、基盤を固められたと思っています。その課題とは、「いかにムダを削減し、研究の生産性を高めるか」というものです。課題の対象となる日本の研究費用は、全体の7割を「人件費」と「消耗品の購入費」「機器の購入費」の3つが占めるとされます。そこで『reprua』には、これらの費用を低減するために「購買管理」「在庫管理」「機器管理」の3機能を実装してきました。メイン機能に位置づけられる「購買管理」は、購買に関する事務負担を減らすことで「人件費」の削減に貢献します。残り2つの機能は、在庫状況や機器の稼働状況を可視化することで「消耗品」と「機器」の購入費のムダを抑えるものです。我々は『reprua』の提供を通じ、これらの費用を抑えつつ研究者が本業に没頭できる環境をつくることで、研究をめぐる国家的課題に挑戦したいのです。

―今後のビジョンを教えてください。

 『reprua』ではすでに、購買事務をひと通りデジタル化できる仕組みを整えることができました。今後は、研究者と直接かかわる理化学系商社などとも連携しつつ、『reprua』をより多くの研究者に広め、さらなる機能の充実を進めていきます。それにより、日本の科学研究力の底上げにつなげていくことが我々のビジョンです。

このシステムがある限り、研究者は本業に専念できる

 当社では、独自の光学技術やAIなどを用いた細胞分析システムを開発し、創薬や細胞治療、診断への応用に向けた研究を手がけています。研究に用いる試薬や消耗品の購買は、約30名の研究者自身が毎日、必要に応じて行っています。設立当初は、事業者とのやりとりをメールで行い、調達した試薬・消耗品はすべて紙の帳簿で管理していました。当時は、一連の事務作業をすべてアナログで行うのは当たり前のことで、「研究者の数が少ないから、いまはなんとか研究活動が成り立っている」と、問題意識もそこまで強くもっていませんでした。

 しかしその後、研究者の数や購買量が増えていくなか、研究者が煩雑な事務に追われることの問題に気づき、2019年に『reprua』を導入しました。

 『reprua』では、相見積もり依頼から発注、納品、検収、請求管理までの「購買管理」にとどまらず、その後の入出庫登録、使用履歴登録、棚卸し、補充発注といった「在庫管理」まで、シームレスに行えます。現在の当社は、研究者の数や購買量が『reprua』導入前と比べて大きく増えましたが、一連の事務にかかる負担ははるかに軽減されていると感じています。『reprua』の導入により、従来のアナログな事務作業がいかに研究者たちの貴重な時間や労力を奪っていたかに、気づくことができました。その気づきこそが、いちばんの導入効果かもしれません。

 『reprua』はいまでは、業務上欠かせない必須のシステムとなりました。今後、会社がどんなに大きく成長し、研究者の数や購買量が増えていっても、このシステムがある限り、研究者が自らの研究に専念できる環境を維持できると思っています。
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